「ごめん、今日も遅れたぜー・・・って、あれ?」
ちょっとした用事でバンの研究所に来るのが遅れてしまった俺は、入り口のドアを開けて首を傾げる。
「おお、遅かったじゃないか、アカイト」
「・・・なんか、料理しそうもないやつら2人が、何女子組に混じって一緒に作ってんだよ」
俺の姿に気づいたバンが声をかけてくれるが、俺は部屋の光景に突っ込みたくなった。・・・って、もう突っ込んでたな。
「あいつら、女子組に紛れて何作ってんだ?」
「えっと、なんかムース作ってるらしいですよ」
俺の疑問に、リアが答える。
「なんでも、ヨーグルトと温度計使うからって、グルトさんとニガイトさんが呼ばれたらしいです」
「だからか・・・」
リアが苦笑いと共に呟かれた言葉に、俺は納得する。
「よぉ、なんか楽しそうだな、ゲスト参戦2人組」
俺は、グルトとニガイトに声をかける。
「お、アカイト。ちょうど今、グラニュー糖と水を混ぜ溶かしているところだ」
「107℃になったら、火からおろすんだよー」
グルトとニガイトが俺に返事する。
「あ、アカイトさん。いたんですか」
なんとなく俺に対して反抗期なモコが、少し意地悪なことを言う。
「・・・最近、妙にミンに似てきたとは思わないか?グルト」
「誰が?」
「モコ」
「・・・・・あー」
グルトは俺の言葉に困ったように笑った後、
「どうだろうな?アカイトがそう思うのなら、それもまた事実かもな」
と、爽やかに言った。
「えー、なになにー、レンアイ?」
ニガイトが無邪気に、手に温度計を持ったまま俺に向かって邪推なことを言ってくる。
「なっ、ち、ちがうぜ。俺とモコは・・・」
そこで、言葉が詰まる。・・・あれ、俺とモコって、どんな関係だっけ?
「んー?」
ニガイトは無邪気に首を傾げて、俺を見る。
「・・・そうだな。俺とモコは「友達未満の変人未満ですよ」
考えながら、ゆっくりと言う俺の言葉を、モコが思いっきり遮る。・・・って、友達未満の変人未満?友達未満のところはまだいいとして、変人未満?恋人未満じゃないのか?
「変人未満って、何だよ?モコちゃん」
俺に似ているようで似ていない、グルトが代わりにモコに聞く。
「変人未満は、変人未満ですよ。・・・・・・・・・・」
モコは、それだけ言って、ふいと俯く。・・・なんか、俺、嫌われてる?
「・・・あ、107℃になったよー」
ニガイトは、にっこりと温度計を小鍋の中から取り出しながら、言った。
「じゃ、それを私に渡してくれますか?ニガイトさん」
「おっけー」
ボウルに卵黄を入れて、泡立て器で混ぜていたジミは、ニガイトに言う。それで、ニガイトは言われた通り小鍋をジミに渡す。
「これを、少しずつ加えながら混ぜ合わせるんですよ」
まるで料理教室の先生のように言いながら、ボウルに小鍋を少し傾けて、中身を少しずつ加えていくジミ。
「ちなみに、一気に加えると、卵が固まって分離してしまうんですよ」
「ジミ、物知り・・・♪」
レトは嬉しそうに言って、ジミの作業を横からのぞきこむ。
「さて、これから、全体が白っぽくなって完全に熱が取れるまで泡立て続けるんですけど、誰か、力のある人は・・・」
ジミは辺りを見回して、
「・・・じゃあ、モコさんに、お願いしましょうか。いいですか?モコさん」
俯いているモコに、ただならぬ何かを察したのか、ジミはモコに声をかける。
「ジミさんのためなら、私、何でもやります」
「すくい上げた生地が太いリボン状にゆっくり落ちて、しばらく跡が残るくらいもったりした感じにして下さいね。時間かかりますけど、根気よく泡立てて下さいね」
「分かりました。そんなこと、お安いご用です」
「・・・なんか、怒ってる?」
「怒ってません」
何やら殺気立つモコに睨まれ、俺は慌てて目を逸らす。
「バン、なんかモコ怖い」
「あれがほんとのツンデレよね!」
バンの後ろに隠れる俺に、ナエルはびしっと言う。
「え、あれデレがないけど」
「ジミちゃんには、デレだったよね!」
「ああ」
なんか、納得感が心の中に広がる。・・・っていうか、俺にはツンなのかぁ。切ないなぁ。
「さてと、次は、ヨーグルトをなめらかにします。グルトさん、混ぜてくれますか?」
「お、いいぜー」
ジミの言葉に2つ返事のグルト。そして、テンポよく別のボウルに入った通称プレーンヨーグルトをまぜまぜする。
「あ、モコさん。それぐらいでいいですよ」
今まで、すごい勢いで混ぜてイたモコを、ジミはやんわりと止める。
「・・・あ、混ぜ過ぎました?」
ピタッと全ての動きを止めて、不安げにジミを上目遣いで、そっと見上げる。
「・・・・いえ。ちょうどいいですよ。このくらいで十分です。・・・しかし、よく短時間でこれだけ混ぜれましたね、モコさん」
「・・・このくらい、気合です」
ジミの言葉に、にっこりと返事するモコ。・・・あ、モコの笑顔、結構可愛い。・・・って言っても、バンとかミクには劣るけどな。
「そして、このモコさんが混ぜてくれたものと「クリームを「合わせます。これを合体というのですよ~♪」
・・・なんか誰が何を言ったか分からないので、一応説明しておく。まず、最初の言葉がジミで、次にフワ、最後の台詞がムウだ。
「さてはて、このクリームは、サワークリームと生クリームを混ぜ合わせた、まさにクリームクリームした代物だが、フワ。これを、どのくらい入れて、なじませればいいのかな?」
なんか口調も声も違うムウが、芝居がかった風にフワに聞く。
「5分の1ですわ、ご主人様」
なんかメイドみたいに返事するフワ。・・・なんか服装もそれっぽいから、俺はフワの方が好きかな。
「それで「「合わせーっ!」」
「・・・あの2人、何か突っ走ってるよな」
俺は若干呆れつつ、バンに言う。
「そうだな」
バンも呆れたように俺に同調する。
「私も、あの2人みたいに突っ走ればいいのか」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?
後編に続く!
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