あれから1ヶ月。
俺は神威グミと名乗った女に、何故か何もされないままに解放され、カイトの葬式には、ミクや加賀峰の死との関連があるんじゃないか、ということで、多くのマスコミやメディアも参列していた。
それも徐々に世間の波へと埋まっていき、街は再び自分たちのリズムに戻っていった。
そして、今日俺は、ミクの墓前に来ていた。
軽く目を閉じ、手を合わせる。
寺の鐘のゆっくりした響き。墓石の冷たい空気。時間の流れがゆっくりと感じる。
「ミク・・・元気でやっているか。加賀峰や、カイトも・・・そっちに、行っちゃったな。3人で・・・仲良く、やってるか?」
ふっと苦笑する。ふいに風が吹いて、ミクが返事をしてくれたように感じる。
「・・・っ、ごめん」
思わず零れた涙を、服の袖で乱暴に拭う。
もう一度墓石に向き直ると、精一杯笑顔を作る。
「じゃあ・・・また来るな。」
すっと立ち上がり、振り返ると、にこり、と微笑む神威グミが立っていた。
俺は強く睨み付けると、神威グミの横を通り過ぎようとする・・・と、腕を捕まれた。
「っ、」
「偉いですねぇ!お墓参りですかぁ?」
「・・・離せ。」
バッと腕を振り払おうとする、が・・・
「つ・・・」
腕に走る予想外の痛みに、油断しきっていた俺は思わず顔を顰める。しかし神威は変わらない微笑みで、容赦なく俺の腕を締め上げる。
「うふふっ、いけませんねぇ?人の話は最後まで聞かないと!」
神威グミは有無を言わせずに言葉を続ける。
「彼らはどうして死ななければならなかったのか・・・その意味は何なのか。まさか、気付いていない、とは言わせませんよ」
急に、いつものふざけた口調から、真剣みを帯びた口調へと変わる。
「・・・どういうことだ」
「本当に馬鹿ですね、鏡音レン。このままでは、あの子の願いは水の泡。そんなことをしても良いと、あなたは言うのですか?まったく、関係となんてたやすく壊せるものなのに、何故それでも、人は、あの子は、皆人に関係・・・、絆を求めるのかしら。」
「あの、子・・・?」
神威は冷たい瞳で俺を一瞥すると、くるりと身を翻して、すたすたと歩いていった。・・・が、ふいに立ち止まると、振り返らないまま、感情のない声で呟く。
「・・・真実を知りたいなら、明日午後10時に、ミクが発見されたマンションに来て」
「え、おいっ・・・」
返事を返す前に、神威グミは駆けていった。
「真実・・・?」
翌日、午後10時。街灯の明かりがぽつりぽつりと目立つ夜。
俺は1人、指定されたあのマンションの前に立っていた。
「こんばんわぁ~」
変に抑揚のついた猫なで声。俺は角から曲がってきた神居威グミに挨拶も返さずに聞いた。
「教えろ神威グミ。お前は何を知っている」
一瞬驚いたような表情を浮かべると、神威グミはにっこりと貼り付けたような笑顔を浮かべた。
「うふふ、焦らなくてもちゃぁんと教えますよぅっ!さぁっ、行きましょう!」
神威グミは俺の手を取ると、軽やかな足取りで、ミクが発見された部屋へと向かう。
どうやって手に入れたのか、暗闇の中器用にキーを回すと、カチャリと小気味の良い音と共に、錆の目立つ古いドアを開けた。
「さぁ入りましょう!」
俺は言われるがままに、部屋の中へと足を踏み入れた。
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