~序章~
「あれ?なんだろう?」
部屋に戻ると机の上に一冊の本が置いていた。
「みきネェのかな?」
僕はみきネェに聞いてみる。
「私のじゃないよ。でも、面白そうだね。」
「人柱アリス…。確かに気になる。」
「ピコ、読んでみない?」
「でも…。」
「チョッとだけなら大丈夫だよ!」
「…そうだね。」
ピコとみきは『人柱アリス』の一ページ目を開く。
『―Who is the next Arice?―』
『あるところに、小さな夢がありました。
誰が見たのかわからない、
それは本当に小さな夢でした。
小さな夢は思いました。
このまま消えていくのはいやだ。
どうすれば、人に僕を見てもらえるのだろう。
小さな夢は考えて考えて、
そしてついに思いつきました。
人間を自分の中に迷い込ませて、
世界を作らせればいいと……――――――――。』
あるところに、小さな夢がありました。
誰が見たのかわからない、
それは本当に小さな夢でした。
小さな夢は思いました。
「このまま消えていくのはいやだよぅ。
どうすれば、人たちは私を見てくれるの?」
小さな夢は考えました。
ですが、いくら考えても何もいい案が思いつきません。
ついには、小さな夢は泣き出してしまいました。
「どうかしましたか?」
ちょうどそこに、大きな夢が現れました。
「そのようなことですか?その問題を解決するのは簡単ですよ。
人間を自分の中に迷い込ませて世界を作らせればいいのです。」
「そんなことができるの?」
「えぇ。まずは、お手本を見せましょう。あなたの名前は?」
「…ユキ…」
「では、ユキちゃん。私を見ていてください。あ、私はキヨテルです。」
「はい!…あ、あの…」
「?」
「先生って呼んでもいいですか?」
「……いい…ですよ。」
人柱アリス
~一番目~
「あの、起きてください。」
どこかで声が聞こえます。男の人の声です。
「あの~」
「あ~!うるさいうるさいうるさい!起きればいいんでしょ、起きれば!」
こう言いながら女は勢いよく起き上がります。
「あだ!」
「っ!」
女の額と何かがぶつかりました。
「った~…!」
額をぶつけたことですっかり目が覚めてしまった女は辺りを見渡します。
女が寝ていたのは、女が見たことのない、行った覚えのない森の中だったのです。
「やっと起きてくださったのはいいですが、
いきなり起き上がらないでくださいよ、アリス。」
声のするほうへ女が顔を向けると、額を押さえたスーツ姿の男が立っています。
「こ、ここはどこなの!それに、私はアリスじゃないわ!メイコよ、メ・イ・コ!」
女、メイコが言います。
「そうですか、アリス。」
「………」
「ここは…簡単に言えば不思議の国…ですね。そしてあなたがこの国の新しいアリスです。」
「不思議の国ってあの『不思議の国○アリス』の?…ククク…アハハハハハハハハ」
メイコは大声で笑う。
「どうしたのですか?アリス?」
「ハッハッハ…。じゃあ、あんたがウサギ役?フフ…。」
「…そうなのかもしれませんね。」
「っ!私を馬鹿にしてんの!アリス?あれは絵本の中での話よ!もしここが本当に不思議の国だったら、どうして私がいるわけ?」
メイコは男の胸元をつかみます。
「私は、あなたをこの国へ導き、あなたをアリスにするためにいるだけの存在です。」
「ふぅ~ん?で?私を連れてくることができるなら帰る方法も知ってるわよね?」
「えぇ、知ってますとも。」
メイコは男の胸元から手を離す。
「ですが、あなたがこの国のアリスになってくださらないのでしたら教えてさしあげられません。」
「そんな!」
「アリスに…なってくれませんか?」
「嫌よ。」
男はため息を吐くと
「あなたが心の奥底でやりたいと思っていることがこの国ではできるのですよ。例えば…、人を…殺す…など。」
「そ、そんなこと。」
メイコはあわてて言う。
「どうしてあわてるのです?私の言っていることが信じられないのですか?」
「わ、私は人を殺そうなんて思ってもないし、思いたくもないわ!」
「本当にそうですか?」
男はメイコに近づくと何か呪文のような言葉を呟く。
次第にメイコはのどを押さえ
「のどが…かわいた…。」
「なら、飲めばいいじゃないですか。…人の…血を。」
男はメイコの耳元でささやく。
「どうやって?」
「人を殺して飲むんですよ。この国ではいくら人を殺しても捕まったりはしませんから。」
「・・・そうね、あの真っ赤な血を飲み放題…。最高だわ。」
こう言ったメイコの目は殺し屋の目になっていました。
「アリスになってくれますか?」
「えぇ、いいわよ。こんな素敵な国へ連れてきてくれたのだからそれくらいはお返ししないとね。アリスにはどうやればなれるの?」
「アリスはアリスですよ。それ以外の何でもありません。」
「?」
「アリスになってくださるならばこれを差し上げましょう」
男はどこからか剣を取り出しメイコに渡した。
「ありがとう。」
メイコが顔を上げるとそこには男の姿は影ひとつ残っていなかった。
森をぬけ、ある町に出たメイコ。
人々は幸せそうな顔をしてメイコの前を通り過ぎてゆく。
どいつから殺そうか考えているとメイコの周りには小さな子供たちが集まっていた。
「お姉~さんの持ってるこれって何?」
女の子がメイコの持っている剣を指差す。
「リツ様、こっちへ、来て、ください!」
緑の髪をツインテールにしているメイド姿の女性はこの小さなリツという子を呼ぶ。
「は~い。どうしたの、イク?」
「はやく、奥様の所へ、行きましょう。」
と、緑の髪の女は、リツという子を連れて走ってゆく。
「ねぇ、これって剣でしょ?」
「カッコいいな~。」
顔のよく似た女の子と男の子が言う。
意外なことにこの二人だけは殺したくないと思った。
「セン、レツ、お母さんが待ってるよ。」
紫の髪の女の子が二人に言う。
「あ、うん。バイバイ。」
「ミルちゃん、待ってよ!」
二人が幸せそうな顔をして走ってゆく。
(どうしてそんなに幸せそうな顔をするの?どうして私だけあんな目に…。幸せな奴が、
憎い、憎い、憎い、憎い、ニクイ、ニクイ、ニクイ、ニクイ、ニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイ!)
