《ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!》
山を超えてきた未来と流歌が町の中へと突入した瞬間、凄まじいアラームが町中に鳴り響いた。
各地のスピーカーが思わず耳を塞ぎたくなるような警告音を掻き鳴らし、周囲の獣や鳥たちも蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。
当然、スピーカーからの音波を至近距離で聞いてしまった流歌も怯んで動けなくなってしまっていた。
「うああああああああ……うるさ――――――――――い!!なに!?何なのこの音!?」
「ぐっ……!!……!!こいつかっ!!」
が―――――未来だけは比較的ダメージが少なかった。
昆虫の中には可聴領域が人間と大きくずれている種が時々存在する。
嘗て有名な学者が行った実験では、セミなどは大砲の音を聞いてもびくともしなかったそうだ。
同じように、未来の可聴領域も、昆虫のそれと同様に変化させることが可能だったのだ。
咄嗟に周囲を見回した未来。町の入り口を表す門にはめ込まれたセンサーを蹴り飛ばして破壊する。
途端に、けたたましく鳴り響いていた警報がピタリと止んだ。
どうやら未来達を感知したセンサーが信号を送り続けることで発動するシステムだったようだ。
「ふん……私たちの行動を先回りしようって腹かしら?雑魚どもが……!!」
片方の柱を折られ、傾いた門を更に薙ぎ払って粉砕しながら、未来が歩きだす。
ようやく警報のダメージから回復した流歌もそれに続いた。
「未来、どうする?相手はかなり用意してきてるみたいだけど……」
「決まってるでしょ。正面突破。この程度の対策で私たちを止められると考えている愚物どもに思い知らせてやらないと!」
バキバキとわざと音を立てながら腕を変化させていく未来。
普通の人間がいらついた時に無意識に骨を鳴らすように、未来がわざと音を立てて変化を行うのはストレスが蓄積している証拠だ。
先程の警報が相当な苛立ちにつながったらしい。
「……未来らしいっちゃ未来らしいか。はぁ、考えすぎても私にはどうにもできないし、やるっきゃない……か!」
研究所での狂喜、そして苛立ち。
わずかながら、これまでの淡々とした殺意から変化を示し始めた未来に、どう接するべきか戸惑っていた流歌。
だが、考えるだけ無駄だと判断したのか、吹っ切るように頭を振ってその体を奮い上がらせる。
今はただ、未来と共に願った未来に向けて爪を振るうだけ。
『……見えた。第一陣の御登場ね』
すっと目を細めた未来のその視線の先には―――――何十機という戦車が並んでいた。
どれもこれも、国防軍が所有する世界でも数少ない最新鋭の戦車。
さらに空の彼方から、十数機の戦闘機が飛来した。こちらもまた、世界有数の最新鋭の機体である。
普通の戦争であれば、1時間で敵軍を殲滅出来そうなほどの戦力だ。
……………普通の戦争であれば。
今彼らが仕掛けようとしている相手は―――――科学の常識も限界も飛び越えた、非科学の世界の頂点。
故に――――――――――悲しいまでの力不足である。
《メギャッ!!》
聞くに堪えない凄まじい音を立てて、一機の戦車が砲塔をもぎ取られた。
そこには、視認できないほどのハイスピードで接近し、カブトムシの腕に『アリのパワー』を付与して、最新鋭の戦車の装甲をティッシュでも引き裂くかのように引き千切った未来の姿が。
『はっ……この程度か、人間の愚行の歴史の到達点は!!』
まるで魔王の如き言葉を紡ぐ。
実際未来からすればそれほどの失望だったのだろう。
世界の最先端を行くスペックの戦車。まさにこれは人間の技術の粋を集めた兵器だったはずである。
それですらあっさりと引き千切られた。それはまさしく、人間が培った技術や化学が、蠱獣憑きの力―――――ひいては昆虫の、自然の怒りには全く敵わなかったことを意味する。
勿論普段人間が『自然の怒り』と例える自然災害―――――地震、台風、異常気象―――――であれば、十二分に耐えられる技術力ではあったはず。
だが、未来の体に宿るのは『超自然的な力』―――――蠱獣憑きはまさしく、自然が生み出した悪霊のような存在だ。自然が孕んだ怒りを、昆虫の霊に込めて人の器に押し込めた存在―――――それが蠱獣憑きという存在なのだ。
『オオオオオオオオオオッ!!』
再度振るわれたカブトムシの腕が、砲塔をもぎ取られた戦車の残骸を軽々と持ち上げ、他の戦車に向けて叩き付けた。
昆虫の中でも力持ちのイメージが非常に強いカブトムシ。そのカブトムシの力に、自らの体重の600倍の重さを軽々と持ち上げるアリの筋力を『掛け合わせている』。
今の未来ならば、50t以下の物体であれば軽々持ち上げるだろう。
