レンが町を出てから数日後。
「うーん……」
悩んでいた。
幻獣少年は悩んでいた。
(しまったなぁ……もうちょっと金持ってくりゃよかったか……)
単身で荷物もあまり持たずに飛び出してきてしまったために、大した金を持ってきていなかったのだ。
案の定―――――現在レンの所持金:0円。もはや食べ物すら手に入らず、レンはこの日朝から米粒一つすら口にしていなかった。
獣憑きというのは通常飢えには人間より遥かに強い。特に肉食獣を宿している獣憑きは肉食獣の持つ食いだめの習性により一週間は喰わずにも生きられる。
だがレンは少し訳が違う。人間の想い描いた『聖獣』の獣憑きであるため、普通の獣の常識が通用しない。つまり食いだめができないのだ。
結論。レンは今飢えに飢えていた。
「ああくそぉ……腹減ったなぁ……適当にイノシシでも仕留めて飢えをしのぐかなぁ……」
ぶらぶらと歩きながらそんなことを考えていた――――――――――
その時である。
「……ん?」
町の端で小さな人だかりができていた。
やたらといかついチンピラっぽい男が8人。それに囲まれて、黒いマントの少女が突っ立っていた。
「お嬢ちゃんどうだいよぉ俺たちと遊ばねぇか?」
「ぐへへへ……ほらほら怖くねぇからよ……」
どう見てもカツアゲである。ついでに捕まえて口ではとても言えないようなことをするつもりなのだろう。
(はぁ……真昼間から下衆いもん見ちまったぜ……)
ポリポリと頭を掻きながら、レンが右手を掲げる。
(邪を見て滅さずは聖獣の理に反す。ここはいっちょ、追い払ってやるか……)
そこまで考えたところで――――――――――
とあることに気付いた。
ちらりと男たちの隙間から除いた少女の顔。透き通るような金髪に、淡い碧眼。
まるでその色彩は―――――レンの様だった。
(……まさかまさかとは思うが……だけどまさか、あの子――――――――――)
そこまで考えた時だった。
《――――――――――ズドォンッッ!!!!》
いきなり響いた轟音。まぎれもない砲撃音だ。
一体どこからそんな轟音が? ――――――――――答えは目の前にあった。
男たちが青い顔をして後ずさりしている。その中心で―――――黒いマントをなびかせた金髪の少女が、右腕を天に突き上げていた。
右腕の先には―――――大きなグレネードランチャーが。
『……カツアゲや少女誘拐は相手を見てやる事ね。あんたらが喧嘩を仕掛けた相手は、もしかしたら今この世で一番危ない正義の味方かもしれないのよ』
「ひ……ひっ!!?」
腰を抜かしたチンピラの額に銃口を突き付けて、更に少女が言葉を飛ばした。
『……あたしもなるべく人殺しなんてやりたくないの。あたしの―――――大砲少女リン・ミラウンドの最後の良心が吹っ飛ぶ前に……………消えなさい!!』
(―――――――――――――――――――――――――っ!!!)
リン・ミラウンド。いま彼女は、確かにそう言った。
ということは――――――――――彼女が―――――――――――
『ひ……ひえええああああああああああああああ!!!』
情けない声をあげてチンピラたちが逃げ出していった後も、レンは少女の前に立つくしていた。
その様子に気づいた少女―――――リンが、その姿に気づいて今度はレンに銃口を向けた。
『何? あんたもあたしになんか文句あんの? 変なこと考えてるならその脳髄に自慢のグレネード叩きこん……で………………?』
徐々にその声が途切れ途切れになって……碧い瞳が丸くなった。
不意に右腕を強く振り下ろした。するとグレネードランチャーは光を纏って消え、代わりに普通の人間の手首が現れた。
酷く驚いたような顔をしながら、リンはレンに近づいてきた。手が小さく震えている。
「……金髪……碧い瞳……まるで……私にそっくり……」
ごくりとつばを飲み込んで、震える声でレンに尋ねる。
「……人違いだったら……ごめんなさい……だけど聞かせて……………」
「あなたは――――――――――レン・ミラウンド……?」
ああ。同じ顔。似てる声。
そして何より本能が叫んでる――――――――――
彼女が――――――――――俺の妹―――――――――――――――
「………………リン!!」
「レ……レン……!! ほんとに……レンなんだね……!!」
「ああそうだよっ!! お前の……双子の兄のレン・ミラウンドだよ!! リンっ!!」
「レン……!! レンっ……!! やっとっ……やっと会えたああああああぁあぁレ――――――――――――――ンッッ!!!」
勢いよくレンに抱き付くリン。
そんなリンを、レンはしっかりとその両腕で抱きしめていた。
2人はしばらく、これまで自分の身に起きたことを話し合っていた。
死にかけたこと。テトに救われたこと。人間のために戦うと決めたこと……。
同じようにテトに救われた者同士、境遇が似ているだろうとはお互い想っていた。
しかし実際には、予想を超えて似たような目にあってきていたことを知り、二人はますます話す言葉に熱が入ってきていた。
「そっか……レンも大変だったんだね……」
「俺はまだ恵まれたほうさ。獣憑きが受け入れられる町にいたんだから。リンのほうがよっぽど大変だろうよ」
「私だって世界中の色んな病気の人に比べたらずっと運がいいもん! こんな奇跡、普通起こりっこないもん……!」
「そんな奇跡を起こした恩人に逆らおうってんだから、相当罰当たりだよな」
「レンだって人のこと言えない癖にー!!」
「ははははは、確かにそうだけどな!」
『あはははははははははははっ……』
ひとしきり笑った後、急にリンが真面目な顔でレンの眼を覗き込んだ。
「……ん? リン、どうした?」
「……テトさん、言ったんだよね。『他にも“憑くった”獣憑きがいる』って。『そいつらが人類を滅ぼしに行く』って」
「……ああ、大体そんな感じだな」
そう返すと、リンは意を決したように叫んだ。
「……一緒に行こう、レン!! 一緒に人類の盾になろうよ!!」
誰よりも、もしかしたら煉よりも自分に近い、この世でたった一人の妹の言葉。
断る理由などどこにもなかった。
「おお、リン!! テトの思い通りになんかさせないぜ!!」
「お―――――――――――――――!!!」
こうして、『病』という壁に阻まれ分かたれた兄妹は。
再び『獣憑き』という運命の元巡り合い。
『ミラウンドツインズ』というコンビ名を名乗りながら、世界のために戦いに出たのだった。
「ところでリン」
「ん?」
「……なんか喰うもん持ってないか? 腹減って死にそうなんだけど……」
「あ、じゃあこの熊肉でも食べる? おいしいよ」
「……いったいどんな生活してたのかもう一度よく聞きたいぜ……」
四獣物語~幻獣少年レン⑦~
邂逅。
こんにちはTurndogです。
やっぱリンレンは揃ってた方がいいよね!w
そんなわけで人間の技術の結晶『機械』と人間の想像の結晶『聖獣』を宿す兄妹が手を組みました。
この獣憑き4人の構図よく見ると、完全なる『自然』VS『人間』なんだよね。
自然の落とし仔『昆虫』と自然の生んだ怪物『魔獣』のコンビと、上記の人間の作り出したもののコンビの戦い。
物凄い戦いの予感がするぜ。
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