街は蠢いていた。まるで街そのものが巨大な生き物であるかのように、人々は四方八方へ霧散していく。

 摩天楼は波打つように揺れているのも、人々が走っているから、だろう。


 ――この声は、誰の声だろう。


 いや、それを訊ねることもない。だってこの声は――



 ――聞き飽きた自分の声なんだから。




「ねえ、何時になったら走るのをやめていいの?」

「――だめ、まだあの丘へと向かわないと」

 目の前には、街を見下ろす高台があった。きっとあそこのことだろう。

「――走るのをやめたい、と君は言ったね」

 声は続く。

「だけど、あの丘さえ超えれば、たった20秒でその意味を知ることになるよ」

 ――今、教えてはくれないんだろうか。

 それを訊ねても、ヘッドフォンは答えてはくれなかった。

 高台まで――あと3km。




≪a headphone actor [1st anniversary]≫

-the first part-




 交差点は大渋滞だった。当然のことだろう。今日、地球が終了すると言われれば。

 ここまでくれば、老若男女なんて関係ない。

 街は怒号に、赤ん坊の泣き声で埋まっていく。

 暴れだす人もいた。泣き出す少女もいた。世界の終わりを、カミに祈る神父もいた。その全てを私は追い抜いて――みんなが逃げる逆方向。

 ――あの丘の向こうへと。

「そう、あと12分だよ」

 ヘッドフォンから依然声はする。

 誰だろうと関係ない。

















 だがこのまま全て消え去ってしまうなら――これに頼るしかないだろう。



to be continued.

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

A headphone actor[1st anniversary]-the first part-

閲覧数:89

投稿日:2012/12/14 23:24:12

文字数:720文字

カテゴリ:小説

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