ayumi の投稿作品一覧
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愛猫
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青の衝動
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【アサヅキの花】12
朝、目が覚めると枕の横に、小さな花と黒い羽が一枚落ちていた。
僕は花をそばにあった小瓶へ一輪挿しにして、その隣に黒い羽を添えて置いた。
母親が遅刻するから早く起きてきなさいと、呼ぶ声がする。
今日は部活動の練習がある日、またいつもの賑やかな一日が始まる。
急いで着替えて部屋を出...アサヅキの花12
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【アサヅキの花】11
カーテンを開けると、真っ黒で大きな烏が窓の外にでんとして座っていた。
窓をそっと開ける。
「アサヅキ‥」
僕が名を呼ぶと、烏は軽く跳びはねながら近寄ってくる。
「雛田、世話を掛けたな。お前にこれを渡しに来た」
烏が嘴にくわえていたのは、小さな一本の花だった。
僕は掌を差し出し受...アサヅキの花11
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【アサヅキの花】10
アサヅキ、待ってアサヅキ。
手を伸ばして叫ぶ僕を、嵩原が止めようと腕を掴む。
家の中から人が数名出てきた。
君達、人の家の庭で何を騒いでいるんだ、しかもこんな時に。
僕は戸が開け放たれた縁側の方を見た。
雨滴ではっきりとは目に写らなかったが、布団に横たわる少女の冷たく眠る横顔が...アサヅキの花10
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【アサヅキの花】9
「おい、なんか中が騒々しくないか‥」
嵩原の言う通り、少女の家は雨で縁側の戸が閉ざされているのもあるが、
何やらばたばたと人が走る音がした。
アサヅキも異変に気がついたのか、何かを察知しようと静止している。
雨音の中、微かに人の声が聞こえたので、僕も耳を澄ました。
‥…―百合子、...アサヅキの花9
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【アサヅキの花】8
ぽつ‥ぽつり‥と雨が降ってきた。
山深い田舎では突然の雨はこの時期よくあることだった。
小雨はやがて本降りになる。
僕はアサヅキの体力が心配だった。
昨日もあんなに息切れしていたのに。
すると嵩原が、折り畳み傘を鞄から出し、僕とアサヅキを入れるように差してくれた。
ありがとう‥そ...アサヅキの花8
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【アサヅキの花】7
いつもの下校時刻になり、僕はバスに乗った。
勿論、アサヅキの元へ行く予定なのだが困ったことに、嵩原がついてきてしまった。
邪魔は一切しないという約束で、これから会いに行く女の子を見せてほしいと言うのだ。
大丈夫だろうか‥
小さな白い花の咲くバス停で降りる。
アサヅキは、白い花の横...アサヅキの花7
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【アサヅキの花】6
陽が落ち始め辺りが薄暗くなってきた。
僕は立ち上がり、お尻をはたく。
「アサヅキ、今日はもう帰るよ」
「そうか。小童、お前の名を聞いていなかった」
「僕の名前は雛田だよ。それじゃあ、また明日な」
僕は烏に向かって手を振り、走って家路を辿る。
家に帰ってから、僕は夕飯の時もお風呂に...アサヅキの花6
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【アサヅキの花】5
「変な小童がいたものだ‥」
烏に呆れられたような顔をされた、そんな気がした。
実際は顔を覆う羽毛が真っ黒で目も黒くて表情なんかわからないのだけど。
烏は徐に話始める。
「あの娘はあと余命幾日もないのだ。私はあの娘に仮があってな、何か力になれないかと思った」
ひと月前、この地蔵に娘...アサヅキの花5
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【アサヅキの花】4
垣根を潜ると、広い庭先に出た。
綺麗に手入れをされた庭だ。
そして今はもうあまり見ないような、古い旧家の屋敷らしき民家がある。
その縁側に一人の少女が単衣の着物を身につけ、腰をかけていた。
真っ白な肌をしていた少女は、とてもほっそりしていた。
烏はその少女の元まで歩いて行き、嘴に...アサヅキの花4
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【アサヅキの花】3
烏からの返事はなかった。
太陽の光が烏の黒い羽に映る。
飛ばずにでこぼこの畦道を、細い脚で歩く一羽の烏。
その後を僕は距離をおきながら今日はついて行くことにした。
昨日と違い気温が少し高かった。
真っ黒な羽に光がどんどんと吸収されていくようで、烏は途中で歩みを止めた。
嘴に加えた...アサヅキの花3
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【アサヅキの花】2
ついてくるなと烏に言われ、暫し呆然と立ち尽くす。
緩く曲がった田んぼの畦道を、烏は歩いていった。
そのずっと先には民家が幾つかある。
一体、どこへ向かっているのだろう。
次の日も学校があったので、そのまま深追いはせずに帰宅した。
だけど、宿題をやっている時も、眠っている夢の中でも...アサヅキの花2
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【アサヅキの花】
暖かな日差しが柔らかく世界を包みこんだ、午后。
時折、頬にあたる風が冷たくて気持ちいい。