まさしく、自然の怒りが猛威を振るっていた。
そしてこの戦場にはもう一人―――――自然が産んだ、超越的存在がいる。
蠱獣憑き以上に怪物然としたそれは、自然の怒りが自ら形を取って具現化したような『魔獣』。
『ギィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!』
鋭い鳴き声を一つ上げ、『雷鷹』に変化した流歌が天空高く舞い上がる。
そのまま戦闘機と同じ高度にまで上昇すると、全身に稲妻を纏い急加速。
青白い電光を放ちながら戦闘機と交叉した瞬間、突如戦闘機が制御を失って墜落した。制御系統が電撃に焼かれた為だ。
流歌には視える。戦闘機の動きが。
一機落としても、隊列を崩すことなく迫ってくる。
恐らくは音速を超えているだろうその鉄の翼は、すれ違うだけでも物体を破壊せんとする衝撃波を叩き付けてくるだろう。
正面に敵を捕えれば、徹底的にターゲットを追尾するミサイルを途切れさせることなく放ってくるだろう。
万が一ミサイルが避けられたとしても、鍛え込まれたパイロットの腕前は機銃を操り流歌の命を狩り取ろうとしてくるだろう。
だがそれがどうしたことか。
音速を超えた鉄の翼?流歌には同じく音速を超え、かつ落雷級の電圧を蓄えた鷹の翼がある。
ターゲットを追尾するミサイル?流歌にはあらゆる攻撃を回避する機敏性がある。
流歌の命を狩り取ろうとする機銃?流歌には人間を撃ち滅ぼす雷撃がある。
自然の怒りの体現者たる魔獣憑きが、こんなところで金属の鳥如きに負けてはいられないのだ―――――
『行くよ、私の雷!!』
流歌が翼を撃ち振ると同時に、全方向に放たれた雷が次々と戦闘機を撃ち抜いた。
ある機体はそのまま爆散し、ある機体は制御系統が吹っ飛んで墜落していく。
更に流歌は加速しながら飛行し、残った戦闘機に肉薄する。
バリバリと弾ける雷はより一層荒れ狂い、『撃ち抜く』どころかその稲妻の渦に戦闘機を巻き込んでいった。
まさしく『雷の竜巻』―――――躱せる戦闘機など、一機もいなかった。
『ふふ、やるじゃん、流歌』
地上で既に戦車隊を壊滅させていた未来が、空に咲く稲光の華を見上げて嗤う。
燃え上がる戦闘機と戦車の残骸から立ち上る黒煙の中で、稲妻を纏い鋭い勝鬨の声を上げる流歌の姿は、何とも美しいものがあった。
『未来!もう敵は来ないみたいだよ!』
『ふむ……だけどこれで終わりとも思えない……多分、『第一戦線』突破って所だろうね』
研究所のパソコンで調べた、今回の敵の作戦書に描かれた配置図を脳内に思い浮かべつつ、地平線に目を向ける未来。
と、その時―――――
【その通り!所詮お前たちは第一陣を突破したのみ!!】
【それも最初から突破されるであろうことが予想されていた軍勢さ!!】
【あくまでそいつらは用同、この戦線の本命は私達よ!!】
『『っ!!?』』
不意に響いた声に、瞬時に身がまえる未来と流歌。
しかしその声は、まるで空間全体を震わせるように響き、どこから来る声なのかが判別しづらくなっていた。
遥か前方か?背後か?それとも左右から不意打ってくるのか?はたまた空から急襲してくるのか――――――
――――――――――いいや、違う。
『――――――――――下っ』
『遅いっ!!!』
己の目下に向けてバッタの脚力を叩き付けるよりも早く―――――未来の胸に、鋭い獣の爪が突き刺さった。
偶然かはたまた狙い澄ましたのか、爪は外骨格の鎧のスキマに深々と入り込み、鮮血が吹き上がる。
『あ……ああ!?』
地中から、それも想像以上の迅さの奇襲。
何より、あの未来が、自分より遥かに高い戦闘センスを持っている未来が奇襲により斃されたという、その事実。
余りの出来事に、流歌は上ずった声を上げることしかできない。
その間に、地中から飛び出した三つの影が流歌の前で構えを取った。
しかもその物影は―――――よく見れば、人間の様で人間の姿をしていなかった。
『ビッグ・アン!!憑きし獣は『モグラ』っ!!』
『猫村彩羽っ!!憑きし獣は『ジャガー』っ!!』
『ガチャ・リュウトッ!!憑きし獣は『コモドドラゴン』っ!!』
『『『国防軍特殊部隊・獣憑小隊陸上部隊、ここに推参っ!!!』
『な……な!?』
開いた口が塞がらない流歌。
茶色の毛に覆われた熊手の様な前足をした男。
四足で立ち、ヒョウ柄に近い模様を全身に浮かび上がらせた少女。
全長2mはあろうかという巨大なトカゲの尾を持つトカゲ人間。
誰がどう見てもそれは――――――――――獣憑きそのもの。
ビッグ・アンのきらりと輝く熊手状の爪からは、ちろちろと鮮血が零れ墜ちていた。
未来を刺し貫いたのはその男の爪。
地下を掘り進むモグラの怪力で、頑丈に固められた土をも抉るモグラの爪を、鎧のスキマ、柔らかな組織―――本来の甲虫でも最大級の弱点―――に打ち込んだのだ。
