ミクさんの新作料理を阻止する為に此処(ここ)に来た、KAITOさんと私。
私達の目的は、ミクさんが不思議な食材を集め終える前にミクさんに出会い、彼女を連れて帰る事だ。
2日目の朝、KAITOさんは元気になって、開口一番にこう言った。
「今日は、この近くにある洞窟の中を調べよう。」
「他の場所は探さないんですか。」
「ミクはきっと、山の表面を調べ終わっている筈だ。それに。」
「それに?」
「ミクが今、洞窟の近くに下りていった。」
「ミクさーん。」
私と彼はリュックを背負い、走ってミクさんを追いかけた。
「はぁーっ、はぁーっ。」
「ぜーっ、ぜーっ。」
洞窟の入口に到着した私達。
しかし、ミクさんはどこにも居なかった。
少し休憩して息を整えた私は、KAITOさんに質問した。
「先に進みますか。それとも、ここで待ちますか。」
「先に進もう。ミクは他の出口を使うから。」
私達は洞窟の側を流れる川から水を汲み、ミクさんを追う準備を整えた。
そして、私達が洞窟に入ろうとすると、洞窟の片側の壁が、がらがらと崩れ落ちてきた。
「この先で、大きな蛇がミクから逃げているみたいだね。」
KAITOさんは冷静だ。
そして、ミクさんの非常識さは洞窟内でも健在のようだ。
洞窟内を進みながら、私は後ろを歩いている彼に話し掛けた。
「ミクさんの行動に詳しいですね。KAITOさん。」
「ミクがここに来る時は、僕もここに来ているからね。」
「毎回ですか?」
「ミクが危険な目に遭ったら、大変だからね。」
ミクさんが休みそうな場所を見つけて、掃除をしたり、
道端に葱を置いて、ミクさんを安全な所に誘導したり。
ミクさんのお兄さんって、意外と大変なのですね。
洞窟内を暫(しばら)く歩いていると、蝙蝠(こうもり)の集団が私達に襲い掛かってきた。
「何ですか、このコウモリは。」
「僕達は♪ 餌じゃなーい♪」
この状況下で、歌手である事を思い出して歌い出す KAITO さん。
しかし、彼が歌っている間も、私達は蝙蝠達に襲われ続けた。
「ミクのようには、いかないなあ。」
「ミクさんも歌うのですか。」
「うん。ミクが歌うと道を空けるんだよ。彼らは。」
「不思議ですね。」
ミクさんは、超音波を出す事も出来るのだろうか。
彼女の場合、「えふぇくとー」などと言いながら、一見無理な事でも実現してしまうから、恐ろしい。
更に歩くと、1匹の蛇が行く手を塞(ふさ)いでいた。
「しゃーっ。」
「やる気満々ですね。あの蛇は。」
「僕達はー♪ 敵じゃなーい♪」
また歌い出す、青マフラー。
「ミクさんも歌うのですか。」
「ミクは髪で威嚇(いかく)。」
私達は、ミクさんの真似が出来ない。
仕方が無いので、ミクさんが通らないような横道に入って、くねくね進む。
「また、道が分かれていますよ。」
「ミ、ク、は、ど、ち、ら、に、行、っ、た、か、な!」
「右ですよね。」
絶望的な手段で、ミクさんを追い求める私達。
「ヤモリですね。」
「反対方向に逃げるんだ。」
「また蛇ですね。」
「別の道を進もう。」
私達は、肌寒い洞窟を、汗をかきながら歩き回った。
そして、3回目の行き止まりから戻る途中で、私達は、通路の真ん中に据え置かれている四角の物体を発見した。
「宝箱だ。」
「こんな所にあるなんて、不自然ですね。」
「ふたを開けてみよう。」
「開けるのでしたら、慎重にお願いします。」
彼は、私の忠告を無視して、ぱかっと蓋(ふた)を開けた。
すると、箱の中から、小さなツインテールが姿を現した。
「みくー。」
「ミクだ。」
「小さなミクさんですね。」
「ミクー。僕が悪かったよー。」
「落ち着いてください。彼女は別人ですよ。」
会話をしている私達をじーっと見つめる、小さな瞳。
「おなか減ったよー。」
そこで、私は、リュックに入っている非常食の1つを、彼女の目の前に置いてみた。
彼女は宝箱に入ったまま、両手を上手に使って、むしゃむしゃと非常食を平らげる。
「可愛いなあ。」
「可愛いですね。」
KAITOさんは、小さなミクさんの求めるままに、非常食を次々と差し出した。
おなか一杯になるまで食べた彼女は、ごちそうさまの仕草をした後、しゃがんで宝箱の蓋を閉めた。
「小さなミクも、良いものだなあー。」
「ああっ、私の非常食も全部渡したのですか。」
「あのミクの目を見たら、拒否出来る訳無いだろー。」
「仕方ありませんね。」
私達は、いきなり食糧危機に陥(おちい)った。
小さなミクさん、恐るべし。
「とりあえず、食料を確保しよう。」
私達は、戻る道が分からなかったので、水の音を頼りにして前に進んだ。
そして、茸(きのこ)を発見。
「食用ですか?」
「僕達には、食べるしか選択肢が無い。そうだろう。」
私達は茸(きのこ)を炙(あぶ)って食べて、その副作用で笑い転げた。
そして、笑い転げている私達の目の前を、ミクさんが2度横切った。
けれども、彼女は私達の笑顔を見て、2回とも安心して通り過ぎていった。
ミクさーん。
私達は、笑いの発作が治まった後、洞窟内を流れる川を辿り、洞窟の外に出る事が出来た。
その日の晩は、葱(ねぎ)尽くし。
周りに生えている大きな葱を焼いて食べながら、私は今日の行動を振り返った。
とりあえず、ミクさんに出会うという、私達の第一の目標は達成した。
そして、ミクさんが私達よりも遥かに冒険に向いているという事も、理解した。
それにしても、宝箱に入った小さなミクさんは不思議な存在だ。
もしも彼女がゲーム世界の住人だったなら、史上最強のモンスターになれるに違いない。
ミクさんが新作料理を作る時。第3楽章
続きは http://piapro.jp/t/94Pl
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「ミクさんの隣」所属作品の1つです。
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