僕は教科書の入った鞄を肩に掛け、バスを降りた。
静かな田舎の停留所だ。
道端に小さくて綺麗な花が三本咲いていた。
その可愛らしさに、つい屈んで指先で触れようと手を伸ばす。
‥…ぶち。
指先に触...アサヅキの花
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【 黒猫と少年 】5
ごめんなさい‥
麦の後姿が切なくて黒猫は大きな褐色の瞳を潤ませた。
ふとした神様の悪戯だったのか。
一時、人の姿になれた黒猫は、人間の子として麦の孤独を埋めてあげられたらと思っていた。
だけど返って寂しい思いをさせてしまうことになるなんて。
そこまで考えの至らなかった黒猫は自分...黒猫と少年5
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【 黒猫と少年 】4
「何故、狐のお面をいつも頭に被っているの?」
クロが麦に尋ねた。麦は答える。
「僕の髪は皆のと違って黒くないでしょ。だから、恥ずかしくて隠してるんだ」
クロはそれを聞いて首を強く横に振った。
「麦の綺麗な色の髪、とっても好きだよ。黄金色の麦畑を見る度に、君を思い出せるじゃない」...黒猫少年4
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【 黒猫と少年 】3
「クロだよ‥皆そう呼ぶんだ」
麦が黒髪の子に、名を聞いた。
「クロ?猫みたいな名だね。髪が黒いからかい」
からかうように尋ねるとクロは頷く。
麦は衣紋掛けに吊るした藍染めの着物に着替え始める。
これも祖母の着物を仕立て直したものだ。
「それは酷い呼び名だなあ‥だって黒猫は災いを...黒猫と少年3
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【 黒猫と少年 】2
夜が明け朝陽が射し込み、眩しくて目を擦る。
古い一軒家に麦は暮らしていた。どうやら窓を開けて眠ってしまったらしい。
起き上がり何気なく外を見ると、庭先に誰かが立っている。
遠くからでよくわからないが、大人ではない事はわかった。
麦は気になり、すぐに顔を洗い、羽織を肩に掛けて表へ...黒猫と少年2
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【 黒猫と少年 】1
紺色の浴衣を着た少年の髪の色は、麦畑に陽があたる時と、同じ色をしていた。
近所の子供達に馬鹿にされるのが嫌で、いつも狐の面を被っている。
少年が歩くと下駄の音が寂しげにカラコロと響くのだった。
「今日もまた、独りぼっちなのかい」塀の上で毛繕いをする黒猫が言った。少年は横目で睨み...黒猫と少年
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【桜並木の恋】
この桜並木は、この世とあの世の境。
色づいた蕾たちが春風に撫でられ一斉に開花する時…
隣接するふたつの世界の扉が開く。
貴方は、覚えているでしょうか。
最後の春、私達は桜の下で大切な約束を交わしたのを。
扉から、まだ貴方が息づく世界を覗き込む。
懐かしさと寂しさを胸に抱きながら
(...桜並木の恋
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【狐のお面】2
もしも願い事がひとつ叶うとして、
友人と呼べる相手がほしいな…
花火が終わり、静かになった境内で僕は、子供の手を握っていた。
お面で顔を隠し見せないようにする子供の横顔は、どこかもの寂しそうで。
僕は言う。また、此の場所で会えるといいね。握る指先が温かかった。
(ハルくん さん書き出...狐のお面2
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【狐のお面】
その心ちょうだい。
静かな境内の上空に打ち上げ花火が音を響かせ夜空を彩る。
独りで眺めていた僕に、杏子飴を手にした子供が近づいてきた。
狐のお面をしている。僕は慌てて、目に溜めていた涙を拭う。
…君、迷子かい?子供は首を横にふる。
…凍りついたその心、飴と一緒に溶かしてあげるよ。
(P...狐のお面
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【 魔 天 楼 】4
「イリス様…何でしょうか」
イリスはポケットから桃色の花びらを取りだして見せた。
「桜の…花びらですか?」
「図鑑で調べたけど、そうみたい。
これ、夜眠っているとき、たまに僕の口に挟まってるんだけど、どうしてかな?」
「えぇっ。そうなんですか…」
「最初、自分が寝ぼけて花びらを...摩天楼
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【 魔 天 楼 】3
「さてと、そろそろ司教様のところに行かないとな。手伝いしなくちゃまたドヤされるんだ」
アルベルトは立ちあがって、いそいそとティーセットを片付け始めた。
「司教様ってそんなに怖いの?いつも優しそうだけど…」
忙しなく動くアルベルトをじっとみながらイリスは聞いた。
「そりゃ、息子を...摩天楼
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【 魔 天 楼 】2
イリスはアルベルトが差し出したティーカップに口をつけた。
「これ…何?」
「ブレンドだよ。あそこに植えてあるだろ?ジャスミン」
「あの白い花が入ってるの?」...摩天楼
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【 摩 天 楼 】1
しっとりとした闇夜が、静かな空気を包む。
天高く聳え立つ石造りの城。
その最上階の中庭にアーチ型の白い建物がこじんまりとしてあった。
細く開けた窓からの生温かい微風が、ぐっすりと眠るイリスの頬を撫でる。
「……アリシア…」
ほんのりと甘い香りがして、目を覚ます。
イリスは重たい...摩天楼