アナログの絵や物語描くのが好き。 素敵なアイコンはWSXさんに制作して頂きました。
プロフィールを見る投稿作品26作品
もっと見る-
愛猫
-
青の衝動
-
【アサヅキの花】12
朝、目が覚めると枕の横に、小さな花と黒い羽が一枚落ちていた。
僕は花をそばにあった小瓶へ一輪挿しにして、その隣に黒い羽を添えて置いた。
母親が遅刻するから早く起きてきなさいと、呼ぶ声がする。
今日は部活動の練習がある日、またいつもの賑やかな一日が始まる。
急いで着替えて部屋を出...アサヅキの花12
-
【アサヅキの花】11
カーテンを開けると、真っ黒で大きな烏が窓の外にでんとして座っていた。
窓をそっと開ける。
「アサヅキ‥」
僕が名を呼ぶと、烏は軽く跳びはねながら近寄ってくる。
「雛田、世話を掛けたな。お前にこれを渡しに来た」
烏が嘴にくわえていたのは、小さな一本の花だった。
僕は掌を差し出し受...アサヅキの花11
-
【アサヅキの花】10
アサヅキ、待ってアサヅキ。
手を伸ばして叫ぶ僕を、嵩原が止めようと腕を掴む。
家の中から人が数名出てきた。
君達、人の家の庭で何を騒いでいるんだ、しかもこんな時に。
僕は戸が開け放たれた縁側の方を見た。
雨滴ではっきりとは目に写らなかったが、布団に横たわる少女の冷たく眠る横顔が...アサヅキの花10
-
【アサヅキの花】9
「おい、なんか中が騒々しくないか‥」
嵩原の言う通り、少女の家は雨で縁側の戸が閉ざされているのもあるが、
何やらばたばたと人が走る音がした。
アサヅキも異変に気がついたのか、何かを察知しようと静止している。
雨音の中、微かに人の声が聞こえたので、僕も耳を澄ました。
‥…―百合子、...アサヅキの花9
-
【アサヅキの花】8
ぽつ‥ぽつり‥と雨が降ってきた。
山深い田舎では突然の雨はこの時期よくあることだった。
小雨はやがて本降りになる。
僕はアサヅキの体力が心配だった。
昨日もあんなに息切れしていたのに。
すると嵩原が、折り畳み傘を鞄から出し、僕とアサヅキを入れるように差してくれた。
ありがとう‥そ...アサヅキの花8
-
【アサヅキの花】7
いつもの下校時刻になり、僕はバスに乗った。
勿論、アサヅキの元へ行く予定なのだが困ったことに、嵩原がついてきてしまった。
邪魔は一切しないという約束で、これから会いに行く女の子を見せてほしいと言うのだ。
大丈夫だろうか‥
小さな白い花の咲くバス停で降りる。
アサヅキは、白い花の横...アサヅキの花7
-
【アサヅキの花】6
陽が落ち始め辺りが薄暗くなってきた。
僕は立ち上がり、お尻をはたく。
「アサヅキ、今日はもう帰るよ」
「そうか。小童、お前の名を聞いていなかった」
「僕の名前は雛田だよ。それじゃあ、また明日な」
僕は烏に向かって手を振り、走って家路を辿る。
家に帰ってから、僕は夕飯の時もお風呂に...アサヅキの花6
-
【アサヅキの花】5
「変な小童がいたものだ‥」
烏に呆れられたような顔をされた、そんな気がした。
実際は顔を覆う羽毛が真っ黒で目も黒くて表情なんかわからないのだけど。
烏は徐に話始める。
「あの娘はあと余命幾日もないのだ。私はあの娘に仮があってな、何か力になれないかと思った」
ひと月前、この地蔵に娘...アサヅキの花5
-
【アサヅキの花】4
垣根を潜ると、広い庭先に出た。
綺麗に手入れをされた庭だ。
そして今はもうあまり見ないような、古い旧家の屋敷らしき民家がある。
その縁側に一人の少女が単衣の着物を身につけ、腰をかけていた。
真っ白な肌をしていた少女は、とてもほっそりしていた。
烏はその少女の元まで歩いて行き、嘴に...アサヅキの花4
-
【アサヅキの花】3
烏からの返事はなかった。
太陽の光が烏の黒い羽に映る。
飛ばずにでこぼこの畦道を、細い脚で歩く一羽の烏。
その後を僕は距離をおきながら今日はついて行くことにした。
昨日と違い気温が少し高かった。
真っ黒な羽に光がどんどんと吸収されていくようで、烏は途中で歩みを止めた。
嘴に加えた...アサヅキの花3
-
【アサヅキの花】2
ついてくるなと烏に言われ、暫し呆然と立ち尽くす。
緩く曲がった田んぼの畦道を、烏は歩いていった。
そのずっと先には民家が幾つかある。
一体、どこへ向かっているのだろう。
次の日も学校があったので、そのまま深追いはせずに帰宅した。
だけど、宿題をやっている時も、眠っている夢の中でも...アサヅキの花2
-
【アサヅキの花】
暖かな日差しが柔らかく世界を包みこんだ、午后。
時折、頬にあたる風が冷たくて気持ちいい。
僕は教科書の入った鞄を肩に掛け、バスを降りた。
静かな田舎の停留所だ。
道端に小さくて綺麗な花が三本咲いていた。
その可愛らしさに、つい屈んで指先で触れようと手を伸ばす。
‥…ぶち。
指先に触...アサヅキの花
-
【 黒猫と少年 】5
ごめんなさい‥
麦の後姿が切なくて黒猫は大きな褐色の瞳を潤ませた。
ふとした神様の悪戯だったのか。
一時、人の姿になれた黒猫は、人間の子として麦の孤独を埋めてあげられたらと思っていた。
だけど返って寂しい思いをさせてしまうことになるなんて。
そこまで考えの至らなかった黒猫は自分...黒猫と少年5
-
【 黒猫と少年 】4
「何故、狐のお面をいつも頭に被っているの?」
クロが麦に尋ねた。麦は答える。
「僕の髪は皆のと違って黒くないでしょ。だから、恥ずかしくて隠してるんだ」
クロはそれを聞いて首を強く横に振った。
「麦の綺麗な色の髪、とっても好きだよ。黄金色の麦畑を見る度に、君を思い出せるじゃない」...黒猫少年4