”どうして泣いているの”


少年は傘をさして立っている。目の前にいる青年は雨に打たれたまましゃがみこんでいる。
…どうやら、泣いているようだ。
少年は、疑問符なのに抑揚のないセリフを青年にかけた。
青年は顔をあげ少年をじっと見る。
少年の顔は端正で、その瞳には何も宿していない。
まるで、人形のようだった。
少年は顔を変えず首を傾ける。
どうやら答えを待っているらしい。
青年は涙を流しながら笑い、こう言った。



”悲しみが悲しみのまま終わることのないように”


青年はゆっくりと立ち上がり、言葉を重ねる。


”俺には、こんなことしかできないから”


少年は分からなかった。
いや、言葉の意味を分かろうとしなかった。
少年の目は空ろ、瞳には何も宿していない。


”何も考えなければ、悲しみは起きない”


少年はつぶやく、またしても抑揚のない声で。
その言葉を聞いて、青年は苦しそうな顔で笑った。


”そうだね”


そう言って少年の傘を持っていない方の手を取り、自分の手を上に重ねる。
少年は微動だにしない。
青年は、少年の手を両手で挟んだまま問いかけた。


”ココロが欲しいか”と。


その言葉に少年は表情は変わらなかったものの、より深く青年の目を見つめた。
そして、うなづいた。
その時、少年はどうしてそのような行動に出たのか全く分からなかった。
もしかすると顔を下に動かしただけなのかもしれない。
青年は優しく微笑んだ。


”また、明日ね”


そう言って少年の手を離し、踵を返した。
少年はその場から動かない。
そして、先ほどまで人のぬくもりを感じていた濡れている手を見つめる。
そして…


”また、明日…”


そう呟いた少年の口元は、とても小さくだが上にゆがんでいた。
それが人形と呼ばれた少年が初めて笑った瞬間だった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【小説】流美涙想

ホームページに載せている小説の”人形”シリーズの1つ「ナミダ」の序章。

これはまだ上げてないけど…今はシリーズの他のやつ1つだけを連載してる。

どうでもいいけど、この時少年にココロが宿った。
これから少しずつ人間らしく(元から人間だけど)なっていく。
そして、当然青年は…。

閲覧数:157

投稿日:2011/05/20 11:37:20

文字数:779文字

カテゴリ:小説

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