男子トイレの個室でレンはガタガタと一人、震えていた。
これから全校生徒の前で生徒会長立候補するグミの応援演説をしなければならないからだ。

自分が失敗して上手くできなければグミやミキ、リリィに迷惑かけてしまう。そう思うと、レンの体の震えが止まらない。
陽気で無邪気なレンなのだが、それはリンという存在が大きかった。
リンが転校してくるまではイジメられっ子だったレン。
リンが友達になってから毎日が楽しく過ごせた。
ヘンな先輩だがカイトはよくレンをかまってくれてメイコは普段は厳しいけれど、誰よりも彼を気にしてくれていた。
ミキも、リリィも、優しい人達だ。

だけどグミはリンと出会う前の自分の様に弱そうだった。
だから、自分が背中を押してあげたい。リンに貰った楽しい毎日を彼女にも分けて上げたくなったのだ。
でも、この選挙で落選したらきっとグミは悲しむだろう。
そんな事を考えると、プレッシャーでレンの胸が苦しくなってしまい、
体は震えてこのトイレの個室から出られなくなってしまっていた。

コンコン。

ノックが聴こえる。レンの個室のドアを叩く音だ。

コンコン。

レンは少し控えめな音で返す。しばしの沈黙。しかし――

コンコンコンコンコンコン、コンココン!

ノックが連らなり打ち鳴らされる。
「ぴゃ~~~~何だかわからないけど、コワいわんっ!」
レンは個室の中で怯える。
「おい! いい加減にしろよレン! ここを開けろ!」
トイレに響く声はリンだった。
レンは中から少しだけ扉を開くと、すかさずリンが指を隙間に差込み
扉をこじ開けて体を狭い個室にねじ込んだ。
「りりりりり、リン君!」
「こんな時に、何やってんだお前は!」
リンはレンの頭を両手で掴み、左右に思い切り揺らした。
「目が回っちゃうわん! 回っちゃうわん!」
「ったく、しょうがないヤツだ」
リンはレンを洋式便座にペタンと座らせる。
「30分もトイレから帰ってこなくて心配したぞ」
「ゴメンだわん・・・・・・」
「ふん・・・・・・どうせ選挙が怖くなって、ここから出られなくなってたんだろ」
「ず、図星だわん!」
「わからいでか!」

レンはきっと怒られると思いながらも、リンに今の気持ちを
伝える。リンは黙って頷き、たどたどしいレンの言葉を根気よく
聞いてくれた。
「そっか・・・・・・まあな、レンにしては今回はようく頑張ったって俺は思うよ」
レンは驚いた。いつもなら絶対に叱られるはずなのだから。
「でもな、こういう事・・・・・・きっと今後、たくさんあるハズだよ。俺がいつも側にいてあげられたらいいんだけどな・・・・・・」
「リン君はいつも一緒だわん!」
リンはまだ、転校する事をレンには言ってなかったのだが
それは今は言うタイミングでは無い。そのかわりレンを勇気つける方法を思いついた。
「お守りを上げるよ。目を閉じて・・・・・・」
リンはレンに言った。ぽっと顔を赤らめるレン。
「ちゅーするのかわん?」
「ち・が・う!」
ポコン! とレンの頭頂部に拳を落すリン。

レンは目を閉じる。
目を閉じたのを確認するとリンは後ろ向きになりゴソゴソとブレザーを脱いでYシャツのボタンを外した。
中に着ていたTシャツの裾から手を差し込み、何か白い物をスルリと抜く。そして再びボタンを閉めてレンの方を向く。
「お、お前が・・・・・・ほら前にさ、お見舞いに来てくれた時に欲しがってたヤツ・・・・・・」
「そ、それって・・・・・・メンズブラだわん!」
リンは震える手で白いブラジャーをレンの前に掲げる。

以前、リンが風邪で休んでいる時に不意打ちでお見舞いに来たレンにうっかり見られてしまったブラジャー。
リンは女だとバレたく無かったのでとっさに嘘をついた。
「これは男子お洒落の嗜み。メンズブラだ!」
その時、レンがほしがってダダをこねた事を、リンは思い出だしたのだ。

顔を赤らめてリンはブラを突きつける。
「ほら。お守り代わりだ。持っていろ」
それを受け取る。リンの体温が残っていてまだ暖かい。
「くんくん」
レンはブラを顔に寄せて匂いを嗅いだ。
「うわぁ~~~~!! 匂いを嗅ぐなってば~~っ!!!!」
リンはすかさずブラを奪い取るが、顔が茹るように更に赤くなる。
「くぅ~~ん・・・・・・」
がっかりするレン。だがこの後、とんでもない事を言い出す。
「・・・・・・リン君。それ、僕に着けて欲しいだわん」
「はあ!?」
「それ・・・・・・身に着けたら・・・・・・僕はきっと頑張れるわん」
「んな! んな! そんな・・・・・・」
個室であたふた慌てるリン。そんな彼を指をくわえ、不安そうな目を浮かべるレン。
混乱と恥ずかしさで耳から機関車のように蒸気が出そうな程リンの顔は沸騰寸前であった。


狭いトイレの個室。
呼吸を整えて落ち着きを取り戻すものの、リンの顔はまだ桃色だ。
レンは後を向いたまま、ブレザー、シャツを脱ぎ、上半身裸になる。
ちょっと前までは同じくらいの体格だったのに、レンはまだ少しだが
男の子っぽいごつごつとした背中になってきていた。