倒れ込んだ未来は、ダメージのせいか、それともショックからか、ピクリとも動かない。
そんな彼女をちらりと見た『獣憑小隊』は、憎々し気に声を荒げた。
『世界的殺戮者として名を馳せた『魔蟲』よ!貴様らの行い、同じ獣憑きとして断じて許せん!!』
『貴方達のおかげで、全世界の獣憑きがえらい迷惑被ってるのよ!!『獣に呪われた化け物共』ってね!!』
『我らの平穏をこれ以上穢すというなら、今この場で息の根を止めてくれるわ!!!』
各々の爪を、牙を、ぎらぎらと輝かせながら、じわりじわりと近づいていく『獣憑小隊』。
その様子を、流歌はただ見ていることしかできない。
だが流歌の力ならば、まず間違いなくこの程度の相手には苦戦はしないだろう。
しかしそれならばなぜ、流歌は動けずにいるのか―――――
元来流歌は、自分以外の何もかも一切合切を破壊してしまおうと考えるタイプの性格ではない。
力に目覚めた時以来タガが外れたせいか、普通の人間に対してはその限りではないが……対象が『獣憑き』ともなれば、話は別だ。
『魔獣憑き』と対となる存在『空獣憑き』を除けば、獣憑きはいわば身内も同然であり、守るべき存在なのだ。
少なくとも、『流歌自身』はそう考えていた。故に、どう動けばいいのか―――――判別がつかなくなっていたのだ。
だが、その後ろに、判断基準を共有していない、『蟲』がいた。
『……あんたら』
ぞっとするほどに、無感情な、誰も信じていない様な、冷徹な声が響いた。
誰もがその姿を見つめる。
ゆらりと立ち上がった彼女―――――未来の目は、どこか無限遠の彼方を見据えるかの様な虚無感を湛えていた。
『……国防軍なんかに入っちゃってさ……獣憑小隊っていった?あんたらだけで小隊組んじゃってるわけ?』
ぶつぶつと、しかし確かに尋ねた。『仲間が居るのか』と、暗に。
『軍に入れてくれた、居場所を作ってくれた何者かが居るのか』と。
『……あ、ああ、そうだ!!我らは然る方に救っていただいたのだ……自らの目的を達するため、軍を辞めた方だが……あの方により、我らは居場所を得ることが出来た』
『あの人がいなければ、きっと我らは路頭に迷っていた……私はいつか帰るあの人のために、この小隊で闘い続けると決めたの!』
『それがどうかしたか!まさかそれが遺言か?』
ビッグ・アンが、彩羽が、リュウトが、それぞれに思いの丈を叫ぶ。
それこそが最悪の起爆剤だとも知らずに。
『……そう……仲間が……救ってくれた人が……いるんだ……』
『……み、未来?』
恐る恐る、未来の顔を覗き込もうとする未来。
『獣憑小隊』の3人も、ここでようやく異常に気付く。
だがしかし―――――全ては手遅れ。
『私 は 誰 に も 救 っ て も ら え な か っ た の に ?』
血の涙が零れ、嫉妬と哀情、そして憤怒に塗れた『蟲』の、血色の翼が拡がった。
四獣物語~魔蟲暴走編②~
少女の獣憑き達は人間に与する獣に出会う。
こんにちはTurndogです。
ちずさんが帰ってきそうな雰囲気がTwitterで流れ始めたので慌てて書きだす屑ですどうも。
前回投稿から一年近く経ってました。クソッタレかな?
前回どんな話だったか覚えてます?
国防軍の防衛計画を見て戦いに出ようとしたら大砲少女のレールガンで危うく狙撃されかけてぐぬぬな未来さんが可愛い話ですよ(ちょっと違う
今回から少しずつ、未来さんが狂い始めます。
嫉妬が一番狂うよね。
某氏の歌では嫉妬担当はルカさんでしたが、この作品では嫉妬狂いは未来さんが担当。
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ご意見・ご感想
ゆるりー
コメントのお返し
朝に読んで「忙しいから後でコメントしよ!」となって忘れることが多々あるので((
運営…テトさんですかね?
リレーに関しては2年ぐらい経ってますごめんなさい(´・ω・`)
2017/01/23 21:27:28
ゆるりー
その他
あれ?軍の現役獣憑きって初めてですね!
ミクさんがここまでもろにダメージ受けたのも初めてなのでは?
戸惑うルカちゃんかわいいですね!
うわああ!ミクさんが発狂した!
一年以内に更新するのって、忙しかったりすると難しくなりますよね(´・ω・`)
2017/01/21 13:45:07
Turndog~ターンドッグ~
さっきのツイートがいいね貰った後にコメントもらうとそれはそれで不思議な罪悪感が((
あの人の直属なのです!
出血大サービス(直訳)は初めてですね!
運営に怒られそゲフンゲフン。
どうあがいても可愛い((
発狂!発狂楽しい!(自重
ヴォカロ町も一年が迫ってきてます(´・ω・`)
2017/01/21 13:49:45