【プロローグ】
はるか昔昔のお話。
まだ神様が、この世界の近くにいた頃のお話。
神様が「エデンの園」と言う楽園に、2人の人間を創りました。
一人は男で、名前をアダムと言いました。
もう一人は女で、名前をイヴと言いました。
エデンの園にはたくさんの木が生えており、美味しい木の実をたくさん実らせていました。
その中でも、エデンの園の中央には特別な木が一本生えていました。
それは「善悪と知識の木」でした。
「善悪と知識の木」にも、とても美味しそうな木の実が実っていましたが、神様は2人に「善悪と知識の木の実だけは、食べてはいけない」と言いました。
2人は言い付けを守り、他の木の実を食べながら何不自由なく暮らしていました。
そんなある日、2人に一匹の蛇が近づいて来ました。
蛇は2人に言いました。
「善悪と知識の木の実、食べちゃいなよ」
蛇の誘いに乗ってしまった2人は、神様の言い付けを破り善悪と知識の木の実を口にしてしまいました。
すると2人は、自分たちが裸であることが恥ずかしくなり、涙を流しながら急いで腰にイチジクの葉を巻き付けました。
言い付けを破った事に怒った神様は、2人をエデンの園から追い出してしまいました。
そこから人間は、厳しい下界で苦労しながら生きて行かなければならなくなりました。
参考【旧約聖書『創世記』】より
ボーカロイドと未来とツチノコの歌【2011年編】
じーちゃんがツチノコを捕まえてきた。
もう、話が初っ端から超展開過ぎてついて行けない。
とりあえず、自己紹介から。俺の名前は斎藤裕太。22歳の大学3回生。一浪して県内のそこそこの私立大学に進学。大学進学後は勉強そっちのけでバンド活動に専念している。家族は両親、ねーちゃん、ねーちゃんの息子の一樹(4歳)、俺、そしてじーちゃんだ。
そうだ、ツチノコの話だ。
では、ツチノコに至るまでの今日一日の動きをダイジェストでご覧ください。
朝、9時30分起床。一限の講義に出るためには7時50分の電車に乗らないと間に合わないので完全にアウト。諦めて2度寝。結局昼前に起きて、午後の講義から出ることにする。
13時10分、大学に着き講義を受ける。
16時30分、大学の音楽堂でバンドメンバーとミーティング。議題は『クロスボム(俺のバンド名)の今後』。最近、明らかにバンドメンバーのやる気が感じられない。この日も来ていたのは、クロスボム唯一の一回生でドラムのYOSHIKI(本名:吉岡直樹)だけで、ヴォーカルのTelu(本名:井上照久)と、ギターのSyhoo(本名:山田庄司)は無断欠席。さらに次のライブには俺以外の3人全員が就職説明会で出られないらしい。
「YUさんは就活しなくて大丈夫なんすか?」
ドラムのYOSHIKIが心配そうに聞いてくる。
俺は、心のどこかで『このバンドでメジャーデビューを目指すのも有りだな』とか密かに考えていた自分が恥ずかしくなって、今日は早々に帰宅。
19時15分、家に帰ると、晩ご飯を作っている母さんに「もう晩ご飯だから、畑にいるおじいちゃん呼んで来て」と頼まれたので、仕方がなく自転車に乗って川の向こうにある貸し畑に。
「おぉ、裕太、いい所に来た!手伝ってくれ!」
じーちゃんが慌ただしく手招きしている。今年で88歳、まだまだ長生きしそうだ。
「これ何?」
そこにいたのは、収穫用のカゴに入れられた太い蛇のような生物だった。
「うなぎ蛇だ!」
「うなぎ蛇?」
「そうだ。昔この辺ではよく食べられていたんだ。ウナギなんて高級なものは滅多に食べられなかったからな。その替わりに、このうなぎ蛇を醤油と砂糖で蒲焼にするんだ。ウナギとはまた一味違って美味いんだ。まぁ当時はウナギを食べたことがなかったから、これがウナギだと思っとったけどな!だっはっはっは・・・・!」
いや、違う・・・。
これはうなぎ蛇なんかじゃない・・・。
この独特のフォルム、テレビで見たことあるぞ・・・。
間違いない。これは・・・
「じーちゃん・・・これ・・・ツチノコじゃないの?」
「何言ってるんだ、裕太。これはうなぎ蛇だぞ?ツチノコなんているはずないじゃろ?」
ダメだ。これ以上じーちゃんに何を言っても無駄だろう。持って帰って母さんに見てもらおう。きっと母さんなら分かってくれるはず・・・。
「あら、懐かしい!うなぎ蛇じゃない!まだいたのねー」
母さん!違うだろ!
