『あの…私と踊ってくださいませんか?』
急に言われて振り返って見るとそこにいたのは1人の少女だった。
今日は王である父親の気まぐれで行われている舞踏会なのだが、どうみても彼女はおかしい。
みんなが綺麗なドレスを着ているのに、彼女は真っ黒なドレスを着ているのだ。
それに、顔の表情もどこか暗い気がする。
「あの…やっぱ、無理ですよ……ね…………。」
だんだん、彼女の表情が沈んでいく。
なぜか、僕は焦りだした。少女が泣いてしまうようなきがして…。
「あっ、いえ、そんなことないですよ。次の曲になったら踊りましょう?」
「そっ、そんな……本当に無理しなくて結構ですから………」
本当に、この少女はなんなんだろう。自分から誘ってみたり、やっぱり無理だと言ってみたり。
「無理なんてしてませんよ?」
「でも……本当は他にいるんじゃないんですか?」
「大丈夫です。どうせここにいるのは愛想笑いしてる奴ばっかだから。」
「……。言ってることがよくわかんないです。」
「要するに、みんな僕ではなく、“王子”という地位だけを見ているんだ。」
「そう……です………か………。」
舞踏会が行われる度にみてきた作り物の笑顔の人々、“王子様”に気に入ってもらって、自分の地位を上げようとする愚かな親と、使われている可哀想な子供。
見る度に、これが普通なんだって自分にいい聞かせてた。
じゃないと、利用されている子供達を『可哀想』とか『親から解放してあげたい』とか悩んでいる間に自分が壊れてしまう気がしたから。
でも、彼女は信用していい気がした。
いままでみてきた人たちとは違う、なんていうか……誰かに命令されなくても自分の意志で動ける気がした。まぁ、いままでの人の中にもいたんだろうけどね。
「さあ、もうそろそろ曲が変わります。行きましょう。」
「はっ、はい!」
そういって僕は彼女の手を取った。
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