●デコに目覚めたルカさん

東京・原宿で人気の玩具専門店「キディディ・ランド」。
ここの店長は、ちょっとそそっかし屋だけども明るい、カイくんが務めている。
毎日子供からお年寄りまで、いろんなお客が、欲しいものを探しにやってくる。忙しい毎日だ。

今日は、カイくんのなじみの客、OLのルカさんがやってきた。
「こんにちは」
「やあ、いらっしゃい」
「忙しそうね」
「おかげさまで。きょうは、何をお探しで?」
「あのね」
といってルカは自分の手の指を見せた。
「あれ、ネイル!ルカさん、ネイル始めたんですか?」
「そうなの。職場の友達に連れられてね。その子と一緒にネイルサロンでやってもらったのよ」
爪にはとても小さなフルーツのような飾り…デコがついていた。
「いやあ、ステキですよ」
持ち前の愛想の良さで、カイくんがほめたので、ルカさんはすっかりご機嫌だ。
「そう?ウフフ。それでね、このお店にデコレ・シールってあるかしら」
「はい、デコレ・シールですね」
カイくんはうなずいた。最近は店にデコ(デコレーション)用のシールを探しにくる女性客が多いのだ。
ケーキやアイスクリームなどをかたどった小さい装飾用のシールで、いろんなキャラクターの顔をかたどったものもある。
「どんなシールがよいですか」
「あのね、リラッタコマのシール、あるかな」
「ああ、リラッタコマですか」
リラッタコマとうのは、たこの着ぐるみを描いたキャラクターで、いま若い女の子にバカ売れしているのだ。
カイくんは、いそいそとルカさんをシールの売り場へと連れて行った。


●なごめるデコレシール

笑顔、泣き顔、怒り顔。いろんな表情のリラッタコマが、プックリと盛り上がった半立体となっている。
それが、ハガキの半分ほどの台紙にギッシリと並び、売り場のフックに吊り下げられている。
「わぁ」
ルカの目が輝いた。
「私、まだデコって初心者なの。ネイルをしたのも初めてだし。でも、これはネイル用じゃなくて文具よね」
「そうですね」
「これは、どんな風に遊べばいいのかしら」
「いろいろできますよ」
カイくんは説明した。
「ケータイとか、机の上の小物とかミラー、手鏡なんかに貼る人が多いけれど、たとえばオフィスの身の回りで、電話の受話器とかパソコンのマウスとかに、ワンポイントで貼っても楽しいですね」
カイくんはふと思いついて言った。
「名刺のケースなんかに貼っても、なごめますよ」
「え?名刺?」
「ええ、名刺入れとかにワンポイントでね。名刺の交換とか、けっこうキンチョーするでしょ」
「そうなのよ」
ルカは苦笑いした。
「ちょっと人見知りだから、私、名刺交換はニガ手だわ」
「それなら、リラッタコマのデコレはいいと思いますよ。ユーモアがあって気持ちがなごめるかも」
「そうね!楽しそう。じゃ、このシールください」
「かしこまりました。有難うございます」
ルカさんはうれしそうに、デコレシールを買って帰っていった。

●どこに貼ってるの!

一週間後。
また、店にルカさんがやってきた。
「こんにちは、カイさん」
「やあ、いらっしゃい。ルカさん」
「このまえ買ったデコレシールだけど、またいただけるかしら。もう、無くなっちゃったの」
「ええ、もう!ずいぶんお気に入りですね。けっこうドンドン使われてるんでしょう?」
「そうなの」
ルカは楽しそうに名刺入れを出した。ケースには、このあいだ買ったリラッタコマの顔がほほ笑んでいた。
「こうして、シールを貼って…」と言って彼女はケースを開け、名刺を一枚とり出した。
「会った人に渡してると、もうドンドンなくなっちゃって」
名刺の“巡音ルカ”の名前の横に、ぷっくりとしたタコの顔が笑っていた。
「…ルカさん、ひょっとして…」
カイくんはおそるおそる尋ねた。
「名刺にデコレシール貼って渡してるの?」
「そうよ。はい、カイさんにも」
彼女はリラッタコマ付きの名刺を、カイくんに渡してくれた。
「あ、ああ、どうも」
カイくんの額にうっすらと汗が浮かんだ。
「これ、お仕事の相手に渡してるんでしょう?」
「そうなの。やっぱり、場がなごむわねー。もう、たくさん交換してるから、シールが減るのが早くて」
カイくんは思った。ボク、名刺“ケース”に貼るって言ったよな…
おずおずと聞いてみた。
「ルカさん、これもらった人、喜ぶ?」
「そうね」
彼女は楽しそうに言った。
「喜ぶというか、ちょっと驚くわね。やっぱり。でも不思議なのは…」
ルカは朗らかに笑った。
「みんな、名刺を見た後で、私の顔をじっと眺めるのよ。どうしてかしら?」


(ボクのせいだったかなぁ…\(^o^)/)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

玩具屋カイくんの販売日誌(1)ルカさんのデコレ・シール

東京・原宿で人気の玩具専門店「キディディ・ランド」。
ここの店長のカイくんが、いろんな客様のお相手をします。
今日は何が売れて、誰と出会えるかな…

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投稿日:2009/05/02 00:51:47

文字数:1,933文字

カテゴリ:小説

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