六枚目:
先日、愛する者を失った。
結婚して、二年目の事だった。
また昔と同じ日々が始まった。
いつも通りに寝起きし、
いつも通りに朝食を食べずに家を出る。
いつも通りに仕事をこなす。
いつも通りに帰宅したら、
帰りに買ってきたコンビニ弁当を食べ、
缶ビールを一本飲み干す。
つまらない日常。
唯一の救いであった存在が消えた今、
俺は、死ぬことしか考えられなくなった。
前まで当たり前だと思っていた孤独だが、
今ではこんな自分を憎らしく思う。
憎いのは昔からだが、今度は違う憎しみだ。
他人に嫉妬する自分だとか、嫌われ者だからとか、
容姿も頭脳も人より劣っているからとか、
そういうことじゃない。
なんでもっと、愛してやれなかったのか、
なんでもっと、大切にしてやれなかったのか、
なんでもっと、幸せにしてやれなかったのか、
そんな言葉が、俺を責め立てる。
幸せというのは、当たり前になるとつまらなくなる。
そして、失った時に改めてその有り難さを思い知る。
分ってはいたが、
もう今更何をしようが無意味な事だ。
さて、これからどうしようか?
葬儀も墓参りも済ませた。
他にやれることと言えば、
亡骸に手を合わせる事くらいだ。
このまま死んでもいいが。
自殺はできない。
勝手にくたばったら、アイツに申し訳ない。
現に、今の今まで産まれてくるはずだった弟や妹達の為に生きようと努めてきたのだがら、
ここで死んだら今までの事が水の泡だ。
かといって、このままでいるのもつまらない。
「あぁ、今行くよ」
遠くの方から、妻の呼ぶ声が聞こえる。
声のする方へゆっくりと手を伸ばす。
静寂の中、妻の笑い声だけが虚しく木霊する。
「ダメだ…」
考えれば考える程、涙が溢れてしまう。
言い訳するのは簡単だ。
何をやっても、何を言っても変わらない事も事実。
だからといって、婚活して新しく家庭を築くのは、
裏切ってる感じがして気が引ける。
そもそも、モテるタイプでもないし、
子供二人分位は養えるお金はあるが、
後にも先にも妻以上に自分の事を理解してくれる
相手は居ないのだろう。
奇跡だったんだ。
悔しかった。
それは贅沢か。
理想が過ぎるのか。
「もう、いいんだよ」
色々考えているうちに、
妻の最後の言葉を思い出した。
「お前はそれでいいのか?」
「君はやっぱり幸せになるべきなんだよ」
「どういう事だ?」
それ以上の事は聞けなかった。
察した彼女も話を止めた。
その後妻は、息を引き取った。

ライセンス

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名無しの手紙(六枚目)

閲覧数:64

投稿日:2023/02/09 14:04:02

文字数:1,040文字

カテゴリ:小説

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