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#include <memory.h>
int main(void){
remember(before 1 years,before 31 days);
一年と一ヶ月前の事だ。
六つ目の会社を辞めるべきかどうするか悩んでいた頃。
そんな頃に、私は初めて精神科に受診した。
今の、在宅のコンピュータプログラマーの仕事をする前の事だ。
それまでずっと、オフィス勤務の仕事をやっていた。自分にとって、そういうのが「仕事」なのだと思っていたからだ。
だが、言葉の裏が読めず、その場の空気も読めなくてコミュニケーション能力が壊滅的な私の行動は、必ずと言っていいほど同僚や上司との関係に軋轢を産み、上手くいった試しなどなかった。
もう駄目だ、と思う度に仕事を辞めた。その都度、今度こそは頑張らなければ、苦手なコミュニケーション能力をなんとかしなければ、と悩みながら転職を繰り返した。
思い返してみれば、よくもまあ何度も転職が上手くいったものだ。短期間で就職しては辞めてを繰り返している履歴書を見れば、採用を避ける会社は多い気がするのだけれど。
当時も似たような事を考えていて、その六つ目の会社に入社した時、今度はそう簡単に辞めないようにしなければ、と考えていた。
そう考えてはいたけれど、私と同僚との関係は早々に破綻した。関係の悪化は、それまでで一番酷かった。
だというのに、私は中々辞めようとしなかった。
私自身に課した「簡単に辞めてはならない」という、後から考えれば本当にどうでもいい理由を、頑なに履行しようとしていたからだ。
やがて、私は会社に行こうとするだけで動悸がしたし、上司や同僚と同じフロアにいるだけで冷や汗が止まらず、いつも以上に仕事が手につかなくなった。社内で誰かに名前を呼ばれただけで過呼吸になりかねない有様だった。
それを心配してか、当時はそれまでたまにしか連絡を取り合っていなかったトワが、毎日のようにメールをくれたり、週一回くらいの頻度で飲み屋での愚痴に付き合ってくれたりした。
そこで、彼に「それはうつ病くらいで済む話じゃない」と言われ、ようやくこれは病気なのかもしれない、と思い精神科を受診する事にしたのだ。
基本、自分の知っている範囲でしか行動せず、よっぽどの事がない限りは新しい物事に手を出さない私にとって、精神科というのは未知の領域だった。
電話で予約を取るだけで、緊張で死ぬんじゃないかとか、そんな事を真剣に考えたくらいだ。
予約の時の電話ではごく普通の受け答えが出来たと思うが、相手がどんな風に受け取ったのかは分からなかった。当日その場に行った時、何か怒られたりするのだろうかとか、質問された時にどう受け答えすればいいのかとか、そんな事を考えただけで頭の中はいっぱいになった。
そんな心配をよそに、初診はあっけないくらいになんて事なく終わった。
一切怒られなかったし、むしろ和やかな雰囲気ですらあった。
後から考えれば――考えなくとも分かりそうなものだと、今では思うが――そもそも、受診しに行って怒られるなんて、そんな馬鹿な話があるわけなかった。
私は、なんだ、大した事はなかったかも、と思いかけていたのだが、問診を終えた医師は、貴女には障害の可能性がある、という情け容赦のない言葉を発した。
高機能広汎性発達障害。
それが、疑われる障害の名前だと言われた。
正確には、その大枠に分類される障害を持っている、という話だった。
検査をすれば、より細かな区分けにおける障害名のついた診断書も出す事が可能だと言われたが、私はそれを断って病院を出た。
どこか呆然とし、そして何一つ納得のいかない答えに、私は別の病院を受診する事にした。
一度目の緊張などどこへやら、私はさっさと電話予約を済ませると、その日の内にもう一件受診した。
今度は、自閉症スペクトラム障害に分類されるだろう、と言われた。
そこでも検査をするか聞かれたが、うんざりした気持ちで断った。
後で調べてみると、高機能広汎性発達障害と自閉症スペクトラム障害の二つは、線引きの難しい障害の、大枠を指した名称のようだった。
自分が発達障害だとか自閉症――最近は範囲、という意味のスペクトラムという言葉をつけるらしい――だとか言われても、全く納得出来なかった。しかし、調べた結果、それらは教育がどうとかなんて関係ない、先天性の脳障害なのだという。
そしてそれらには、知能の遅れの無いものもあるらしい。私は、その知能の遅れのない――その事を高機能と称するらしい――発達障害か自閉症スペクトラムのどちらかに分類される、何らかの障害を持っているという事だった。
その時の気持ちを、私は上手く説明出来ない。
単なる「ショック」という言葉に収まらないダメージがあったのは確かだ。
そして同時に、やり場のない怒りも確かにあった。
今までも、そして恐らくはこれからも苦労し続けるであろう、私の「他者と意思疎通を図るのが不得手」という事象ついて、医療は「障害」だと宣告した。
私には、それは烙印だとしか思えなかった。
私が他者の言葉の裏を読む事が苦手だったり、その場の雰囲気を察する事が出来なかったり、単なる冗談を額面通りの意味にしか受け取れなかったりする事は、自分自身ではどうにもならない事なのだと言われたような気がしたのだ。
これまで、必死に他者と折り合いをつけようとしてきたその努力は、あまりにも無駄で、さっさと諦めるべきものだったという気分にさせられた。
流石に三件目の精神科を探す気にはなれず、家に帰った。それから、私はトワからの「どうだった?」というメールも無視してすぐに辞表を書いた。
一睡もせず翌朝に出社し、始業前に上司にそれを渡すと、何か言われる前に家へと取って返し、夕方まで泣いた。
ああ、私はなんて馬鹿だったんだろう。
なんて無駄な生き方をしてきたんだろう。
そう思うと、いつまでたっても涙は止まってくれなかった。
close "remember" function();
メモリエラ 4前編 ※2次創作
第四話前編
今さらですが、今回の文章もまた、全然ピアプロ向けの文章にはなっていないよなぁ、とか思ってます。気づいてます。わかってます。
主人公の年代や漢字使用率の高さ(一部例外があり)からすると、二十代後半向けくらいになってるんじゃないかと。またあいかわらず文章多いくせにセリフ少なめですしね。
本当、申し訳ありません。
そして、文字数オーバーしたので、第五話に行く前に、前のバージョンで第四話後編へお進み下さい。
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