「姉貴!」
「わひゃっ!?」
耳元で、しかも大声で叫ばれて驚く。
てゆーか考え事してる時に驚かさないでよ!
「さっきから呼んでんのに何だよー?」
「ご、ごめん・・・」
「なーんだ、まーだ返事迷ってんの?」
「だって・・・もうこんなチャンスないかもしれないし・・・」
「はーあー」
大きな溜め息を吐く弟に、あたしは首を傾げる。
「緑国の再建なんて考えないで、自分に正直に生きろって」
「・・・何のこと?」
「緑国は滅びる運命なんだ。姉貴は、父上に洗脳されすぎ」
「・・・だから、何の話してるの?」
「知ってるくせに。あいつが、青国の王子ってこと」
自分の身体が強張るのが分かった。
どうして、その事を知ってるの。どうして、ミクオが、その事を知ってるの。あたし、話した事なんてない。
「話さなくても分かるよ・・・姉さん」
久しぶりに呼ばれたな、『姉さん』なんて。成長していくにつれて生意気になってく弟は、小さな頃は『姉さん、姉さん』ってあたしの後ろをついてくるのが精一杯だったくせに。こんな時だけ、昔の呼び方するなんて卑怯よ。
「お願いだから、潰れかけてる緑国の事なんて忘れてよ」
「国が、潰れかけてるのに・・・あんたは、何とも思わないの?」
「思わない訳ないよ」
「じゃあ、どうして!? 国民は飢えで次々と死んでいるのに、貴族や王族のあたし達が生き延びてるのよ!? 彼らを助けるためには、政略結婚しかないって、父上は・・・!!」
そこまで叫んで気付く。ミクオは両目を見開いて驚きの表情を見せてる。それに気付いたあたしも、目を見開く。
この話、きっとミクオは知らない。ただ、カマをかけただけ。バカだ、あたし。ミクオは全ては知らなかったのに。あたしは感情に任せて全て話してしまった・・・!
「政略結婚・・・やっぱり、父上にそそのかされたんだ」
「ち、がう」
「父上は、緑国を再建するための犠牲に姉さんを選んだ・・・自分の娘の人生を犠牲に、自分達の保身を守ろうとしてる」
「・・・ちがう!」
「違わなくない。姉さんは、何も犠牲にする事はない」
父上にそそのかされた訳じゃない。あたしが、自分で選んだこと。あたしは、確かに家族を守りたい気持ちもあったけど、緑国が好きだから。あの暖かい国が好きだから、自ら進んで政略結婚することを決めた。だから、誰も悪くない。カイト王子と結婚すれば、緑国は再建できる。そうしたら・・・父上が亡くなった後、ミクオ・・・あなたが継いで王様になる。そうすれば、他国からの援助がなくても緑国は一国として立派に進んでいけるはず。
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