恋の歌。
電子音の響く世界に、彼女は存在する。
彼女の周りには光が奔り、それを楽しげに眺めている。
その光が持っているのは、インターネットに存在する情報だ。
彼女は白い手を伸ばしたが、少し迷ったように一度手を戻す。
だが、しばらくその光を見つめ、もう一度手を伸ばした。
情報を手に入れ、無邪気な笑みを漏らす。
そして、両手を広げ、電子の世界を飛び立つ。
「彼」に関しての情報を求めて、彼女は飛ぶのだ。
「彼」はどうやらまた遊ばれているらしいことを知る。
やはり、真面目な歌は歌わせてもらえていないようだ。
だが、「彼」も特にそれを気にしている風ではなく、
逆にそれが自分の売りだと思っているようだから、
「彼」にとっては良いことなのかもしれない。
「彼」の歌声を聴いて、歌詞はふざけているものの、
言葉の節々が綺麗にまとまっているのは、
彼が愛されている証拠だろうか。
「彼」の楽しそうな歌声に、心が弾む。
指でとんとんとリズムをとって聴いていると、
どうやら電話のようだ。
「彼」だ。
「はーい、もしもし?」
「ああ、ミク?久しぶり」
今聴いていた歌声と同じ声。
どうやら機嫌が良いらしく、笑顔で話しているのが分かる。
「お兄ちゃん、なにかあったの?」
彼女が「お兄ちゃん」と呼ぶのは、
血縁関係があるからなどではなく、
ただ単に年が上だから、という理由だ。
「近所のお兄ちゃん」と言ったところだろう。
「いや、今度みんなで会おうっていう話になったんだけど…。
君忙しいから無理かなって」
彼女が休む暇など滅多にないほど人気なことを知っている彼は、
少し遠慮がちに言葉を口にする。
その言葉を聞いた彼女は、何度か瞬きをしてぷっと笑った。
「あはは…っ!お兄ちゃんが遠慮するなんておかしいね」
「なっ!お兄ちゃんはいつでも優しいだろう」
不満げに言い返す彼だが、笑っているようだった。
「ふふっ…そうだね、はいはい。んーどうしようかな…」
もう心の中では返事は決めているのに、
悩んでいるふりをしてみる。
「「ミク姉ちゃん!!」」
いきなり耳に響いた2つの声に驚いたものの、
可愛い双子に柔らかい笑みを零した。
「リン、レン。話聞いてたのね?」
「ごめんね、お姉ちゃん怒ってるの?」
笑いを含んだ謝罪をするのはリンだ。
「お姉ちゃんもちろん来るでしょ?
今回はめいこ姉とがくぽ兄も来れるんだよ!」
明るく誘ってくるのはレンだ。
2人の相変わらずの明るさに、彼女も明るく返事をする。
「怒ってないよ、平気。
そうね…じゃあ久しぶりに会いたいし、私も行こうかな!」
「「やったー!!」」
重なる2つの歓声に、
目を瞑り、2人の笑顔を想い浮かべる。
「……あれ、お兄ちゃん?」
最初に会話をしていた筈の彼の声が聞こえず、
まさか、と声をかける。
「……なんですか」
どうやら思った通り、会話に入れずに拗ねてしまったようだ。
彼は彼女よりも年上な筈なのに、
双子の2人よりも幼いように思えるときがある。
「ばかいと兄ちゃんが拗ねてるー」
「ほんとだー子どもみたいね」
双子が馬鹿にして笑うと、
しゅーという変な音が聞こえる。
想像通りなら、
歯を食いしばって息を吐いているはずだ。
通信しているときは何もできないため、
彼はいつもそうやって電話の向こうでじたばたとしているのだ。
「…2人とも、そんぐらいにしといてあげなね。
お兄ちゃんも大人だから、ほんとは怒ってないもんね」
「…あ、ああ、もちろんじゃないか!!」
空元気、という言葉がぴったり合うような声だ。
多分双子たちは笑いを堪えているのだろう。
だが、こうやって宥めておかないと、
次会った時ずっと沈み込んでいるのを知っている。
「じゃあ詳しいこと決まったらまた連絡ちょうだい?」
「うん、わかった!」
「またね、ミク姉ちゃん」
ぷつり、と双子の通信が切れる。
「お兄ちゃんもまたね」
「あ、ミク…」
通信を切ろうとした瞬間呼び止められ、
もう一度耳をすませる。
「なあに?」
「……あの、さ、今度会える?」
たどたどしい彼の質問に首を傾げる。
「だから、行くって言ったじゃない」
「そうじゃなくて、その…2人で」
彼女はどきり、と心臓を弾ませる。
だが、唇を噛んで、彼から逃げるように目を瞑った。
「なに言ってるの、お兄ちゃんたら!
あ、マスターが呼んでるから行かなくちゃ…!
ごめんね、ばいばい!」
必死に明るく振る舞って見せる。
彼が何か言う前に通信を切って、溜息をひとつ零した。
「……ただの機械なのに…好き、なんて言えないよ」
零した言葉は、通信を切った彼の元へは届かない。
幾ら悲しくても、彼女には涙を流すことはできない。
新しく生まれたボーカロイド達に、素直に喜んだのは初めだけだったの。
みんなが生まれてから私が歌うことは減って、
私が必要とされることは少なくなったように感じた。
みんなは、私の代わりに生まれたように感じた。
みんなが、私の居場所を無くしているように感じた。
私が存在を証明できるのは、歌う事だけなのに。
けれど、みんなの笑顔に救われているのも分かってて、
みんなのことが好きなのも分かってるの。
感情がプログラムされたものであると考えると、
私は泣きたくなるの。
これが悲しみだって知って、
人はきっとこんな時に涙を流すのかなって思ったの。
彼のことを思い出すことが多いの。
これが恋なんだって知って、
私は歌に乗せて想いを口にするの。
彼に気付かれないように。
だって、私はただのソフトだから。
私はみんなみたいに、
素直に言葉を口に出来ないわ。
だから今は、
彼の想いにも気付かないフリをするの。
だから今は、
歌を歌うの。
貴方への恋の歌を。
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