「ええっ!?きゅ…休暇!?」


 ルカの驚愕の声から、『それ』は始まった。

 目の前に座るヴォカロ町警察署捜査一課課長―――橋本喬太郎は笑ってうなずいた。


 「うむ、そうだ。巡音君、君には一か月ほど休暇を取ってもらう。」


 呆気にとられていたルカの顔に、徐々に焦燥が浮かんでくる。

 そして突然、おびえたような表情で橋本に詰め寄った。


 「わ…私何かしました!?書類にミスしてサインしちゃったとか……まさか、誤認逮捕とか………!!」

 「ああ、そんなことじゃないんだ…。君、これまでに休みをとった回数、数えられるか?」

 「へっ?」


 おろおろしていたルカは、突然の橋本の質問に間の抜けた声を上げる。


 「…もうかれこれ、君がここに勤めだして15年半になるのかな?君はよく働いてきてくれたが……全然休暇をとってないだろう。こないだ少し気になって調べてみたところ……君が休んだ回数は、過去15年半でわずか25日。たった一カ月分にも満たないんだ。」


 周りからどよめきが漏れ、思わずルカは顔を赤らめた。


 「更に言うなら、このうち十五回は正月の当直交代による一時帰宅、四回はここ最近の『大騒ぎ』によるものだ。あの大騒ぎ……正直あれは休みにはならん方だろうけどね。」


 がくぽ・リリィの襲来の話だ。確かにどちらの戦いでも、腰の骨を砕かれたり暴走したカイトに巻き込まれたりと、ルカの体は休まる暇などなかった。自らのことながら、思わずルカはひきつった笑いを浮かべる。


 「つまりだ。君が自分の意思で取った休暇はたったの六日なんだ。非番すらも潰し、仕事に従事してくれるのは喜ばしいのだが、いくら夕方早目に帰っていると言ってもこれでは対して家族との時間も取れんだろう。だがらこの際、まとめてざっくり休んできたらどうだね?」


 橋本の提案に対して、ルカは戸惑っている。当然と言えば当然だ。突然『一カ月休め』と言われ、戸惑わないほうがおかしい。

 しかもルカは並の警察官ではない。検挙率100%の捜査一課きってのスーパー警官、そして被疑者確保、取り調べ等々に対する切り札だ。本人にもその自覚はある。

 そんなルカが気にすることと言えばもちろん―――――


 「だ…だけど、私が一カ月も休んだら犯罪者が野放しに……!」


 しかしルカの心配はどこ吹く風といった様子で、橋本が不敵に笑った。


 「……我々では不服かね?」

 「…え?」


 きょとんとしたルカの前に立ちあがり、腰に手をあてる。それに倣うかのように、周りの仲間達もルカに顔を向ける。


 「我々が君の抜ける穴を全力で埋めよう。君の『心透視』ほどではないが、ヴォカロ町警のネットワークもなめたものじゃない。君の機動力ほどじゃないが、我々の身体能力だって後れを取るつもりはないよ。」

 「先輩、私たち頑張りますから、ゆっくり休んできてくださいよ!」


 ルカの後輩である相原夕希が笑いかけるが、それでもなお渋るルカ。どれほど身体能力があろうと、ボーカロイドたるルカの穴を埋められる人材がいるとは思っていなかったからだ。

 しかし―――橋本の考えはルカの想像を超えていた。


 「さらに―――『彼女』もいることだしな。……入りたまえ!」


 入口に向かって叫ぶと、一人の女性警察官が入ってきた。

 ルカはその警察官を見て、目を丸くした。


 「あ…あ!?」


 一見普通のミニスカポリス―――しかしその髪は鮮やかな黄緑色で、頭には帽子の代わりに赤いゴーグルを着けている。

 そこに入ってきたのは―――――



 「―――本日付でヴォカロ町警察署捜査一課に配属になりました、メグッポイド刑事ですっ!!」



 ―――――警察官の制服を身にまとった、グミだったのだ。


 「ぐ…グミちゃん!!?」

 「えへへ…びっくりした?今日からあたしも、ルカちゃんと同じ警察官なんだ!」


 屈託なく笑うグミに、呆気にとられているルカ。橋本が再び話し出した。


 「何でもここに入ることで、巡音君と一緒にいる時間を増やしたいんだそうだ。結果としてしばらくは一緒には行動できん訳だが、とりあえずはしばらくは彼女が君の穴を代替的に埋めることとなる。正式な配属は本日付だが、これまでも時々手伝っていてもらってな。いきなり被疑者に音波術を撃ち込むなど多少強引なところはあるが、大変使える人材だ。…どうだね、巡音君?これでもまだ心配かね?」


