ここは、とある全寮制学園。
少々問題ありな生徒達、また、他の学校・家庭に預けられた子供達が通う全寮制学園だ。
ここでは、清掃員・料理長・生徒の世話役・・・いる必要があるのか、とまで思われる労働者がそろっている。
それらの労働を、全てこなすメイドがいる。
また、このメイドも生徒に負けじと問題『大有り』なメイドだった―――
メイド・流華の話。 【1】
そのメイドが、桃色の長い髪を、束ねもしないでボーッとしている女・流華だ。
本当ならば、メイドは長髪の場合束ねなければならない決まりなのだが・・・
「流華!あんた、いいかげん髪束ねるか切らないかしなきゃ、今にくびになるよ!」
今日も無表情でボーッとしていると、清掃員の年配の女から、いつものように注意を受けた。
「そのうち結ぶわ、おばさん」
「そのうちそのうちって・・・あんたいっつもそればっかりで、結局束ねないじゃないか!」
「だって、結びたくないんだもの」
長い髪を指でくるくるといじりながら、流華は当たり前のように言った。
清掃員は、はぁっとため息をつく。
「あんたは・・・本当に生意気な子だねぇ!何も喋らなければいい女なのに・・・」
そうなのだ。
この流華、生意気な面を取り除けば、この学園一の美女かもしれない。
長い髪に縁どられた白く小さな顔、頼りないか細い手足、全てを見透かしたような青い瞳・・・
学園の男達からは、毎日のように口説かれているのだが・・・
「あなたには、もっと馬鹿で可愛い女の子がお似合いよ」
本人に全くその気が無いらしく、いつも男を見下したように微笑しながら冷たく言い放つだけだった。
でも、男という生き物は、生意気な女ほど可愛いというものだ。
ましてやそれが美人なら、自分の物にしようと燃える物であろう。
流華はそれを知ってか知らずか、男達を冷たく、どこか遊ぶようにして見るのであった。
「流華!」
廊下を通っていた数人の女子生徒から、声を掛けられる。
その声の掛け方といい、決して感じのいいものでは無かった。
「何でございましょうか、お嬢様方?」
それを察したのか、流華も白々しく言い放つ。
「メイドが仕事をサボってちゃダメじゃない!くびになってもしらないわよ!」
「心配無用です、お嬢様方」
流華はいつものように、何かたくらんでいるかのような妖艶な笑みを浮かべる。
「それなりに他の仕事はこなしておりますから。・・・昨日の夜は、お楽しみだったようで?お嬢様」
「なっ・・・」
流華に声をかけた女子生徒は、かぁっと顔を赤くする。
「ほ、本当に嫌な奴!盗み見なんて!」
「いいえ?盗み見なんて、人聞きの悪い。私はただ、お嬢様の部屋を掃除しようと思って戸をノックしようとしたら・・・ふふっ。可愛いお声でしたよ、お嬢様」
「ばっ・・・」
馬鹿、と言い掛けたのだろう。
しかし、曲がり角から昨日の夜の男が歩いてきたせいで、女子生徒は言葉をかみ殺し、流華をきっと睨んで男の元へ行ってしまった。
取り残された数名の女子生徒は、流華をじいっと睨んでから、どうしたものかさっきの女子生徒が高い声を出しながら男と話し、歩いている様子をもっときつい目つきで睨んでいた。
女子生徒がいなくなった後、清掃員は呆れたように言う。
「あんたは本当に、かしこいのねぇ・・・嫌な方で」
「あら、どうして?・・・私は本当の事を言っただけなのに」
流華は、少し顔を歪めた。
「流華?あんた顔色悪いよ。大丈夫かい?」
「大丈夫・・・ちょっと気持ち悪いだけ・・・ごめんなさい」
そう言うと、流華は片方の手で膝を抱えその場にしゃがみ、もう片方の手で口元を押さえた。
「うっ・・・うっ・・・」
「あんた!大丈夫じゃないだろう!?医務室へ行きなさい!」
ただでさえ白い顔がますます青白くなり、流華は今にも吐いてしまいそうだ。
「大丈夫よおばさん。・・・私、お手洗いに行って来るわ」
流華はよろめきながら立ち上がり、化粧室へふらふらと足を運ばせた。
清掃員は首をかしげた。
そう、流華はたまにこういうことがある。
男と女の話をすると、急に具合が悪くなったり、その場からいなくなったり、とにかく男と女の話がダメらしく、男と女の話になるとさっきのようにいつもの生意気な表情を歪め、ふらふらと行ってしまうのだ。
(あの子、そういう話は好きそうなのに・・・)
流華のような妖艶で生意気な女は、いかにもそっちの話が好きそうに見えるのに・・・
清掃員はそう思いながらも、自分の仕事に戻った。
「はぁ・・・うっ」
そのころ、流華はトイレに閉じこもり、吐き気と戦っていた。
流華は、この学園で働く前は、普通の家庭で育っていた。
しかし13歳のとき両親が突然事故にあい、亡くなってしまった。
そのため流華は祖母と祖父に預けられ、15歳までそこで育てられたが、今度は祖母と祖父が亡くなった。
もう身内に頼る人はいなくなり、流華は祖母と祖父が住んでいた家を売り、以前父と母と暮らしていた家に住んだ。
祖父と祖母、父と母の保険金に頼りながら、バイトを掛け持ちしながら暮らした。
学費や家の家賃などを払うために、色々なバイトをしてきた。・・・どんな仕事でも。
今やっているような清掃員、ファミリーレストランの店員、レジ打ちなど、時には女がやらないような道路工事までした。
肉体労働の道路工事はまだよかったのだ。
「流華ちゃん・・・こっちへおいで・・・・」
そんなバイトやらでは学費や家の家賃は到底払えなかった。
流華は売春、キャバクラ嬢などに手を伸ばした。
それらのバイトをしていたせいで、流華はいじめられ、学校からも強制的にやめるように言われた。
その後、担任だった教師からこの学園での労働を薦められ、雇われたというわけだ。
・・・その頃からだ。流華が男と女の話がダメになったのは。
キャバクラ嬢や売春をしていたせいで、自分の人生が狂わされた。
すべては男と女のそういう行為のせいだ。
男と女の行為がなければ・・・!
