【アサヅキの花】10
アサヅキ、待ってアサヅキ。
手を伸ばして叫ぶ僕を、嵩原が止めようと腕を掴む。
家の中から人が数名出てきた。
君達、人の家の庭で何を騒いでいるんだ、しかもこんな時に。
僕は戸が開け放たれた縁側の方を見た。
雨滴ではっきりとは目に写らなかったが、布団に横たわる少女の冷たく眠る横顔があった。
僕は我に返り、家の人達に頭を下げた。
嵩原も一緒になって謝ってくれた。
雨でずぶ濡れの僕達を、家の人達は雨宿りをしていけと言ってくれたが断った。
僕は呆然としながら歩き、それを心配した嵩原は、家に帰るまで付き添ってくれた。
家に着くなり親に怒られ、ずぶ濡れになった僕と嵩原は順に風呂へ入れられた。
母は嵩原に夕飯まで食べさせると、家に返した。
僕はその間、ずっと何も考えることが出来ずにぼんやりとしていた。
雨が止み、静な夜になった。
電気を消し、布団の中でじっと眠気がくるのを待っている。
コンコン‥微かに窓が揺れる音がした。
初めは風のせいだと思ったが、
次によく聞くと、何か細いもので硝子戸をつついているような音になった。
僕は布団から飛び起きる。
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