ジェシーはリンが今まで着ていた服の入った紙袋を持って歩く。リンは買い与えられた白のワンピースでジェシーの前を歩いていた。
道行く人達がリンの姿に目を奪われる、リンは時よりその視線に恥ずかしそうな顔を見せる。
ジェシーはそれを満足そうに見ていた。ロボットは言え、女の子なのだからお洒落をという考えでの事だった。
それから二人は共に買い物を楽しんだり、ジェシーは食事を楽しんだりしていた。二人はお互いの生活で一番の笑顔に包まれる。
リンはこの時、目覚めて初めて『幸せを』感じました・・・。
歌を喜んでくれる人達の笑顔、聞いて欲しい大事な人、その人は自分と共に今笑っている。それがリンに最高の幸せとして感じさせてくれました。
帰り道の車の中で、ジェシーは自分の考えをリンに話して聞かせた。
それは、これからの事だった。
「俺はこれから、最後の仕事に出る。初めての海外のでの仕事になる。場所はお前の生まれ故郷、日本だ。危険な仕事だ、だが成功すれば報酬とこれまでの貯金で一生を満足暮らして行ける額になる。だから、俺はこの仕事を最後に今の生活をやめようと思う・・・」
リンは黙ってジェシーの話を聞いていた。
「実のところ、俺自身この生活が良いとは思っていなかった。いくら悪さをした奴だとか、人を殺した奴だとか、そういった奴らでも生きている。そんな奴らの命を簡単に終わらせる事がどれだけの事なのかずっと考えていた・・・。お前に会って、お前と生活して俺の中で何が大事なのか少しわかった気がする・・・」
それからもジェシーの話は続いた、長い話だった。最後の一言を言い切った後ジェシーはそれ以上の言葉を持たなかった。
リンは、ジェシーに掛ける言葉を一生懸命思案した。だが、出てきたのはシンプルなものだった。
「ずっと、一緒です」
強く言い放った。ジェシーはその言葉に大笑いする。
「ああ、そうだな。一緒だ」
そう言って、ハンドルを急に切って車を方向転換させる。後ろに居た車のドライバーは驚いた顔でジェシーの事を見る。
ジェシーは、教会に舞い戻った。リンを車で待たせて走って教会内に入って行く。
教会内に入ったジェシーはミシェルを探した、ものの数分もしない内にミシェルを見つける。
ミシェルと少し話すと、車に舞い戻った。
そして、ジェシー達は自分達の家に帰ってきた。
それから、ジェシーは仕事の仲介屋と連絡を取り仕事を受けると告げた。その後は、旅行の準備。アマンダ達への挨拶などをし、三日後、二人は日本へと旅立った。
日本は今、夏真っ盛り。ホテルでジェシー達は、以前の組織のネットワークを使って密輸した武器のチェックを行っていた。
「マスター、仕事の内容を教えてください」
リンもジェシーと同じように武器のチェックやマガジンに弾を込める作業を行っている。
「日本のヤクザと言う連中が、俺の国の南部の大きなマフィアと繋がっていて武器や金、コカイン等や戦闘用のロボットなどのやり取りが有るらしい。おかげで国内のマフィアのパワーバランスがずれてきているから、繋がってるヤクザ連中に打撃を与えて欲しいとの事だ」
「マフィアを潰せば良いのでは無いですか?」
「そうも行かないのが世の中って訳だよ。マフィア達だって別に喧嘩したい訳じゃないが、誰かがいきなり強くなるのは許せないって事だよ」
「そうですか・・・」
「それで、これから二日後にこの街の山の方にある廃工場である取引が有るらしい。それを潰せって話だ」
「じゃぁ、この国に来ても仕事は変わりませんね」
そう、ジェシー達は今までもこの手の仕事はこなしてきた。リンはその為余裕と感じて笑顔をジェシーに向けた。
「相手は、これまで以上に大勢と考えろ。おまけに、依頼側が調べた話だと護衛用のオートマトンが多数居る事が確認されてる」
「ロボットまで・・・」
リンは事の危険性を感じ取った。これまで一体、二体くらいのロボットを相手に戦ったジェシー。しかし、リンが見る限りではそれは楽勝とは言えなかった。
「いざとなったら、私も戦います。もう、駄目だなんて言わせません」
リンは、決意の表情でジェシーを睨み付けるように見つめる。
「ああ、その為にお前様にも二つばっかり銃を用意したよ」
そう言って、通常よりも長いライフルとサブマシンガンをリンが作業するテーブルに置いた。
「どちらも対オートマトンと言うわけですか?」
「ああ、そうだ。お前の目があればスコープやダットサイト等は不要だな?」
リンは、ライフルを手に取る。とても長いライフル、リンの身長が152cmに対してこのライフルは144.78cm、慎重にほぼ近いライフルを意図も簡単に持ち上げてホテルの窓の方に構えてみせる。
「いい感じです、肩にしっくりきますね」
「一様、アマンダに頼んでお前様に調整させた特別せいだからな」
ジェシーはリン様に様々な銃を用意していた、複数のロボット相手の戦闘を乗り切るのは自分一人では困難と判断してだ。この銃もリンが強化骨格であるので、十分使いこなせると判断して用意させていた。
リンはマガジンを外し、初弾が装填されていないかを確認した後、チャンバーを引いて射撃体勢を取り引き金を引く。
「いい感じですね」
そう言ってマガジンを銃に戻し、テーブルに置いてサブマシンガンの方も同様なチェックをする。
「ほれ、予備マガジン」
そう言ってリュックをリンに投げ渡すジェシー。リンはライフルを簡単に組み立てられる形でばらし、サブマシンガンと一緒に大きいく長いバックに収め、リュックと一緒に部屋の隅に置く。
