あれから何処をどう帰って来たのかよく覚えてない。御飯も食べる気にならなくてずっと部屋にこもっていた。お母さんが心配して様子を見に来たけど曖昧な返事で誤魔化した。何度目だろうか、また携帯が鳴った。
「もう…煩い!」
投げ付けようとして、メールじゃなく着信だった事に気付いて画面を見た。
「鷹臣さん…?」
胸がギュッと苦しくなった。今日の事を誰かから聞いたのかな?少しは私の事…心配してくれるのかな?そんな期待が捨て切れなくて、深呼吸してから通話ボタンを押した。
「はい…鶴村です。」
電話の向こうからはやけにザワザワと人の声が聞こえた。もしかして外に居るのかな?少し経ってから鷹臣さんの声がした。
「睦希…?」
「はい…。」
「今、何処?家か?」
「はい…。」
暫くの沈黙が何時間にも思えた。電話口で鷹臣さんが何かを言い淀んでるのが解る。何かあったのかな?それとも言い辛い事なのかな?大丈夫ですって、安心させた方が良いよね?
「あの…私なら大丈…。」
「睦希。」
「は、はい?!」
「此処に来れるか?俺の所に。」
「えっ…?」
いつもより少し低い、凄く真剣な声だった。自分の心臓の音がドクンドクンと耳に響く。
「あの…な、何か急用って事ですか…?」
「…そうじゃない…。」
「じゃあ…?」
「俺の側に来れる?ゲームでも、義務でも、気まぐれでも無くて、俺に守られる覚悟は出来る?」
携帯を落としそうになる位私の手は緊張して震えてた。何か言わなくちゃって思う度言葉が出て来なくて私はもう変質者みたいにハァハァ息をするしか出来なかった。頭の中で色んな事がぐるぐる回っていた。数秒なのか、数分なのか、電話の向こうで互いに言葉を待っていた。痺れを切らしたのは…鷹臣さんだった。
「…良いから来い。」
「――っ!」
聞こえちゃうんじゃないかって位、私はゴクンと唾を飲み込んだ。
「早く来て、会いたいから来て、今直ぐ此処来て…そんで俺に守られて?ね?」
金縛りに遭ったみたいに動けなかった。震える事も忘れた私は、呆けたままはっきりと言ってしまった。
「行きます。」
「ん、良い子。迎えやるから、待ってて。」
「あ、あのっ…!そこ…何処なんですか…?」
「…帝国ホテルのパーティー会場。」
電話が切れた直後、私は携帯を落としたまま、迎えが来るまで固まっていたのだった。
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