「死んで」
往来のど真ん中、そう目の前の女に告げられた。
その女の髪は真っ黒だが、今時流行りのクロカミロングってやつじゃない。
えっ、流行ってなんかないって? まぁ、実際流行っているかどうか、なんてどうでもいいことは今置いといてくれ。それより俺が今置かれているこのデンジャラスな状況につっこんでくれ。
そんな彼女の自慢であろうつやのあるセミロングの黒髪と同じくらい黒く光る得物は、まっすぐに俺の眉間を捕らえている。
あぁ、なんか死ぬみたいだ。
パニックが一回か二回かくらい回って俺が持った感想はこんなにもあっさりしていた。ここで、注目してほしいのはこれがただの『感想』でしかないってことだ。混乱していたことは確かで、感情の働かない俺の生命としてのもっと根幹的な部分では、警告のアラームがワンワン鳴いている。
てな訳で身体は一ミリだって動かない。
すべてがスローモーションに見える。
よく聞くだろ? 死の間際になったら感覚が鋭くなるみたいなこと。ようはその状態だ。俺も体験するまで、こんな現象は嘘だと思っていたし、そもそも、この状況に陥ることがあるとさえ思ってなかった。もしかしたら、貴重な体験ができたのかもしれない。
……正直、喜べる体験じゃない。
じれったい速さで彼女の人差し指が引き金を引いているのが視界の中心に映る。繰り返すが産毛の一本でさえ動かない。たぶん、これが運命。
彼女が引き金を引き切った時、俺の生まれた意味は霧散した。
「おめでとう」
愛する世界が消え去った。
─────────────
「死んで」
往来のど真ん中、そう目の前の女に告げた。
その女の髪は真っ黒のセミロング、私と全くの瓜二つだ。
瓜二つなのは髪だけではない。目も鼻も口も指もつま先も私とどこも違わない。まったくの鏡みたいだ。でも、きっと表情だけは違う。私は泣いていて、彼女は優しく笑っている。まるで殺して欲しいと言わんばかりに。
そんな彼女の眉間に私は自分の持つ凶器を突き付ける。何の冗談でもなく、真剣に彼女を殺す気で、彼女と別れる覚悟をのせた銃を向けている。
ごめんなさい。
私が彼女に抱いた感想はたった一言だった。我ながら薄情である。引き金に掛ける人差し指に神経を集中させ、微笑む彼女を殺すその数瞬前だというのにわずか一言しか思いつかない。だからこそかもしれない。この『ごめんなさい』にはすべてが詰まっているのかもしれない。
そういえば往来のど真ん中だが、誰ひとりとして私たちにかまう人たちはいない。邪魔をされても困るのだが、かまってもらえないと言うのもなんだかさみしい。
そう、私は感情を知った。たぶん、だから彼女は私を嫌った。たぶん、だから私は彼女を飽いた。なら、これが運命。
一度のまばたきをはさんで私は人差し指に力を込めた。何も考えられない。懐かしい、感情のない感覚。一瞬の出来事だったように思える。あまりにもあっけなく冷たい引き金は引き切れた。
重く光る銃弾が彼女の眉間をうがった時、彼女の生まれた意味は昇華された。
「ありがとう」
愛した世界が消え去った。
コメント0
関連動画0
オススメ作品
くしゃくしゃになった診察券を持って簡単な想像に日々を使っている
単調な風景にふと眠くなって回送列車に揺られ動いている
看板の照明が後ろめたくなって目を落とした先で笑っていた
通りを抜けて路地裏の方で屈託もなく笑っていた
映画の上映はとうに終わっている 叱責の記憶がやけに響くから
できれば遠くに行かな...フラジール 歌詞
ぬゆり
1
寄り添うフリをして 電話が掛かるの
もう何回目の暇つぶし
貴方が選んで否定してきた全てが
私は必要だった
神が居ないなら 此処から飛び下りてしまいそうな人を笑う
祈りも神社仏閣も壊せないのに?
「あー俺も早く機械(ヴォーグ)になりてぇな!」
見下ろしては連呼する 目 目 目
知らなかったと喚いて...機械になりてぇな
mikAijiyoshidayo
インビジブル BPM=192
とんでもない現象 どうやら透明人間になりました
万々歳は飲み込んで
ああでもないこうでもない原因推測をぶちまけて
一つ覚えで悪かったね
まあしょうがない しょうがない 防衛本能はシタタカに
煙たい倫理は置いといて
あんなこと そんなこと煩悩妄執もハツラツと
聞きた...インビジブル_歌詞
kemu
【頭】
あぁ。
【サビ】
哀れみで私を見ないで
(探したい恋は見つからないから)
振られる度に見つけて
いまは見えないあなた
【A1】
儚い意識は崩れる
私と言うものがありながら...【♪修】スレ違い、あなた。
つち(fullmoon)
<配信リリース曲のアートワーク担当>
「Separate Orange ~約束の行方~」
楽曲URL:https://piapro.jp/t/eNwW
「Back To The Sunlight」
楽曲URL:https://piapro.jp/t/Vxc1
「雪にとける想い」
楽曲URL:http...参加作品リスト 2017年〜2021年
MVライフ
A 聞き飽きたテンプレの言葉 ボクは今日も人波に呑まれる
『ほどほど』を覚えた体は対になるように『全力』を拒んだ
B 潮風を背に歌う 波の音とボクの声だけか響いていた
S 潜った海中 静寂に包まれていた
空っぽのココロは水を求めてる 息もできない程に…水中歌
衣泉
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想