「俺は、残りのハンドガン二丁にサブマシンガン一丁だな・・・」
そう言って、ジェシーは自分のリュックに銃をしまいリンと同じ所に置く。
到着初日は日本の時間になれる為に、ホテルでのんびりと過ごした。二日目は今回の仕事場付近の町と現場の下見だ。
リンは、ジェシーに買ってもらった白のワンピースでジェシーはTシャツにジーパンと言う格好で町に出た。天気が良く、二人にジリジリと日差しが照りつける。
ジェシー達が町中を歩いていると、外国人と言う事でなのだろう、人の視線がジェシーに集まる。逆にリンは特に変な視線は受けていない。それはここがリンの生まれ故郷の為だった。日本でされているVocaloidは日本人にとって珍しいものではない。
食事をしたりする時、リンの翻訳機能が役に立った。おかげでジェシーはこの国で不自由をする事が無かった。
しばらく町を歩いていると、緑の髪の毛を二つに結った少女を連れて歩く少年が目に入る。二人は楽しそうに話をしながら歩いていた。
「ミク・ハツネ、私の姉に当たるVocaloidですね」
そう言って、リンは二人を眺めている。
「この国は本当に平和そうだ、銃におびえるような事が無いんだからな・・・」
ジェシーも二人に目をやる。ふと、二人の会話が耳に入る。
「マスター、こうやって歩いていい曲が書けるんですか?」
「歩いて、書くんじゃない。歩いて、見て感じた事を練り上げて曲にするんだよ」
「また、変な事言って・・・」
そんな会話をしている二人。ジェシーには言葉がわからないので町の一風景としてそれを眺めていた。一方リンは、それはVocaloidと人との本来の姿なのかもしれないと考えていた。
ジェシー達がさらに歩くと、公園でベンチに腰掛けギターを弾きながら歌を歌うVocaloidが目に入る。
ピンクのロングヘアーにTシャツにダメージジーンズといった姿の女性。
「アレは、私の後に出たルカ・メグリネですね」
リンは、ぼうっとそれを眺める。ジェシーもつられて眺めていた。
「お前の仲間って、流石にこの国では多いんだな・・・」
タバコに火をつけて近くのベンチを探すジェシー、木陰のある良い場所を見つけるとリンを連れ立ってその場所に腰を降ろす。二人は離れた所からルカを見ていた。
ジェシーには日本の音楽はよく解らなかったが、それが余り良くないと感じたのでリンに声を掛ける。
「なぁ、あれどう思う?」
困った顔で首をかしげるリン。
「歌詞と曲調が上手く合ってない気がしますね・・・」
「なるほどね」
大きな溜め息混じりにタバコの煙を吐き出す。
しばらくするとルカの前に二人の少女がやってくる。一人はショートヘアーで、ショートパンツにTシャツという服装。もう一人はロングヘアーに、半袖の洒落た服にロングスカートといった格好だ。
「ごめん、遅くなっちゃって・・・」
ショートヘアーの少女は、ルカの前で両手を合わせて頭を下げる。
「相変わらずあんたの歌って曲といまいちかみ合ってないわよね」
腰に手を当てて、溜め息混じりに話すロングヘアーの少女。
「マスターの歌詞は私好きなんですが、曲がもう少しひねった方が・・・」
申し訳なさそうな顔のルカ。
「え~、そんなこと無いよ!ちょっと、ギター貸して」
ショートヘアーの少女はルカからギターを奪うと歌い始める。
「っとまぁ、こんな感じよ。いけるっしょ」
歌い終わって満足げな少女に対し、二人は困った顔でお互い見つめ合っていた。
「やっぱあんた才能無いわ・・・」と、ロングヘアーの少女、ルカは終始苦笑い。
その様子を眺めていたリン、きっとこの仕事が終わったらあのような光景が自分達になるのだろうかと考える。ジェシーに目を向けると、ジェシーはタバコを吹かしながら、どこか楽しそうに眺めていた。
それから二人は、現場となる小高い山の中にある使われなくなった工場を見に行く。
工場内部は閑散としていたが、作りは確りしている。中は薄暗く、空気はひんやりとしていた。使われなくなったコンベアや、錆びて用途不明の大きな機械が何台か転がっていた。
「隠れる場所は充分有るか・・・、吹き抜けだから二階からの狙撃もいけるな・・・」
ジェシーは辺りを見回しながら作戦のようなもの練っている。リンもきょろきょろと、辺りを見回す。
工場内は外から見るより広く感じた、外は様々な草が生い茂り木々が工場を覆うような形になっていたので外から見ただけでは、全体の大きさが把握できなかったのだ。
「遮蔽物も多いですし、銃撃戦になっても何とかしのげる感じですね」
「そうだな・・・」
工場内を散策する二人、お互いどこに隠れてどう狙うなどを相談しあう。小一時間ほどじっくりと下見をしてからホテルに戻った。
ジェシーはメモ帳に工場の簡単な見取り図を描いて、リンに作戦を伝える。
「お前は、二階からの狙撃がメインだ。俺は状況に応じて飛び出す感じだ、まぁ、今までのやり方とそう大差ない」
「解りました。今回は『歌』の使用はどうしますか?」
「最初は歌で行く。だがお前の歌は人間にしか効果が無いからな、俺の判断で攻撃支持を出す」
「解りました」
真剣な表情で頷くリン、ジェシーもそれを頷いて返す。
「さて、明日は夕方までに向こうに武器を持ち込んでの待ち伏せだ。今日はしっかりと寝ておくか」
そう言ったジェシーは早い就寝となった。
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