光速でお城を抜け出した人魚姫が向かったのは、国のはずれにある魔女の家。
そこには人々に嫌われた魔女がいるというのだ。
魔力が強すぎ、魔女として有能過ぎたその魔女の名は皆もう忘れかけているが『メイコ』といった。
人魚姫は魔女の家に辿り着いたとたんに、ドアを壊さん勢いで思い切りノックなしで開いた。
何と不躾なお姫様だろうか。
「たのも――――!!!!」
開口一番の第一声も、不躾だった。
そしてさらに昼寝をしていた魔女の胸倉につかみかかり、こういった。
「お願いみんなに忘れかけられ、恨まれ、忌み嫌われ、嫌われた、なんか見た目いい感じだけど実は年増な魔女!! 私愛する人と一緒にいたいから、私を人間にして!! これは王女の命令よ! 今すぐ!!」
「……はぁ……?」
人魚姫の意味不明な言動に困惑を隠しきれない魔女。
いろいろ考えた魔女は、まず某童話風に『怖い魔女』を演じてみることにした。
「あらぁ、これはこれは王女様がこんなところに……私になんの用だい……? わざわざここに来るなんて、よっぽど必死……よっぽどお熱なんだねぇ、その愛しい人に……」
魔女メイコは大人な色気を出しながら言った。
結構、ノリノリだった。実はずっと某童話風の魔女の喋り方はやってみたくて、憧れだったらしい(後日談)。
「あ、そういうのいらないです。黙って私を人間にしてください」
しかしその憧れは小娘によって無残にも砕かれた。
「……あのねぇ、人間にする魔法っていうのは、 結構魔力を使うのよ。足をつくるのだから、今までにお姫様が経験したことのない痛みが伴う……。それ相応の、代償が必要だわ。……もっとも、あんたみたいな箱入り娘が、私が望む代償が果たして出せるのかしら?」
不敵にほほ笑む、魔女。
「……代償……た、たとえば……」
生唾を飲む、人魚姫。
いまさら自分が今からしようとしていることの重大さに気がついたのだろうか。
微かにルカの肩が震える。
「あなたの……『声』とかね……」
沈黙が走った。
人魚姫はとても、それはそれは美しい声をしていた。
見た目もすれ違った男が全員振り返るほどであったが、鈴を転がすような美しい声をしていた。
「さぁ、どうするお姫様。声を失い愛しい人の傍にいるか……その美しい声で愛しい人への想いを紡ぎ続けるか」
魔女は、人魚姫に手を差し伸べた。
まるでこの手をとれば、永遠の愛を手に入れることができると、言わんばかりに。
人魚姫は少し俯き自分の尾ひれ、魔女の顔、そして差し伸べられた手を、順に見た。
この手をとって。足を手に入れれば、あの人の傍に居られる。
でも、想いは伝えられない。
この苦しいほど、狂おしいほどの、気持ちを、あの人に直接言うことはできない。
この手をとらず。声があれば、あの人の気持ちを紡ぎ続けることができる。
でも、傍にはいられない。
これだけ焦がれた、愛しい人の横に、自分が並ぶことは許されない。
沈黙は尚も続いていた。
しばらくした後、人魚姫は今までにない決意に満ちた瞳で、魔女を見た。
「それでも、いいわ。あの人の……傍にいたいの」
「……馬鹿な小娘ね」
人魚姫は、魔女の手をとった。
悲劇はゆっくりと、確実に始まっていた。
コメント2
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ご意見・ご感想
つーにゃん
ご意見・ご感想
ルカさん酷いこと言ってますねwww
お願いみんなに忘れかけられ、恨まれ、忌み嫌われ、嫌われた、なんか見た目いい感じだけど実は年増な魔女!!ってwww
「…あのねぇ、 のところからからシリアスですねーw
2013/06/16 15:49:45
イズミ草
そうなんですよwwww
しれっと、嫌味な小娘ですねwww
2013/06/22 08:25:01
つかさ君
ご意見・ご感想
だんだん、シリアスに……
ていうかめーちゃんの説明がww
2013/06/09 11:24:10
イズミ草
ねww
一気にシリアスめいてきたよねww
いいよ、こういうの好きだよww
2013/06/09 12:48:42