「ただいまー。お、うなぎ蛇か。懐かしいな。明日は日本酒で乾杯だな!」
父さん!!よく見てよ!
「ただいまー、あー疲れた。あ!うなぎ蛇じゃん!私これ大好き!!」
ね――――――ちゃ―――――――――ん!!!!!!!!!!!
なんか、バンドにしろツチノコにしろ一人で舞い上がって、俺バカみたいじゃん。と言う一日だった。
23時30分。今日はさっさと布団に入って寝ることにした。なぜか今日はとても疲れた。
そして、夢を見た。
あ れ ー ? こ こ は ど こ だ ろ う か ?
フ ワ フ ワ し て い て と て も 気 持 ち が い い ぞ。
一 面 の 花 畑 だ 。 あ 、 小 川 も 流 れ て い る ぞ 。
あ は は は は は は 。
ん ? 向 こ う に 誰 か い る ぞ ?
あ れ は ・ ・ ・ ・ ・ ?
ツチノコ、いや、うなぎ蛇だ――――!!
八頭身のツチノコがこっちに向かって爽やかに手を振っている。
例えるなら奈○県のマスコットキャラクターのせ○と君をリアルにしたようなニュアンスだ。
「起きろ!起きろ!これは夢だ。夢だ!」
俺はとっさに念じてみたが、目覚めそうにない。
「初めまして、斎藤裕太くん」
ツチノコが話しかけてきた。近くで見ると不気味さ倍増だ。
「突然で驚かせてしまってすまない。だが私は君に急遽伝えなければならない事があるんだ」
もう訳が分からない。とにかく夢なら早く覚めてほしい。
「私の命はもう長くない。これが君に伝えられる最後のチャンスなんだ。理解できなくてもいい。ただ知っておいてほしいんだ」
これは、この前見た映画の影響か?いや、Syhooに借りた漫画のせいか?
「君の決断が、人類の未来を左右するモノになる」
あれ?俺こんなストーリーどっかで見たことあるぞ・・・深夜アニメだったかな?
俺はもう、うんざりしていた。自分の頭はこんな中学2年生みたいな事を考えていたのかと思うと。
「訳わかんねーよ!なんなんだよ?どうせこれは夢なんだろ?なんでもいいからゆっくり寝かせてくれよ!」
「確かに君は今眠っている。だが、この空間は現実に存在している。私たちは今、意識だけを抽出している状態だ。君たちの言葉で言うと、ここは『あの世』で、私たちの状態は『幽体離脱』の状態にあると言える」
ここまで来ると、俺はコイツの話を受け入れることにした。
どうせ夢だ。反論するだけ疲れる。
「・・・そうか。で?俺に何しろって言うの?超能力で悪の組織と戦えってか?」
「いや、君に超能力と呼ばれる能力は備わっていないはずだが・・・?」
「わかってるよ!話合わせてやってるんだろうが!」
「あぁ、すまない。お気遣いありがとう」
ツチノコに冷静にあしらわれている自分が恥ずかしくなった。
そんな俺をよそに、ツチノコは淡々と続ける。
「君は近々、大切なモノを失う。そして、決断を迫られる。その決断が人類の未来を決める」
「なんだよ、大切なモノって?」
「それは言えない。今はまだ、それを知るべき時ではない」
「なんだよ!じゃあ、お前何しに俺の夢に現れたのさ?」
「私は、君の選択の真の意味を伝えに来た」
「だから、その選択ってのはなんなのさ?」
「それは言えない。今はまだ、それを知るべき時ではない」
くそ、なんて焦れったい会話だ!
「じゃあ、その、何か分からない大切なモノを失ってからの、何か分からない選択の、真の意味ってのはなんなのさ?」
ツチノコは少しの沈黙の後、静かに語り始めた。
「今から、はるか昔、人間が生まれるもっと前。かつてこの星を支配していた生物がいた・・・」
おい、何か始まったよ・・・
「その生物は高い知能を持ち、この星に文明を築き上げた」
「知ってるよ、恐竜だろ?んじゃあ、お前が恐竜の生き残りだって言うの?」
「私が恐竜に見えるかい?」
いちいち腹の立つ野郎だ!
