むかしむかし
母と父と兄とアリーナ。
とある町の貴族一家が馬車で転落事故をした
一家は消息不明となり
生きていると思うものは誰もいなかった。
峠を転がり潰れた馬車の下から奇跡的に一命を取り留めたアリーナ。
しかし記憶を欠いてしまったと噂されていた…
以前からアリーナに恋をしていた町の庭師は噂を聞きつけ兄と名乗り出る
まだ幼いアリーナに負わされた屋敷と莫大な遺産が
よくない輩に騙されこそぎ取られないように…─────
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「君に違いない!」
他人のあなたは歓喜して涙を流す
両手でわたしを抱き締めて
ずいぶん探したわが妹よ!と
初対面の挨拶
お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん
お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん
お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん
お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん
お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん
お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん
自己暗示
いいえ
願望欲望あしたの希望
貴男が私のお兄ちゃんじゃない事に
ずっとはじめから気付いていました。
まだ幼い私に残された屋敷と莫大な遺産が目当てだということも。
だけど全部貴男にあげる
いくら払っても傍に置きたかったから
歪んでズレていびつな形で産まれた私の初恋を守りたかった。
あぁぼくの愛しいアリーナ!
噂に聞けば家族を事故で亡くしたと
馬車の下敷になりながらも
記憶を欠いて命を取り留めた君
探して探して見付けた君はすっかり痩せて
しかしゴミ捨て場に埋もれ輝くラピスラズリ
美しい君の瞳に以前の光戻るまで
僕は兄のふりをしよう
君が僕を疑おうと、僕は君を疑わないよ。
僕が何者かなど…君のために過去は棄てよう。
貴男はいつも花を愛でる
しがない庭師と、覚えています。
屋敷の前を通るたび私の姿を探していたことも。
どうしてそんな哀しい顔で
私を見つめて微笑むの
もしも連れ出してくれたなら
すぐに貴男と恋をしたのに
それが今ではお兄ちゃん
嘘を云うのなら付き合うわ。
月日が経つ程に
また1日重ねられる嘘
置き手紙1枚で終を迎える
『アリーナ君にこんな形でお別れする事を許しておくれ。
僕は君を想う愛よりも、君を騙している罪悪感に負けたんだ。
君は家族もなく1人
僕は庭師。赤の他人です。
ばちが当たったんだ
僕の命はもう長くない。
君が遺産を全て継げるように
お兄ちゃんを今日で終わりにします。
短い間だったけどお兄ちゃんと呼んでくれてありがとう。
さようなら。』
お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん
そんなのってないわ
貴男を疑ってごめんなさい
最後まで私と居てほしいの
また私を独りぼっちにするつもり?
アリーナは屋敷を売り払い残った遺産の全てをもって兄を探した
探して探して見付けた兄はすっかり痩せて
しかしゴミ捨て場に埋もれ輝くブルーズアイ
「貴男に違いない!」
他人の私達は抱き合って泣いた。
全てを注ぎ込んだお金で医者に見せて廻っても
良くなる気配は一向になく
「空が白い、もうじき雪が降る」
2人は染みる寒さを逃れるように
街角のベンチで寄り添って座った。
「お兄ちゃん」
「なんだいアリーナ」
「私、貴男が庭師だって知っていたの。」
「そうか」
「ありがとう」
「結局僕のために財産を全て失ってしまった」
「いいの。お兄ちゃんが残ってるわ」
他人の2人は白い雪に包まれて眠る
もう明日が来ないと知りながら。
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