――ステラはひとつ、魔法をかけました。
――それは世界の誰にも気づかれないように、ほんとうに些細なものでした。
――もしも私が明日死んだら、すべての光が無くなってしまいますように。
≪ストラトステラ 前編≫
1
白い病室の扉を、僕は開けた。
そこでは一人の少女が、柔和な笑みを浮かべていた。
彼女はずっと、この病室のベッドに居る。
彼女はずっとこの病室のベッドに、居る。
「今日も来てくれたの、ストラト」
彼女のか細い声を聴いて、僕は頷いた。
サイドテーブルに林檎の入ったカゴを置いて、僕は林檎の皮をむき始める。
「ずっと来てくれて、ありがとうね。ストラト」
「別に僕は良いよ。君が笑ってくれるなら」
気取っている風に聞こえるかもしれないけれど、それは僕の真実だ。
彼女――ステラはずっと入院している。もうどういう病気なのか忘れてしまったくらい昔から入院しているのだけれど、僕とステラの付き合いはそう長いものではない。
ステラと僕が出会ったのは二年前のこと。僕もちょっとした病気で入院していたのだけれど、その隣にいたのがステラ――彼女だった。
ステラは笑って僕に話をしてくれた。色んな話だったが、他愛もない話ばかりだった。年もそう遠くない僕たちは、気づけば友達になっていた。
そして退院日、僕はステラに約束した。
――また、ここにやってくる。今度は僕がお見舞いに行く。
そしてその約束は今でもずっと続けられているのだけれど。
「私、たまに思うの」
林檎の皮をむき終わり、食べやすい大きさに切り分けたところで、ステラが言った。
僕は顔を上げた。ステラは話を続けた。
「こんな世界、大嫌いだって。お医者さんは言うの。この病気はきっと、永遠に治ることはないだろう……って。そんなこと、何で解るの? 私はずっと、ここから出ることは出来ないの……?」
「そんなことはないよ。お医者さんのことが嘘だとは思えないけれど……、でも絶対外に出ることは出来る」
思わず、僕の口から嘘が零れる。
正確に言えば、確信のない発言。
そんなこと、彼女が最後に悲しむだけなのに。
それを聞いた彼女は微笑んでいた。
「……そうだね。弱音を言っていちゃだめだね。頑張らないと!」
そう言ってステラはガッツポーズをした。
その時間が、僕にとってとても嬉しい時間だった。
2
「ストラト、この病院の近くに古い教会があるの、知ってる?」
「教会? ……ああ、あの廃墟になっているところかな。そうだね。確かに聞いたことがあるよ」
「あの教会には鐘があるんだって。あれを鳴らすと、願いが叶うんだって」
「へえ。そんな鐘があるんだ……」
……のちに知ったけれど、その鐘は『祝福の鐘』と呼ばれている、恋の成就を求めるカップルにとっては聖地とも呼ばれる場所だった。
3
医者から僕に、ステラの外出許可が下りたことが伝えられた。
ステラは最近すっかり衰弱してしまっていて、僕が来た時の反応も徐々に薄くなってしまっていた。僕の話を聞く相槌も、ゆっくりになっていた。
だからこれは、きっと最後のチャンス。
そう思って、僕はステラにそれを話した。
「ねえ、ステラ。――行こうか、あの鐘を鳴らしに」
「……ストラト、あなたはいったい何を言っているの?」
「下りたんだよ。外出許可が」
「え……」
「さあ、善は急げだ。行こう、あの場所へ」
彼女を着替えさせて、僕と彼女は、二人で初めて病室の扉を開けた。
コメント0
関連動画0
オススメ作品
ゆれる街灯 篠突く雨
振れる感情 感覚のテレパス
迷子のふたりはコンタクト
ココロは 恋を知りました
タイトロープ ツギハギの制服
重度のディスコミュニケーション
眼光 赤色にキラキラ
ナニカが起こる胸騒ぎ
エイリアン わたしエイリアン
あなたの心を惑わせる...エイリアンエイリアン(歌詞)
ナユタン星人
6.
出来損ない。落ちこぼれ。無能。
無遠慮に向けられる失望の目。遠くから聞こえてくる嘲笑。それらに対して何の抵抗もできない自分自身の無力感。
小さい頃の思い出は、真っ暗で冷たいばかりだ。
大道芸人や手品師たちが集まる街の広場で、私は毎日歌っていた。
だけど、誰も私の歌なんて聞いてくれなかった。
「...オズと恋するミュータント(後篇)
時給310円
持ち前の正義感と
幼い頃あこがれた
ヒーローになりたくて
体を鍛えいつの日か
誰かを救いたいな
そんな時が自分にも
あったのかと思うと
今の落ち込んでいる
自分を誰か救って
もう先へ進むのつらいよ...私の英雄
普頭
ゼロトーキング / はるまきごはんfeat.初音ミク
4/4 BPM133
もう、着いたのね
正面あたりで待ってるわ
ええ、楽しみよ
あなたの声が聞けるなんて
背、伸びてるね
知らないリングがお似合いね
ええ、感情論者の
言葉はすっかり意味ないもんね...ゼロトーキング(Lyrics)
はるまきごはん
ʚ アノミー的Seaside ɞ
我楽多になった関係が
脳天に蔓延って
寂寞を模した安寧に
目を逸らしている
瘡蓋の冥利十二月
剥がれては最後って
明白な凶器十代
罪犯している(ー_ー;)
花束が散って陰影が...ʚ アノミー的Seaside ɞ 歌詞
CULT P
ねえ 僕らは何千年 何を目指して歩いてきたんだっけ
歩んだ数千年 に一体何を期待してたんだって
煌めく満月と 僕らの存在なら対照的で
みち照らす月光は 不安定な将来への道しるべ
ねえ 君らは約何年 何を探して歩いてきたんだっけ
うずいた唇を 息の根止まるくらいに貪って
溶け込んだ よだれと悪魔の囁き...僕の数千年
mint
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想