「犬も猫も恐竜も、創ったのは全て私たちだ・・・そして、人間も」
「え?」
「かつて、私たちがこの星を支配していた頃、そのような生物は何一つ存在していなかった。だから私たちが創ったのだ。地球に有る物質を組み合わせてね」
・・・話がぶっ飛び過ぎだろ。
「そんな訳ないな!人間はサルから進化したって学校で習ったぜ?」
「あながち間違いではない。確かに君たちの原型はサルだ。だが、人間とサルは似て非なるものだ。君は本当に、チンパンジーが進化したらいつか人間になれると思うのかい?」
言い方がいちいち鼻につくな。もういいや。どうせ夢だし、適当にあしらっておこう。
「人間は少し例外なのだ。私たちの開発は小さな微生物から始まった。そこから徐々に徐々に研究を重ね、様々な生物を開発した。恐竜もまた然りだ」
「んじゃあ、昔の地球はツチノコだらけだったわけ?」
「今の姿は仮の姿だ。君たちの世界風に例えるならロボットを操縦しているような状態だ。私の本来の姿は君たちの文明では捉えることはできないだろう」
「なるほど、機動戦士って訳か」
「・・・初めから理解されることは期待していない。話を続けよう」
もう黙って聞こう。そのうち目が覚めるだろ。
「私たちは、様々な生物を生み出し、地球を変えていった。例えるなら、今のインターネット社会に似ているかも知れない。目には見えないが、地球上に確かに存在する社会。私たちの世界と君たちの世界はそのような関係だった。
初めに開発されたのは、システムを維持するための必要最低限な植物と動物だった。私たちは、何度も試行錯誤を繰り返し、次第に、より便利な生物、よりスマートな生物を創り出していった。システムもどんどん改良されていった。『免疫』と言う自己防衛システム、『生殖』と言う自己増殖システム、『食事』と言う自己エネルギー精製システム・・・。
そして、我々が最後の最後に技術の全てを結集して開発した、究極に無意味な娯楽生物。それが人間だった」
「じゃあ、俺の中にもお前らがいんの?」
「いや、今、地上にいる生物は皆、我々のダミーが核として入っている」
「ダミー?」
「人間は死んだ瞬間に体重が70g減るのを知っているかい?あれはダミーの核が肉体から抜けるからなんだ」
「へ~」
「人間を開発して、しばらくたったある時、私たちは滅びた。理由は些細な事だった。疑心や恐れ、保身や執着が大きくなっただけの結果だった。いや・・・、私が滅ぼしたと言っても過言では無いのかも知れないが・・・」
「え?」
「後で話す。話を続けよう」
「そもそも、人間が開発された理由も、私たちの文明に限界が来ていた事への現実逃避に近いものがあった。皆、薄々は感じていたが、誰もその現実を直視しようとはしなかったのだ。そして、私たちは滅んだ。
その時、何人かの私たちは開発した生物に乗り込み、生き永らえようとした。プログラムを駆使して何でも出来る彼らは、後の人間界で『神の使い』や『奇跡の人』と呼ばれ、信仰の対象になったりした」
「それって、キ○ストとかブッ○とか?」
「キ○ストには、この世界の開発者として有名なモノが乗っていたよ」
「えー!?じゃあ、お前も何か奇跡起こせるのか?」
「いや、私は一般人だ。君はコンピューターを使えても、プログラムを構築したり、書き直したりすることは出来ないだろ?それと同じだ。それに・・・」
「それに?」
「この世界は、すでに私たちの管理を離れている」
「私たちの世界が滅んでしばらくの時が流れた。プログラムを書き換えられないモノは、徐々に数を減らしていった。当然、帰るべき世界を無くした私たちは、この世界で乗り込んでいる生物が死んでしまえば、そのまま一緒に死んでしまうからだ。そして、最後に残ったのが、この私だ」
「お前、何歳?その頃から生きてんの?」
「君たちの世界の数え方で言うと、約一万年前から存在していると言うことになる」
「あれ?おかしくない?人間が死んだら一緒に死んじゃって、キリストとかブッダにもお前らが乗ってって、お前が最後の生き残りで・・・?」
「少し話を整理しようか。
約10万年前、人間の原型である現代人(ホモ・サピエンス)が開発された。この頃の人間は、まだ他の生物同様に、プログラムされた最低限の生命活動をしていた。
そして、約1万年前、私たちの世界が滅びた。生き残ったモノたちは、地上の生物に乗り込んだ。技術者や高い地位にあるモノの多くは、改良を重ねられた最先端の生物である人間に乗り込んだ。
そして、私のような一般人は、この蛇のような単純な生物にしか乗り込めなかった。
人間に乗り込んだ技術者たちは、自分たちが少しでも長く生き永らえる様に、この世界のプログラムを書き換えながら暮らした。つまり、プログラムを書き換えられる限り彼らは死ぬことは無かった。だから、バラバラの年代に『奇跡の人』が現れているのだ」
「じゃあ、そいつらは今も生きてんの?」
「いや、私たちの仲間で今生きているのは私だけだ」
「なんで?」
「それは・・・」
「それは?」
「・・・私は、人間が大好きだったんだ」
「・・・は?」
(ボーカロイドと未来とツチノコの歌【2011年編】パート2へつづく)
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