発想元・歌詞引用:U-ta/ウタP様 『創世記』



 光が変わったと、サナファーラは感じた。

「ねぇ、ミゼ」

 もう、ミゼレィは、目を閉じてうごかなかった。

 先ほどまで呼吸のために上下していた胸も、もうその動きはみとめられない。

「……今だから言うね。

あたし、神様の声が聞こえなくなる前から、神様は、いないと思っていた」

 サナファーラは、ミゼレィにならんで寝転び、空に向かってつぶやいた。

「でもね、今は、ちょっと、やっぱりいるかもって、思っているよ」

 太陽に向かって手をかざすと、陽の光に、血潮が透けて見えた。

「パイオニアの花が咲いて、導きの木の実が実って、稲が枯れて。
 大樹は相変わらずで、あたしたちは海の上にいて、嵐にあって、

 それでもまた、潮の道を見つけて」

 サナファーラが、光を捕まえるように、手のひらを握り締める。

「ねぇ、ミゼ。

 あたしにとっては、役にたつ声を届けてくれる神様よりも、花が咲いたり枯れたり、やさしい雨がふったり、嵐みたいにきつい雨だったり……

そんな、この大地のいろんなことそのものが、あたしを翻弄する神様だった」

 サナファーラが、手を動かし、横たわるミゼレィの手を取った。

「ミゼ、ミゼも、かみさまだよ。
  あたしをふりまわして、土の中からほりだして。
 
 そうだ、巫女頭さまも、あたしを異例の巫女付にするなんで、思い切ったことしたよね。
 ティルもさ、小さいころからもう、からんでくるしさ……」

 サナファーラの口元が、にこりと微笑む。楽しそうに、笑い声をもらした。

「海もすごいね。
 大地もすごいけど、海もすごいね。
 太陽も、今回はやってくれたよね。

……ずっとこんなだったら嫌だけど、また、稲を実らせるやさしい太陽にもどるのかな」

 サナファーラの言葉は、潮にのって流れていく。

「そんな大地でさ、がんばっているあたしたちパイオニアも、ちょっとすごいよね。
 声ばっかりの神様も、いまごろなにしてんだろ……」

 太陽が、天頂に向かって駆け上がっていく。

「そう思うとさ……」

 ふふっと、サナファーラは笑った。

「あたしって、ちっぽけだなぁ……」

 ゆらゆらと波にゆられ、まぶしい光に照らされ、ぼんやりとした心地よさに包まれ、サナファーラは笑った。


「でも、まぁ、いっか」


 サナファーラにとっての、たくさんの神様たちの詩が、今、波間に身をゆだねるサナファーラの心を、温かく満たしていた。



ryutty shilphe ra miiya louce
リュティ シルフェ ラ ミィヤ ルーチェ
“大いなる天恵に感謝せよ”

myully tann atus sunirre deer
ミュリィ タン アトゥス サニーレ ディア
“天啓に導かれ新たなる創造を”



 体の下に響く海の波、閉じたまぶたの上に感じる風と光。

 サナファーラの口から、ゆっくりと唄があふれ出した。
 ゆらゆらとゆらめく波のリズムで、その声は波に重なり、空に昇っていく。

「ミゼ。聞こえる?」

 ミゼレィは、目をとじて動かない。


……導く天啓よ。 我等、照らしたまえ。

 広大な海に背をゆだね、目指すはるかな大地に思いを馳せ、今、すべての生き物の運命を握る太陽の光に包まれる。


 風が吹いた。


 ミゼレィが、本当に眠っているだけなら。
 子守唄なら、ここは静かに唄うべきだ。

 でも。

 今、ミゼは、風になろうとしている。
 この星を吹き渡る、大いなる風の一員になろうとしている。

 サナファーラは、目を見開いて、太陽に向き直った。
 サナファーラは、大きく息を吸い込んだ。


 謳え、創世の詩。


「ミゼ、聞こえる……?」

 サナファーラの謳聲が、鮮やかに転調した。

 ミゼは、これから風になる。
 これから天に昇るひとのために唄うなら。

 小さな声では駄目だ。
 うつむいて呟くような、小さな声では、空へと駆け上がるたましいに届かない。

「聞いて、ミゼ。これが、あたしの、あたしの祈り、」

 もっと大きく。もっと高らかに。
 普段唄う祈りの唄の調よりも、鮮やかに、高らかに響く調。
 サナファーラの聲は鳥となって舞い上がり、澄み渡る空を駆け巡る。


「これが、あたしの謳……!」


 太陽よ、大地よ、あたしの神さま、みんな、聞いて。
 ミゼ。聞いて。
 あたし、今。本当の本当に。
 あの時、ミゼに助けられて、
 今まで生きていて良かったって思っているよ―――――――!




―――――――………………・・・・・・




ライセンス

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小説 『創世記』 16

発想元・歌詞引用:U-ta/ウタP様 『創世記』
 音楽 http://piapro.jp/content/mmzgcv7qti6yupue
 歌詞 http://piapro.jp/content/58ik6xlzzaj07euj

……謳え、創世の謳。

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投稿日:2010/04/10 01:44:25

文字数:1,944文字

カテゴリ:小説

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