【 黒猫と少年 】5
ごめんなさい‥
麦の後姿が切なくて黒猫は大きな褐色の瞳を潤ませた。
ふとした神様の悪戯だったのか。
一時、人の姿になれた黒猫は、人間の子として麦の孤独を埋めてあげられたらと思っていた。
だけど返って寂しい思いをさせてしまうことになるなんて。
そこまで考えの至らなかった黒猫は自分を責めた。
私たちはもう二度と会うことはないだろう。
独りぼっちの君を見て世話を焼くつもりが、楽しい思いをさせられたのは私のほうだったようだ‥
関わらなければいいものを、私には人の言葉がわかってしまうから。
放ってはおけなかった。
ありがとう麦‥私の大切な友達‥
黒猫は山へ帰っていった。
* * * * * *
薄々感じてはいたんだ。
クロにはどこか人間離れしたところがあるなって。
夜の星の光に反射するクロの瞳を見ていたら、いつかのお節介な黒猫を思い出したんだ。
でも、初めて友達が出来て毎日遊んで、すごく嬉しかったんだよ‥
そういえば僕は酷い事を言ったね。
黒猫は不幸を招くものだなんて‥
本当にただ知らせに来てくれただけだったのかもしれない。
クロ、ごめんね。素敵な思い出をありがとう。
麦は生成り色に黒い蝶柄の着物を衣紋掛けに吊るし、縁側に干した。
優しいそよ風が、麦の黄金色の髪と着物をそっと揺らす。
最後に、さよならくらい言わせて欲しかったな‥
こうして、麦は宝箱のような思い出を胸に仕舞い込んだ。
幼い頃の朧気な母との思い出の他には、何もなかった心の中。
今はちょっとだけ仕舞うものが出来て温かい。
また、自分を見失いそうなくらい寂しくなったら思い出の宝箱を開けてみよう。
そうすれば大切なものはすぐに見つかるはずだ‥そんな気がした。
終
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