「ねぇ、ミク」
声をかけると、ミクは買ってやった葱の根元をガリガリと齧りながら横柄に応えた。
「なんれふかマスタァー」
涎が垂れかけて緩んだ口調になっている。
手近にあったタオルを投げつけると「ふががっ」なんて女の子らしくない声を上げて四畳間に倒れ込んだりする。まったく…
「葱ってそんなに美味いの?」
口元を拭い、再び生の葱を齧り始めたミクに尋ねてみる。
古くなった畳に直にゴロ寝し、ミクはご機嫌に応える。
「葱は日本全国のミクにとってはマタタビなのです!」
「はぁ…、?」
なんか分かるようでいまいち分からん。
「葱踊りってーのは要は酔っぱらいが酒瓶片手に踊っているようなものなのです!」
熱弁するミク。その手に握られている葱。
複雑な心境が波のように押し寄せてくる。
んで、うちの可愛いボーカロイドのミクちゃんはマスターに葱を買ってもらってお仕事中に極楽気分(はぁと)なわけですか。
なんだか腹が立ったので、葱は没収。
ミクは小さな子供のように手足をバタバタさせてなんやかんやと喚いていたが、すぐに拗ねて押し入れに閉じこもってしまった。時折間延びしたような絡み口調が僕の背後から漏れてくるのは気のせいではない…と思う。
ミクから奪取した葱の端っこを少し噛んでみると信じられないほどに苦くて、僕は慌てて傍らのグラスを干した。
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