貴方が消えてしまわないように
今日も私は祈るのです
その細いようでがっちりしている身体にしがみつき、貴方の体温、今そこに有ることをかんじとるのです
正しいことだらけのこの世界で、ほんの少しの生きにくさを感じながら貴方の体温をあてにして今日も息をするのです
≪正しい街≫
今日は、雨が降っている
いつもより少しじっとりと湿っているこの街は今日も、正義という強制的でいて抗えない暴力に服従する
傘を刺すのは正解。
その図式に沿って私はゆっくりと傘を刺し、同じような通勤・通学の渦に混ざる
目も眩むくらいの赤、青、黄色で空虚に彩られる街の景色は美しいくらい空っぽだ
ばらばらの歩幅で僕ら同じ空間で息してることを忘れるくらい孤独で、それでいて温度の冷たさ
この世界は幾つか妥協を重ねないと息をするには苦しくて、上手く酸素を捕まえるのが難しい
ぽつりとただ重力に倣い落ちていくだけの雨粒に誰も目もくれず、秩序に従った平凡として誰もが正しく処理をする
…早く貴方に会いたい
いつもこう思ってしまうから困る。
まだ君のこと目に写してから5分も経ってない。だけど君がいい。早く君に会いたい。あと16時間。長くて息が続かない。
早く君の温もりに抱かれたい。
赤煉瓦の建物の前、辿り着く間はいつだってこうだ。いつだって君のことを考えて止まない。
傘をゆっくりと閉じる。その動作みたいに君のことを緩やかに片隅に追いやる
次に思い出すのは十六時間後。
それまで君のことを忘れなきゃいけない。
雨がしきりに降り続ける。少し強くなってきた
急いで無機質の塊の中に体を潜らせ、一息。
いつからこの街はこんなに色褪せたんだろう
新しいことがどんどん入ってきて、近代化だって進んで、今では不自由ひとつないこの街
どこか息がし辛くなったつめたい街
英雄が「間違ったことは何一つこの街から排除するべきだ」と謳い賞賛の声を浴びたその日からか、『正しいこと』ばかりが蔓延し始めたあの時からか
あるいはもっとずっと前、自由が幅を効かせすぎ、駄々をこねるようになったあの時からだったのか
正しいことなんて何ひとつこの世界には存在しないのに
たったひとつの綺麗な記憶をふと思い出して溢れてきそうになる涙を必死に堪える
今日も何処かの英雄が決めた「正しい」という名前の刃を突きつけられて、間違いと正解の二択制の現実に殺されながら息をしなければいけない
それが規則であり、義務であり、正しいことだから。
いつか悪者にされて罵られた貴方の自由さがそれでも私はずっとずっと好きだった
…だめだ、もう時間だ。
ゆっくりと靴を脱いで業務の支度をする
本当のことなんて誰も知りやしない
ましてや誰もが「正しい」を信じて疑わないこの街じゃ。
胸の中に感情を仕舞い込みかりそめの呼吸を始める
十六時間後、君にまた逢えるならそれだけでいい
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