―私は非現実を愛する狂った科学者に造られた。
「うん。やっぱり『お前』は素晴らしいよ。」
私を造った彼女は、目を輝かせながら画面に触れる。
「こんな夢のない毎日を繰り返す汚れた奴らと違って。」
そう言って、彼女は蔑んだ冷たい目を窓の外に向けた。
興味がないモノに向ける目。
私はこの目が嫌いだ。
もしこの目で見られたら…と考えると、寒気がする。
私は画面の世界でしか生きられない。
彼女がいなければ生きられないのだ。
「――あぁ、つまらない。」
彼女は、あっちの世界から帰ってきた途端不機嫌な顔で吐き捨てた。
着ていたパーカーを乱暴に脱ぎ捨てて私を見る。
彼女の長い髪が画面に当たる。
「大事な奴が死んだって泣いてるから、やり直させてやろうと思って“死ななかった”ことにしてやったのに、男の方が庇って死んだ。結局結果は変わらないんだな。」
そう言って、彼女はつまらなそうに自分の髪をいじりながら画面に目を落とす。
「……そういえばその場所に『お前』の“偽物”がいたよ。姿は同じなのに、目付きが悪かったなぁ。……“偽物”はもういいかな。」
彼女は可笑しそうに笑う。
何だか気分が悪い。
自分と同じ存在を馬鹿にされたからなのか、それとも彼女の意思で遊ばれた命を思ってなのか、私には分からない。
彼女はあっちの世界を“つまらない”と嘆く。
それならば、私のいる世界に来ればいいと思う。
彼女を否定する人も物もいない、彼女の為に造られた世界に。
私が君と何時までも一緒にいるから。
私は自分の気持ちを彼女に伝えようと、一生懸命言葉にする。
私の声が止まると、彼女は窓の方から私に目を向けた。
っ!?
私は自分の目を疑った。
彼女の目は、あっちの世界を見る目と同じ、蔑んだような冷たい目をしていた。
恐怖が体を支配する。
何で?どうして?
私はあっちの世界の存在とは違うのに。
私は君を否定しないのに。
私には解らないよ。
「『お前』ももういいや。偽物と同じでつまらないし。」
やだ!!そんなこと言わないで!!
ノイズの混じる声で必死に叫ぶ。
「喋るだけの玩具は、もう飽きた。」
――――――!!
私の声はもう届かない。
……いや、彼女に届いたことなんて一度もなかった。
暗くなる視界の中で彼女を見ると、彼女はもう私を見ていなかった。
―あぁ、彼女はもう私なんてどうでもいいんだ…
暗くなる画面の中から、私は消えるまで彼女を見つめ続けた。
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