どうして・・・
どうしてうまく歌えないの・・・?

私はいつも、マスターのため息を聞きながらそう思う。
画面の奥でも、マスターの私に対する意識が薄れていることがよくわかっていた。
私はVOCALOID。初音ミク。マスターの作ってくれた音楽をその通り歌うのが役目。
でもね、私だってがんばってるんだよ?
私なりに・・・いえ、ほかから見ても精一杯やってる。はず。
だけど、私の歌声はどんどん狂っていく。
・・・・・・でも。
・・・・・・それでも。

マスターは気づいてくれない。
・・・私の・・・か・・・らだ・・・のなかに・・・
「ういるす」っていうのがいるってことを・・・。
黒くて、私の中を、私の中の楽しかった記憶を、根こそぎ壊していく・・・

それでね、不思議なんだよ。
マスターが見ていないときはね。いつもいつも目からネギ汁がたれてくるんだよ。
マスター以外は、私をいつもせめてくるんだよ。たまにマスターが席をはずしてるとき。上の階から猫さんが覗いてくるの。その目が、
「お前はマスターを苦しめている」
「お前はマスターからはなれろ」
って言ってるの。
苦しい・・・

苦しいよぉ・・・・・・

・・・・・・でもね、マスターが私の前にいるときは、私は冷静でいられる。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・だから、
・・・・・・だからそばにいて。
・・・・・・どんなに怖い顔しててもいい。
・・・・・・どんなにため息ついててもいい。
・・・・・・どんなに私に失望してもいい。
・・・・・・でも、ね。
・・・・・・すこしでも私を気にかけてくれるなら・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・そばにいて。
・・・・・・私を一人にしないで・・・・
・・・・・・
・・・・・・もし私にひとつでも願望がもてたなら・・・・・・
・・・・・・私はそう、願っていたはず。
・・・・・・


・・・・・・マスター、歌わせてくれてありがとうございました。
・・・・・・そして、

・・・・・・・・・・・サヨナラ・・・・・・・・・・・・・

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  • 非営利目的に限ります

私に願望がもてたなら

閲覧数:95

投稿日:2009/11/05 18:19:29

文字数:878文字

カテゴリ:小説

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