あるところに
美しい蝶を標本にして
醜い虫は全て潰してしまう
心の醜い女がいた
あるところに
虫一匹殺せないほどに
心の優しい青年が居た
女がとある森の中で
標本にする蝶を探していた時
見つけたそれは見た目の悍ましい
体中に目玉模様の青緑の幼虫
「なんて醜い虫けらだろう」
その女がその幼虫を蹴り上げて
飛び上がった幼虫は深い泥沼に
それを見ていた優しき青年が
その虫を蓮の花咲く泥の中から
手のひらでそっと掬い上げ
弱った虫を家で大層可愛がって
大事に大事に育てた
いつしかその幼虫は
本物の黄金で繭を作る月の蛹になり
中から生まれたのはこの世に
たった一匹の神の使いの眩いほど美しい
三日月模様の羽の純白の極楽蝶
それを知った女が
血眼でその蝶を青年から奪おうと
彼を崖から突き落として
一生歩けない体にしてしまった
しかし極楽蝶は彼女の前では
血の目玉模様の恐ろしい黒い蝶に
見え身の毛もよだつほどの
気味悪さにその蝶の赤い目玉の羽を
ナイフで八つ裂きに殺してしまった
それを知った青年は大層悲しんで
毎晩のように天の極楽蝶に手を合わせて
安らかに眠れるよう祈りを捧げた
すると彼の夢の中に
極楽蝶達の寄り集まってできた
魂の門が現れそれを潜った彼は
神の国と呼ばれる無限天国の世界へ
翌朝歩けなくなった彼の足は
蝶の羽のように軽く歩けるようになり
その後極楽蝶の夢に導かれるまま
見つけた黄金の蓮の泉の花を摘んで
生涯消えることのない富を手に入れた
その噂を耳にした女がまた
青年を黄金の蓮の泉に突き落とし
富を手に入れようとした
しかし
女の体は今まで潰した虫の命の数
体中に一生消えない深い切り傷が刻まれ
それはそれは醜い虫のような模様の
姿になってしまった
青年には極楽蝶の魂が翼となり宿り
永遠に消えない幸せを手に入れた
無限天国極楽神来迎絵巻物語
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