メイコは持っていた剣を握り締めた。
(そうだ、殺してしまおう。そうだ、そうだ、殺してしまえばいいだ。じゃぁ、殺そう。それで、あいつらの血を飲もう。あぁ、のどが渇いた。はやく殺そう。早くあいつらの血で私ののどを…。殺そう。殺そう。殺そう。殺そう。殺そう。殺そう。殺そう。殺そう。殺してしまおう。殺してしまおう。殺してしまおう。殺してしまおう。殺してしまおう。
コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス)
メイコは走り出し、さっきの二人に斬りかかる。
そして、傷口に手を入れ血をすくいだした。
生温かい血をすするメイコ。
「まだ…、まだ…足りない…。」
メイコは近くにいた紫の髪の女の子にも斬りかかった。
メイコはその子をめちゃくちゃに切り刻み続けた。
そして、あたりを見わたすと、
「次に殺してほしいのは…誰かしら?」
周りの人々は逃げ出した。
少しでも生き延びようと。
メイコに追いつかれないように。
自分が生き延びるためだけに…。
「アハ、アハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
メイコは笑う。
「さぁ、逃げまといなさい!恐怖に満ちたその声を私に聞かせてごらんなさい!」
そしてメイコは、走り出した。
追いついた人々を次々と斬り捨てて、いろんな町を回り、そして、その町でも人々を斬り捨て続けた。
メイコの服は真っ赤になっていた。
人々の血でできる真っ赤な服。
世界でひとつしか作れないであろう、たくさんの人々の血を浴びてできた服。
「そうよ!もっと聞かせなさい!私にその恐怖の声を!アハハハハハハハ…」
メイコの走った後の道には人々の亡骸とその人々の血だけが残っていた。
その道はまるで真っ赤なシートを敷いたような道のようであった。
気がつくと、メイコは自分で敷いた真っ赤な道の上に立っていた。
「…………」
風の音とその風で揺れる木々などの音しかしない。
それ以外の音といえば…
―自分の鼓動の音―
そのほかの音はまったく聞こえない。
人々が恐怖で泣き叫ぶ声も…。
そう、メイコはこの国、この世界を一周したのだ。
だがメイコはまだ斬り足りなかった。
(私だけがあんな不幸な目にあったのにどうして笑っていられる人間がいるの。私と同じ苦しみをもっと、もっと!)
その時、ガサガサと風も吹いていないのに雑草が揺れた。
メイコは笑っていた。
まだ、自分と同じ苦しみをあじあわせることができると。
そのメイコの笑みは、とても、とても不気味な笑みだった。
メイコは音のしたほうへと歩き出した。
「さぁ、隠れてないで出ておいで~。私がうんっと可愛がってあげるから。」
だが、強い風が吹きメイコは目を瞑ってしまった。
あの出来事はほんの一瞬の出来事だった。
目をあけたメイコは周りを見わたしていた。
理由は簡単だった。
メイコが目を瞑った一瞬のうちに周りの景色が森へと変わっていたのだから。
「アリスに…なれませんでしたね」
声のするへ顔を向けると自分をこの世界へと連れてきた男が立っていた。
男が指を鳴らすとメイコの目は元に戻ったがそれと同時に周りの木々からツルが伸びてき、
メイコの両腕から体、足に巻きついた。
「一番目アリスは勇ましく、剣を片手に不思議の国。いろんなものを斬り捨てて、真っ赤な道を敷いていった。」
男はメイコの声で言う。
「な、なんなのよ!これ!」
「あなたの唄ですよ。一番目アリス。」
男はメイコの声で続けます。
「そんなアリスは森の奥、罪びとのように閉じ込められて、森にできた道以外に彼女の生を知る術はなし。」
「イ、 イヤァァァァァァァーーーーー!」
メイコは叫びます。
「道を切り開くだけでは、アリスにはなれませんよ。」
男はメイコに背を向け、
「さよなら、一番目アリス。」
「ま、待って!あなたは、誰なの?」
男は振り向かず、
「私は、私です。それ以外の何でもありません。」
こう言うと、どこかへ歩き去ってしまった。
「イヤァァァァァァァァァァァ!誰か、誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
後に残ったメイコは叫び続けました。
ですが、その声は誰の耳にも届きません。
なぜなら、この国にはもうメイコ以外の人間はいないのですから…。
メイコの声は果てなく続きました。
その声は、人々の泣き叫ぶ声よりも恐怖に包まれていました…。
「先生、すご~い!でもどうしてあの女の人は、人々を殺したがっていたの?」
「簡単なことですよ。彼女はごく最近、大切なものを奪われて、心の闇に侵食されていましたからね。では、次はユキちゃんがやってみましょうか?」
大きな夢がこう言うと小さな夢は、うなずき走って行きました。
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