 全力バックアップ体制の捜査一課一同に、ルカと同等かそれ以上の身体能力の持ち主であるグミの参入。ここまで来ると、ルカの心配も流石に薄れてきた。


 「…分かりました。お心遣い、ありがとうございます!ではお言葉に甘えて、一カ月ほどお暇をとらせていただきますね!」

 「うむ!」

 「ゆっくり休んでおいでよ、ルカちゃん!しばらくはあたしが頑張るからね!」


 グミの威勢のいい声に背中を押されながら、ルカは捜査一課の部屋を後にした。





 「と!言うことで……一カ月ヒマになりましたー。」

 『きゃほ―――――!!!!』


 ルカの突然の長期休暇に、ミク・リン・レンは大喜びだ。


 「何する?何する!?」

 「ルカさん、俺達と一緒にゲームやろうぜ!!」

 「何言ってんのよレンー!ルカ姉、最近歌ってないからさ、一緒にセンターステージにライブでもしに行こ!」


 矢継ぎ早に飛んでくる要求をなだめながら、ルカは一升瓶を一気飲みしているメイコのほうを向いて尋ねた。


 「ねえ、めーちゃん。しばらくの間、公務空けられたりしない?」

 「んー?できるけどぉ~?」


 完全に出来上がっている。目の焦点は無限遠の彼方に合っているし、傍らには芋焼酎の一升瓶が20本以上転がっている。しかしそんな状態でも、判断の衰えないところがメイコのもっとも凄いところだ。

 そんなメイコの返答を聞いたルカは、にまっと笑って。


 「じゃあ―――――」




 「皆で、旅行に行きましょう!!」




 『へっ!!?』


 周りの五人から素っ頓狂な声が上がった。

 しばらくその場をを静寂が支配し、その後一発で酔いの醒めたメイコから、改めて確認が入る。


 「え…えーと?旅行…旅行お!!?」

 「そ、旅行!!長期休暇なんてめったにとれないんだから、この際…みんなでちょっと慰安旅行にでも行かない?ここ数カ月、大きな戦いとか騒動とかあったしさ!」


 唖然としているメイコの隣で、晩酌に付き合わされていたカイトが満足そうにうなずく。


 「旅行か…いいね!確かに皆で旅行なんて、いっぺんも行ったことないしね!」


 その一言のおかげで、ただでさえテンションの高かった若者ボーカロイド三人衆は更にヒートアップだ。


 「え~~~~~~~っ!!?旅行!?ってことは町の外に出れるの!?」

 「マジかよ!!リンすげえぞ、町の外だってよ!!」

 「わ―――――い!!初めてだ―――――!!」


 ミク・リン・レンの三人は、生まれてこの方15年半、一度も町の外に出たことがない。と言うのも、彼女らのマスターである鈴橋喬二が『外の世界は危ない!』と言って溺愛している3人をずっと手元に置いておいたためだ。


 「メイコ姐は一度外に出たことがあるんだよね?どんな感じだった?」

 「いや、出たと言っても警察学校卒業したルカを迎えに行っただけだし…。」

 「じゃあじゃあ、ルカ姉は?よく他の警察署に出張に行ってるんだよね?」

 「事件の補佐で行ってるだけだから私の感想は正直あてにはならないわよ?」

 「あの~、僕も何度か外に出てるんだけど、マスターのお供で…。」

 『え~カイト兄の意見てあんまり参考にならなそ~。』

 「ちょ、リンレンヒドッ!!(泣)」



 「……ってちょっと待った―――――!!」



 突然メイコが大声を上げ、全員が一瞬にして目を丸くしてメイコを見つめた。


 「まだ行くと決まったわけじゃないから!第一ルカ、まさかあんた一カ月ぶっ通しで行くつもり!?」

 「そーだけど?」

 「どこに行くかも決まってないのになんじゃそりゃ!?予算大丈夫なんでしょーね?」

 「だいじょーぶよぉ。行くところの目星は着いてるわ。隣町・八又町(やつまたちょう)の海水浴場。あの近辺に私のコネがきくホテルがあるから。」

 『はいぃ!?』


 全員が驚きの声を上げる。実はルカは周辺のいくつかの町に顔が利く。あちらこちらの町に出張しては、三日以内に殺人も強盗もありとあらゆる未解決事件を片づけてしまうため、大抵の町では英雄扱いされており、出向けばスタッフ総出でお出迎えされそうなホテルがゴマンとあるのだ。


