「あ、あの…私――君のこと好きです!」
「そう。」
「あ、えっと…」
「それだけ?……じゃあ、僕は帰るから。」
後ろから泣き声が聞こえる。
僕は関わらないで欲しいだけなのに。
勝手に傷付いて、僕を恨んで。
途中で忘れ物をしていることに気付いた。
思わず溜め息が出る。
めんどくさいけど、それが無いと宿題が出来ない。
仕方なく学校へ向けて歩き出した。
教室には誰も居なかった。
夕陽のオレンジ色の光が教室を照らす。
素直に綺麗だと思った。
自分がそう思ったことに少し驚いた。
この世界に興味が無いと思っていた自分がこの世界のものに感動するなんて。
何か馬鹿らしくなってきた。
自分の机から探していた物を取り出す。
その時頭に小さな声が響いた。
“酷い、酷いよ。”
それは僕と同じ声と姿をしたもう一人の“僕”。
「何が酷いの?僕は“僕”に何かした?」
“あの子もみんなも僕の言葉に傷付いてるのに……お願い、気づいてよ。僕は――”
「っ!うるさい!!」
“僕”は分かってるはずなのに。
僕にはこの世界は必要なくて、“僕”がいれば良いって思っていることを。
それなのに、どうして“僕”は僕を傷付けようとするの?
まるで僕が悪だというかのように。
何も言わずに僕を睨み付ける“僕”の瞳にこの前僕を殴ろうしてきた奴を思い出した。
僕を恨んでいるような目付き。
僕は其の視線を無視して“僕らの世界”を出た。
それから“僕”が話しかけてくることはなかった。
僕も無視した。
…本当は寂しくて、苦しくて、会いたかったけれど。
僕はその苦しさをまぎらわすように言葉で暴力でたくさんの人を傷付けた。
そんなことをしていたある日。
路地裏で僕と同じ学校の制服を着た男子生徒が蹴られていた。
泣いているそいつを笑いながら暴力を振るう彼らを見て、どうしようもない恥ずかしさに襲われた。
彼らの姿が自分と重なる。
今僕は“僕”が伝えようとしていたことが分かった気がした。
その時何かが廻りだした。
笑いながら楽しそう傷付けている彼らに激しい嫌悪感を抱いた。
僕は今から彼らを傷付ける。
それが悪いことだと分かっている。
それでも僕は彼らを傷付ける。
自分自身に対する嫌悪感と怒りを消すように。
……ごめん。
と彼らに謝りながら。
殴った時の手の痛みに眉をしかめる。
泣いていた男子生徒が茫然と僕を見つめる。
そして、慌てたように口を開いた。
「あ、ありがとう…」
そう言いながら、僕に憧れのような視線が向けられた。
自分は彼らと同じなのに、そんな気持ちを向けられることに後ろめたさを感じた。
僕はその視線から逃げるようにこの場を後にした。
“やっと気づいたんだね。”
そう言って嬉しそうに笑う“僕”。
僕は何て言えばいいんだろう?
ごめん、と謝るべきなのか?
…何だか違う気がする。
黙っている僕に向かって“僕”は哀しそうに、でもとても嬉しそうに笑いかける。
“もう僕がいなくても大丈夫だね。”
「っ!?」
何を言ってるの?
“これで本当に一つに――”
「嫌だ!いかないで!!僕には“僕”しかいないんだ!」
やっと、やっと自分の間違いに気づいたのに…
「いかないで……もう、いかないで。いまよりもっとかしこくなるし、やさしくなるし、つよくもなるし…じゃまなものはころしてあげる。だから――」
“僕”は、まるで駄々っ子のように泣きじゃくる僕の背中を抱きよせ、耳元で添っと囁いた。
““僕”の姿は見えなくなるけど、僕の側にずっといるよ。何処かにいくわけじゃない、僕らは一つになるんだよ。”
微笑む“僕”の姿がゆっくりと消えていく。
「待って!!」
叫んで手を伸ばした僕の手は“僕”には届かなかった。
“大丈夫だよ、僕は気づけたんだから。”
最後にそう言って“僕”は消えた。
哭いて、唯哭いて――
そして、心臓は一つになる――
コメント1
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禀菟
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おっす久しぶり!!
私もこの曲好き(^^)v
さすが魔熊だなぁ、文才くれ!
2012/04/01 11:30:24