気づいたら随分と前から
僕は動く死体になっていた
生前の記憶を頼りに
起きて働き食べて眠って
土気色の肌に
貼り付いた笑顔を上塗りして
生きてるふりだけが上手くなる
今ではぼやけた記憶だけが頼りだ
青空を見れば
「清々しい」と深呼吸をして
夕焼け空を見れば
「明日はきっと晴れだ」と笑うべきだ
隣にいる君に
僕は実は死んでいるのだと
気づかれないように
この世もあの世も変わらなかった
生前も死後も繰り返すだけの毎日だ
ただ線を越えただけなんだ
僕は自分を愛するのをやめた
他人を愛して慈しむのに
僕には僕が邪魔だった
「好きだよ」と抱きしめられたら
「僕もだよ」と抱きしめ返して
愚痴を吐くだけの自分語りに
「辛かったね」と頭を撫でて
そうするべきだという記憶通りに
動く死体に心はないから
君の涙を拭えても
君の涙のわけは分からない
そうじゃないと叩かれても
愛が足りないと泣かれても
熟れた心の腐敗が増して
欠けた指先を握り隠して
ごめんね 僕は死体だから
生きてる君がわからない
犬や猫は可愛くて
赤子を見れば微笑んで
晴れ間を隠す雨空に
溜息吐いて傘をさす
当たり前の毎日は
当たり前に過ぎていく
君の幸せが幸せだったはずだ
今ではぼやけた記憶に縋る
死後の世界は気づいたら
鏡のようにそこにいた
僕らしい僕がこの世から
消えただけで 死んだだけで
いつものように時間は過ぎて
起きて働き食べて眠って
たまにただの死体らしく
布団から動けず伏して沈んでも
明日になれば記憶を頼りに
生きたふりを繰り返す
どうしてそうなっちゃったの、なんて
喚かれ責められるのは今までの
記憶になくて予想外れで
君になんて答えたら
正解かもわからない
僕は動く死体なんだ
僕は動く死体なんだ
「君のためだよ」と微笑めば
泣きながら君が僕を抱きしめるから
止まった心臓に君の鼓動が
うるさいくらいに響いて鳴いた
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