＃６０「恩人」



孤児院に帰ってきた僕は、部屋に居るというミクに会うため、部屋のドアをノックした

返事がなかったので、呼びかけてみると、ドアが開き、ミクがでてきた

彼女は髪を結わずに、長い髪を揺らしながらうつむいている


「ミ、ミク？げ、げんきだったか？」


どうやら僕は、まだ緊張しているようだ…上手く口がまわらない


「…………か……兄……か」


ミクがうつむいて何かつぶやいている


「ん？ミク？何？」


僕がなんて言っているのかを聞こうと耳を近付けた時だった……


「カイト兄の馬鹿！！！！！」


ミクが大声をあげた

僕は驚いて尻もちをついてしまった

そして当然、僕の耳はキーンとしている


「いままでどこにいってたのよ！何も言わずにいなくなって！！みんな心配してたのに！」


ミクが僕の方をみて怒鳴った……けれど…泣いていた…

そして、次の瞬間、倒れている僕にミクが抱きついてきた


「馬鹿……ほんと馬鹿……でも…よかった。生きてた…カイト兄…ここにいる。」


僕の耳元で彼女のすすり泣く声が聞こえる


「うん…心配かけてごめん」


僕は彼女の頭をなでながらそういった



そうか……そういえば、四日前……あの日の夜…

ミクは意識を失っていたし…

レンは二階で義弟たちと一緒に隠れていたし…

シスターは意識朦朧としていた

他の義弟妹たちも避難させていたから、僕がリンちゃんたちと森に入って行った事はだれもしらなかったんだ……



「って！というか！ミク！！体は大丈夫なのか！？」


僕の体から、泣いているミクを離して、正面からミクを見る


「うん…体はもう大丈夫。二日くらい高熱でうなされたけど…それからはだいぶ楽。」


ミクが袖で涙を拭きながら答えた


「そ…そうか…よかった」


僕は正直、驚いていた

あの時、ミクの命は消えかけていたのに……

あの薬一つでここまで早く回復できるなんて……


「………ルカさんには感謝しなきゃな。」

「ルカさん？誰？それ？」


ミクが聞いた事のない名前に不思議そうな顔をした


「ミクを助けてくれた人だよ」

「？…私を？」


ミクは何か釈然としないといった様子だ

あの時、ミクの意識は朦朧としていた…

クチハテを倒したルカさんのこと見てないのかもしれない

そして、薬のやり取りの部分も聞こえてはいなかったのだろう…


「…よく覚えてないんだけど……あの時、カイト兄が助けてくれたような気がするんだけど……」


やはり、ミクはあの時の記憶は定かではないらしい


「確かに、僕がミクに薬を飲ませたけど、その薬をつくったのはルカさんだ。彼女はミクの命の恩人なんだ。」

「…彼女……女の人なんだ……………ねぇ、その人、綺麗？美人？どのくらいの年齢？」


ミクが少し考えて、僕に質問を連続で投げつける


「え？あ、うん。綺麗だと思うよ。年齢はよくしらないけど…見た目的には僕と同じか、少し下かな？」


僕がそう答えると、ミクは「ふ～ん」とだけ言って、下の階におりて行った


あ、あれ？なんか…今…ミクの顔が曇っていたような……気のせいか？