小さめのサイズのブラをリンはゆっくりと着けさせた。
ホックを止める時にレンの背中の素肌に触れてしまい今度はリンの指先が震える。
「ど、どう? きつくない?」
リンの声も震える。
「わん。なんだか――気が引き締まったようだわん!」
レンはくるりと振り返りリンに言った。
かあーーっと、リンの顔がまたポストのように赤くなる。
上半身裸だが、ブラジャーを着ける男子生徒が目の前にいるのだから。
しかも先ほどまで自分が着けていたものなのだ。どうしょうも無い羞恥心が再び顔を発火させる。
「わん! 勇気が出たかもだわん。やっぱり、リン君はすごいだわん」
「ほんと・・・・・・お騒がせなヤツだな。お前ってさ・・・・・・」
「ドキドキが止まったわん!」
レンはリンの手を取り、自分の胸に押し付けた。
「ドキドキが普通になったわん」
「・・・・・・あはは」
むしろ、今度はリンがドキドキが止まらない。
「リン君は……選挙、ドキドキしないのかわん?」
「ん・・・・・・しているよ」
少し迷ったが、リンはレンの手を今度は自分の胸に持っていった。
「あ・・・・・・リン君も――ドキドキしてたんだわん・・・・・・」
リンの胸の鼓動をブレザー越しで感じていた。
「するよ・・・・・・俺だって・・・・・・ちょっと怖いんだよ」
「じゃあ、リン君のドキドキ。僕に頂戴だわん・・・・・・」

レンはリンの胸に顔を埋める。
リンはびくっ、としたがレンの顔をそのままに、そして腕を頭に回して
レンの頭をそっと抱える。
柔らかな髪はタンポポの綿毛みたいで、あいかわらずお日様の匂いは幼い頃から何一つ変わっていない。 
リンの胸の中心をくすぐる呼吸が愛おしく、ずっとそうしていたい。そんな気持ちになるのだが、ゆっくりと肩に手をずらしレンを引き離した。

「ドキドキ。食べたわん・・・・・・」
「うん・・・・・・食べられちゃったな」
「リン君がまた、ドキドキしていたら―――僕がまた食べてあげるわん」
「・・・・・・ありがとう。でもね、その前に――」

リンは咳払いをした。

「とりあえず、レンはシャツを着てくれ。かなり変態だぞ。今のお前の格好」

リンとレンは狭い個室で一緒に笑うのであった。

【つづく】

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

青い草 第10話E

前回の続きでございます。

閲覧数:183

投稿日:2018/05/21 06:05:40

文字数:3,045文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

  • 関連動画0

  • 橘光

    橘光

    ご意見・ご感想

    感想がほしいとのことでしたので、この青い草を読ませていただきました。率直な感想は、
    「こいつは甘酸っぺえ!!いちご以上の匂いがプンプンするぜえ!!」
    なんて思いながら読んでました。(笑)全体的に顔を覆いたくなりますね。

    [良かった点]
    ストーリーの進み方、キャラ設定、情景の例え、これら全て抜群ですね。ちょっと自分の作品で使いたくなっちゃいました。(笑)
    キャラそれぞれが面白いです。レン君を犬っぽくではなく、犬そのものにしてしまうとは…。(  _ ) ° °
    ミクちゃんは「ワールドイズマイン」が思い浮かびました。
    キヨテル先生がガチホモなのはやめてくれええぇぇぇぇぇ!!!レン君とカイト君があああぁぁぁぁ!!!

    [気になる点]
    少し、誤字と思われる文章が多かったです。例えば、
    「タイムとラベルできるのかワン?」
    などです。あとはレン君とリンちゃんの間違いかな…と思われるものが多かったです。(間違いじゃなかったらすみません。)

    さて、長々と書かせていただきました。やはり私の大先輩ということで、クオリティが私の3倍はありました。
    私もこのテストが終わったらこのコラボを…いや、なんでもないです。ただ終わらせるだけです。簡単ですよ。
    あとで合流するので先に活動しててください。
    絶対に、戻ってきますから。(計フラグ4個)

    2018/05/16 06:15:46

    • kanpyo

      kanpyo

      おお、感想ありがとうございます! サプライズですよ。

      あまずっぺえぇ!! というコメントがツボです。嬉しいですね。その言葉、この作品の最高の褒め言葉です。

      メイコとカイトのフォークダンスと、二人で帰る場面は「こんな恋愛してみたかった・・・」という妄想をしながらロマンチックなシーンをPCの前でパンツ一丁で書いていた事を思い出します。あはは・・・・・・。

      違うコラボでこの小説の連載が始まり、当時のコラボメンバーにおだてられてどんどん書き進めてきました。そのうちに書きながら手応えを感じ、「今のってるぜぇえ俺っ!!」とキーボードを叩きながら書きましたが、それがいけませんでした。誤字脱字変な改行、リンとレン名前結構まちがってるし! と後で直そうとするも、けっこうな字数になってしまい、直しが追いつけてませんでした・・・。偶然にも昨夜、10話の修正を行なっていた所で、これからさかのぼって修正と書き込みを続けます。ご指摘ありがとうございます。その箇所ももちろんミスであります。

      ミクちゃんのイメージはそのとおり!ワールドイズマインから。
      残念な事にキヨテル先生とカイト君のホモォ回が一番再生数高かったです・・・。
      現在、最終話である11話「綿毛の花束」とエピローグを執筆中です。

      私の作品で良ければアイディアや文章の転用、応用ご自由に。
      使用上の際は一度に使う量にご注意を。あまずっぺぇぇぇ!!くなりますからw。

      フラグなど幾らでも立てても良いので、ずっと待ってますよ。
      ありがとうございました。

      2018/05/16 07:41:23

オススメ作品

クリップボードにコピーしました