人魚姫が王子に振りかざしたナイフは、まだ人魚姫の頭上にあった。

 人魚姫の手は小刻みに震えていて、今振り下ろさんと力をメいっぱい入れているのに、ナイフは何故だか今ある場所から動いてはくれない。

 『どうして……どうして……』

 体中が震えだした人魚姫。
そのうち身体に力が入らなくなり、ナイフも手から滑り落ちて、床に当たって無機質な音を立てた。
ぺたりと、彼女は座り込む。


 「……ぉ……ぉ……ぃ……ぇ……」

 どうして。
その言葉すら発することができない。

 どうして、自分は王子を殺せないのか。

 どうして、自分は魔女と契約なんてしてしまったのか。

 どうして、喋れないのか。

 どうして、もっと考えなかったのか。





 どうして――――王子を好きになってしまったのか。






 王子が好きだから。
殺すことができない、自分の命の為に、王子の命を犠牲にする。
そんな自己中心的な醜悪な感情すら、自身の心に宿らせることができないのだ。



 王子は未だに、幸せそうに眠っていた。









 どれくらいの時間が経ったのだろう。
外はもう、仄かに明るい。



 約束の時間は、もう足元に迫っていた。





 ずっと座り込んでいた人魚姫もそれに気付き、ふらふらと立ちあがった。
そして、ナイフを持って王子の部屋から出た。




 もう一度、海を見に。











 夜が明ける。




 人魚姫は、朝日に照らされ清らかに輝く海に、ナイフを投げ捨てた。




 ああ、なんて清々しい朝だろうか。



 人魚姫は、泣いてはいなかった。

 登りゆく太陽を、真っ直ぐ見つめていた。






 そしてその瞬間が訪れた。

 人魚姫の身体が、太陽の光に包まれて、輝いた。



 彼女は少し振り返って、微笑んだ。









 『あいしてる』











 少しだけ動いた人魚姫の唇。


 そう、呟いたのかもしれない。



 完




 

 

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

ボカロと愉快なボカロたち。

ラストです。

次は、カイト兄で、「ハーメルンの笛吹き男」行きます。
「人魚姫」とは全く逆で
ほぼギャグです。

閲覧数:232

投稿日:2013/07/14 09:29:12

文字数:863文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

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  • つかさ君

    つかさ君

    ご意見・ご感想

    ルカさあああん!!
    消えてなくなったの悲しいです……
    最後の終わり方が好きでした!

    2013/07/14 12:31:40

    • イズミ草

      イズミ草

      おおおお!
      ありがとう!!
      次からは全然シリアスじゃないから!!
      たくさん童話考えてるけど、全部ギャグだから!!!www

      2013/07/14 19:31:00

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