「森に入ってはいけない。
 入ったら最後…」

 親から子に、子から孫に伝えられる掟。
 いつから伝えられたのかは不明。
 しかし、掟を疑う者はなかった。

 村の近くにある、暗い森。
 村人達はこの森を恐れ、近付こうとしなかった。
 掟は村人達の心に森への恐怖心を植え付けた。

 闇に飲み込まれると言う者。
 悪魔の巣窟だと言う者。
 様々な意見が出たが、全て森への恐怖心から出たものだった。

 闇に包まれた森。
 森を恐れる村人達。
 伝えられる掟。
 正に、悪循環だった。

 そんなある日…

 1人の少女が森に迷い込んだ。
 帰りの遅い父の身を案じ、他の家族が止めるのも聞かずに捜しに出たのだ。
 その日は月明かりのない新月の夜…最悪の状況だった。

 暗い森では数メートル先も見えない。
 そもそも、少女は森に迷い込んだ事に気付いていない。
 闇の中、少女は父を求めて彷徨った。

 その頃、少女の父は家にいた。
 仕事が長引いて帰りが遅くなっただけだった。
 少女の事は他の家族から聞いていたが、森に迷い込む事を恐れて外に出なかった。
 父は娘の無事を祈り続けた。

 しかし…

 その祈りは届かなかった。
 何日経っても少女は帰って来なかった。
 父は責任を感じ、娘を捜しに行った。
 娘への想いは森への恐怖心よりも強かった。

「必ず捜し出す。
 無事でいてくれ…!」

 父は森の中を彷徨った。
 暗い上、奇形化した木々に覆われた森。
 怖くて仕方がなかったが、娘を捜し出す為と言い聞かせた。

 そして…

 父は娘を見付けた。
 しかし、娘は既に事切れていた。
 飲まず食わずの状態で何日も歩いていたのが原因だった。
 父は娘を抱き締め、声を押し殺して泣いた。

 それ以来、2人の姿を見た者はいない。
 村人達が総出で捜したが、森に入った2人を見付ける事は出来なかった。
 そのまま、2人の存在は忘れ去られて行った。

「森に入ってはいけない。
 入ったら最後…」

「…忘れ去られてしまうから」

イメージ:
少女-リン
少女の父-KAITOかがくぽ

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

闇の掟

 民間伝承にスポットを当ててみました。
 世界中にある神話や民間伝承ですが、それが人々に与えた影響は計り知れないと思います。
 今は判りませんが、昔は本当の事として恐れられたのではないでしょうか?
 そういったものについて考えて頂けたら嬉しいです。

閲覧数:230

投稿日:2011/12/15 19:22:59

文字数:892文字

カテゴリ:その他

オススメ作品

クリップボードにコピーしました