【 黒猫と少年 】3
「クロだよ‥皆そう呼ぶんだ」
麦が黒髪の子に、名を聞いた。
「クロ?猫みたいな名だね。髪が黒いからかい」
からかうように尋ねるとクロは頷く。
麦は衣紋掛けに吊るした藍染めの着物に着替え始める。
これも祖母の着物を仕立て直したものだ。
「それは酷い呼び名だなあ‥だって黒猫は災いを招くんだよ。そうだ、僕が他の名で呼んであげようか」
麦の提案にクロは困ったように笑う。
「私はクロという名が気に入っているから大丈夫、ありがとう。
それに黒猫は‥災いを人に知らせたいだけなのかもしれないよ」
クロの言葉に麦はまさかと笑った。
クロも笑っていたが、目の奥がどこか切なそうだった。
* * * * * *
花が散り桜の絨毯踏みしめて、走り行く少年の、黄金色と黒色の髪が靡く。
花びら舞う空を見上げ、縁側で昼寝をし、お腹が空いて目を覚ます。
ただそれさえも楽しくて。君と一緒にいられる時間。
* * * * * *
人の温もりを感じて過ごしたのは久しぶりだった。
麦はクロと出会ってからというもの、毎日を共に遊び過ごした。
虫を捕まえたり、花を摘んだり、木に登ったり、夜を駆け回ったりもした。
母を亡くして友達も出来ずに塞ぎ込んでいた麦の、宝石のような日々は、あっという間に過ぎていく。
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