 「つまりホテル代は気にすることはない。で、この太陽さんさん照りつける常夏に海水浴場は鉄板でしょ!…どう?サイコーじゃない?」


 腕を組んで考え込むメイコ。しかしその横ではカイトがニコニコしており、目の前ではミク、リン、レンが祈るような眼でメイコを見つめている。

 完全なる四面楚歌。遂にメイコも根負けした。


 「…分かったわよ、そこまで考えてあるなら行こうじゃない!…正直なところ、あたしも海は結構好きだしね。」

 『やった――――――――――――――――――ッ!!!!!!』


 再び若者三人衆がヒートアップ。各々支度をするために自分の部屋に吹っ飛んで行った。

 そんな三人の背中を見送りながら、メイコは苦笑いしてルカを見つめた。


 「苦労するわよー?あいつらを抑えんの……どーせ海いったらはしゃぎすぎるに決まってるわよ?」

 「いいじゃない別に。あれぐらい弾けてないと、あの世の喬二博士だって喜ばないだろうしさ!」


 そう言って満面の笑みを浮かべるルカ。以前とは違う、鮮やかな笑顔だ。


 (……この子、アンドリュー博士からの手紙読んでから、よく笑うようになったな……。……まったく、単純なんだから…。)





 翌日。朝っぱらから蒸し暑く、アブラゼミの五月蠅い8月1日。

 ルカ達はヴォカロ町を飛び出し、隣町・八又町に向かう電車に乗り込もうとしていた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ボーカロイド達の慰安旅行 Ⅱ~一カ月の休暇~

ルカさん、休まなさすぎですwwwこんにちはTurndogです。

これだけ休まない人がいたら警察も大助かりだろうね。
一社に一人ルカさんはいかがですか―(売るなよ

なにはともあれみんなで旅行!
旅行っていいよね。

ところで喬二博士の件について、知ってる人は知っている。
彼には辛い過去があることを。
http://piapro.jp/t/XPJJより)
溺愛してもいいじゃない、離れたくないんだから。

もう一つ。グミちゃんは最初出る予定なかったんですよ。
ただ前作であまりにも空気すぎたので、ルカさんと同職にすることで空気感を無くしましたwww


次回!電車旅!しかし休暇中でもこの桃髪刑事は止まらない!?

閲覧数:317

投稿日:2013/03/03 19:40:17

文字数:4,256文字

カテゴリ:小説

  • コメント3

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  • イズミ草

    イズミ草

    ご意見・ご感想

    あらみなさん可愛いw
    というか、グミさんが警察……www

    リンレンがひたすら可愛い。
    テンションとか、もうタマランw

    2013/03/10 08:04:49

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      可愛いは正義だ!←
      多分犯人がすごく哀れになると思うw

      いやいや、可愛いがリンちゃんなんd(ry

      2013/03/10 20:34:27

  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    まさかのグミちゃん!
    しかし……今回、管轄外の街の外の話……あれ?つまり、また空気?

    えっと~
    公務員になれる年齢+15年半だから~ルカさんの年齢は~………………しるるは返事がない

    2013/03/05 00:11:23

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      いやいやいやwww
      だって?ボーカロイドがみんな一カ月もいなくなったら町はどうなっちゃうの!?(話を反らすな

      ルカさん『……ねぇ、Turndog?この場合しるるさんを逮捕しても許されるかしら?』
      ……世間が許さなくても俺がこの命と引き換えに許そう(泣)

      2013/03/05 00:16:14

  • 雪りんご*イン率低下

    雪りんご*イン率低下

    ご意見・ご感想

    最初にタグ吹いたの私だけですかwww「ヴォカロ町警察署の皆さん」ってww
    しかも最後まで読むとそれにグミちゃんが含まれてr(((カノン!!

    Turndogさんのルカさんってカッコイイですよねホント。私のルカさんは可愛いけど……可愛いんだけど……←
    そして若造三人衆大好きですwあのテンションの高さがサイコーです!

    さて、(何度言ったかわからないけど)リスタートおめでとうございます!
    次回からの桃髪刑事のご活躍、期待しております! であります!←

    2013/03/04 17:29:22

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      雪りんごさん、あなたは正常ですwww
      あのタグは『全員書くのがめんどくさかった』『笑わせたかった』この二つの目的の為だけに造ったのだ!(ドヤァ…
      グミ『……あたしは?』
      あ………
      グミ『……『トマホーク』っ!!』
      NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!

      だってルカさんは町のヒーローだし―w
      あ、ヒロインか。ん?どっちだ?お?え?みゅ?(混乱)
      この三人はルカさん大好きですからwww

      まだまだリスタートしたばっかですよ?!
      ルカさんは止まらぬぁい!

      2013/03/04 19:07:01

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