「雨、止んでよかったな」
からりと晴れ上がった空を見上げて、シオンが笑う。起きたばかりで半分しか開いていない目を擦りながら、カイトは軽く肩を竦めた。
「止んでなければ、さぼってやるとこだったのに」
ふてくされたような声音を隠さずに言うと、シオンがふうと大きな溜め息を吐く。
「俺をひとりで登校させる気か?」
カイト、と悪戯っぽく名前を呼ばれて、カイトはシオンから視線を逸らしながら伸びをした。
「はいはい、ご一緒させていただきますよっと」
首に掛けたヘッドホンに軽く指先で触れ、カイトはシオンを振り返る。
「まあ、おまえの好きにするといいよ」
困ったように笑うシオンに、カイトは思わず眉根を寄せた。
「行くって言ってるだろ?」
これではまるで駄々をこねている子供のようだとカイトは思いながら、シオンの手を掴む。
「学食で紅茶、おごってくれるって約束だったろ」
そのまま手を引いて歩き出すと、シオンは当然のようにカイトの横に並んだ。
「そんな約束、してたかな」
眼鏡の奥、優しく細められた瞳が笑みを湛えてきらきらと輝く。どうやら今日のシオンはひどく機嫌がいいようだ。
交差点の手前で歩道橋へと足を進めたカイトに、シオンも無言で付いてくる。緩やかなカーブを描く階段の手前で、ふとシオンがカイトの名前を呼んだ。
「カイト、忘れ物」
囁くように呟いたシオンが、音も無くカイトに身を寄せてくる。額にふわりと温かいものが触れるより早く、カイトは目を閉じた。ごく間近に迫っていたシオンの顔が、まるで別人のように大人びて見えたせいもある。だがそれ以上に、「忘れ物」を視覚で捉えたくなかったのだ。
「時と場所を弁えろよ、生徒会長」
シオンが離れた気配を察して、カイトはゆっくりと目を開く。カイトが小さく舌打ちすると、シオンは涼しげな笑みをカイトに向けてきた。
「忘れ物をするカイトが悪い。……だろ?」
カイトは掌で叩くように額に触れると、ひらりと背を向けたシオンの横に小走りで並ぶ。
「紅茶、二杯だからな」
ヘッドホンの位置を直しながらカイトが呟くと、シオンがくすくすと笑った。
「忘れなければ、ね」
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