-第十一章-
リンは紙袋の中をごそごそと漁り、お目当てのものを見つけると嬉しそうにそれを取り出し、部屋を出た。進む先は勿論一つ、レンの部屋に他ならなかった。
コンコンと何度かノックし、反応ナがないことを確認すると、リンはにやりとわらってわざと中に聞こえるように、声を上げた。
「次の試練は何かなぁ?どんな守護者が相手なんだろぉ?メイコ姉に聞けばわかるかなぁ?」
その言葉に、レンも反応する。一般人に、そういった情報は漏らしてはいけないのだ。
それを、リンもわかっていて言っているのだ。しかも、この声はメイコがいる部屋に届くであろうほどの大きさだ。その証明に、メイコがリンのもとへ来て、
「どうしたの?」
と、聞く。
「あ、あの、それがね――」
「まっ――…」
その瞬間、レンがドアを開けて飛び出した。前のめりになって、前方をよく見ずに出てきたものだから、しばらくの間、何が起こったのか理解できていない様子だった。レンガ飛び出てきた瞬間に、リンは手にはめていた『お目当てのもの』をレンの顔へと向けた。
『お目当てのもの』は、パンダのハンドパペットだった。手を入れて口をパクパクさせて遊ぶ、あれである。それは、レンの顔へと向けられて、レンはそのままそこに突っ込み――。
「っ…?」
一瞬息ができなくなったかと思うと、それはレンの唇に柔らかいタオルのように張り付いていた。
「キスゲットぉ♪」
「…はい?」
「あら、まあ」
「レンのキッスはパンダ君のものでーっす!!」
「はぁ!?」
急激な展開に、レンはついていけずに途中に、何度かとめようとしてみたが、リンのハイテンションは止まらない。ずっと嬉しそうに大声でキスだのパンダだのと騒ぎ立てているのだ。つまりは、レンを部屋の外におびき出そうとしていたのだろうが、それからどうするということは考えていなかったらしい。
「…で?どうしたの?試練がどうのこうのって…」
「なんでもないの!レンとやってる遊びの話。ねえ、レン。今日買ってきたお菓子があるから、皆で食べよう。ホラ、クリームのところとかあるから、早く食べたほうがいいでしょ?」
「え?あ、うん…。そう、だね。食べようか。パンダもしまっておいでよ」
そういうと、レンはメイコの背中を押してカイトがいるはずの居間(兼事務所)へと向かった。その表情からは、笑顔がこぼれていた。
「あーあ。つまーんないっ」
回転椅子をぎしぎしと鳴らしながら、メグは言った。
それを見た神威は、少し呆れたようにため息をついて黒縁眼鏡を少し上へと中指で押し上げてみせ、それからメグの前に数冊の本を出した。しかし、メグには本を渡される覚えなど全くない。
「…なぁに?」
「それでも読めば、暇じゃあなくなるぞ」
「…そりゃどーも。」
半ば呆れた様子でメグはその本を手にとった。何せ、神威の持っている本と来たら、時代劇のような物語のものしかなく、メグたちのような年頃の女の子が読む内容ではないのだ。
しかし、渡されたからには読まないわけにもいかず、メグはとりあえずその本をぱらぱらとめくりだした。次第に本の世界に入っていってしまうのがメグの癖で、中の人物になりきってしまう。一時間もすると物語を読み終え、ふう、と一息ついた。
「どうだ?」
「…まあまあね。この間貸してくれた…えっと、何だったっけ?」
「『雪花の陽炎』?」
「ああ、それそれ。あれは結構よかったな。誰が書いたんだっけ?今度、その人の本、もう一冊買ってきてよ」
「自分で買えばいいだろう。私は自分が読みたい本だけ買う」
「そう。別にいいけど。こっちの本の人はね、ちょっと句読点を打つのが下手かな」
そういって、メグはよく知りもしない相手の本の内容をどうのこうのといって、楽しんでいる。その間も、神威は手に持った小説から目を離そうとしない。
メグも、別の本に手を伸ばした。
くすり、とメグは笑った。
また、飛び立とうとする小鳥を見つけ、ルカは素早く白いスケッチブックにその光景を鉛筆で静止画を写すように書き上げた。躍動感に溢れるその絵に、色鉛筆で柔らかいタッチで色を付けていく。緑と黄色の鮮やかな小鳥がリアルな質感で、再現されていく。今にも動き出しそうだ。
「…そろそろ、時期かしらね」
そう言って外を見、ため息をついたルカを見て、式神は意味がわからないというように首をかしげた。
「…冬が…来ますね」
「ソウデスネ」
少しぎこちない声で返した式神は、微笑んだ。その表情に、ルカは微笑みで返した。
大きなあくびをして、メイトは缶ビールを口に運んだ。
一人用のソファの肘掛にもたれるようにし、もう一つの肘掛に両足をかけて、既にビールも五本目だ。そろそろやめておかなければ、べろんべろんによってしまいそうだが、どうもメイトは酒に強いらしく、顔がうっすらも赤みがかっているくらいだ。
ふと窓の外へ目をやると、一匹の猫がこちらを見ていた。じっと見つめ返してみたが、猫も目をそらそうとせず興味深げにこちらを見つめてきた。テーブルにあった魚肉ソーセージの欠片を見ると、それを皿ごと持って窓の近くに置くと、猫はそれから目を離さなくなった。そっと窓を開けて猫を室内に入れると、すぐに猫は皿のほうへ走りより、嬉しそうにがっついている。その姿にメイトは目を細めた。
優しく、微笑んだ。
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リオン
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こんばんは!
うぇい!?さ、最終回だったんですか!?(←?)
さて。もしかするとレンは既に経験者かも…。ねぇ?
リンも意外とワルだったようで(汗)まだまだレンもがきんちょです。
こっから本題に入りますよ♪
あ、ありがちです。ものによってはシリーズでそれが何回も何回もあるんですよねぇ。
しかも凄い感動した次の話が何の進展もない、ギャグ系のときとかは絶望します…。
中間テストですか!頑張ってくださいね!そのためにはこんなよくわからない小説読んでる場合じゃないですよ!六法全書とか読んでおいたほうが…え、あ、違いましたか。スイマセン。
今日の投稿もぜひぜひ、みてやってくださいまし。
2009/10/01 20:28:12