そう思うようになった。
以前流華は、今のような生意気な性格ではなかった。
素直で、明るく優しい性格で、周りから得る信頼も大きかった。
その流華が、キャバクラに売春。周りもショックだったに違いない。
周りは自分達の知らない世界に入ってしまった流華が怖かったのだ。
それを隠すために、流華をいじめた。
そのいじめで、流華は傷ついた――
はっと、流華は我に返る。
気がつくと、吐き気はおさまり、だいぶ楽になってきた。
そろそろ出よう、と思い、ドアに手をかける。
「・・・ねぇ」
「何?」
手を離した。
「ほんとに、するの?」
「はぁ?お前が先に言ったんだろ?」
「え、あっ、あ!」
男と女の声だ。
しかも、流華の一番嫌いな・・・
(ここは手洗い場なのに!?)
男と女の『行為』の声。
(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ)
「んあっ・・・ふぁっ・・・ぁ」
流華の心の内などお構いなしに、行為は続く。
(嫌だ!)
「ちょっと、何してるの!?」
「うわっ!?」
誰かが化粧室に入ってきたらしく、行為をしていた男と女は必死に言い訳をしていた。
「これは・・・って、お前らもしようとしてんじゃねぇか!!」
「え?そうだけど?」
どうやら化粧室に入ってきたのも男女で、またその行為を行おうとしていたらしい。
流華の吐き気が限界に達していた時――
「早く行ってよー。あんた達のクラス、次移動教室なんでしょ?」
「やば!そうだった!!」
「早く言えよ!」
そう言って、二人の男と女は化粧室から出て行った。
「・・・大丈夫?ずっと閉じこもってるみたいだけど」
流華の入っていた個室のドアが叩かれる。
外からは、女の声がする。
その声にはっとし、流華は乱れていた髪を手ぐしでとかし、服装を正した。
「ごきげんよう。リン様、レン様」
流華は個室のドアを開け、スカートのすそを広げるようにして持ち、礼をしてきちんとあいさつをした。
「ごきげんようって・・・お前、こんなとこで何してんだ?」
「そうだよ!大丈夫なの?」
リン、レンと呼ばれた男女は、流華より背丈が頭二個分ほど低く、同じような背丈・よく似た顔をしていた。
流華のことを、二人とも心配そうに顔を覗き込んでいる。
「嫌ですわ、リン様レン様」
そんな二人をよそに、流華はいつものように妖艶に笑った。
「私は化粧室のお掃除をしていたんです。いつものように。・・・ここは、いつもいろいろなヨゴレでいっぱいですから。ねぇ?レン様」
「なっ・・・」
レンは顔を真っ赤にした。
「何はともあれ、私は大丈夫です。ですが、心配してくださったリン様レン様に、私は借りを作ってしまったようですね」
「そんな、借りだなんて・・・」
リンにとっては、当たり前の事をしたまでなのだろう。
「私は仕事に戻ります。ごきげんよう、リン様、レン様。・・・リン様とレン様は、お戻りになられないのですか?」
流華は冷たく言い放つ。
所詮心配してくれたとしても、リンとレンだって行為をしようとしていたのだ。
「いや、あたし達は・・・」
「・・・・」
流華はそれ以上何も言わず、化粧室から出た。
(まいったわ・・・)
借りを作ってしまった。
流華は、ふぅっとため息をついた。
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ご意見・ご感想
華龍
ご意見・ご感想
うわわ~…
なんか、心底同情するよ…
ルカさん(´;m;`)
ふみゅさん、すごすぎ!!!
話によって、違うキャラのルカさんをかき分けているところが尊敬です!!!
続き待ってますね!!
2010/10/09 14:15:58
どーぱみんチキン
こちらにまでコメントありがとうございます!
ふみゅれす(´▽`*)
ルカさんを書き分けするのはルカさんへの愛ゆえルカさんを主人公にしたいという私の野望が強すぎt(黙れ
尊敬だなんて恐縮です><
続き書きました?みてくらさい♪
2010/10/09 19:52:13