――夢。
 それはまるで綿菓子のように、ふわふわしていて、甘くて、温かくて、美味しそうで。
 見ている内に欲しがって、食べてみたら美味しくて、満足して。
 でも途中で飽きてきて、それでも無理して食べてみて、食べ終わったら虚しくて。
 手に残ったのはわずか一本の割り箸だった。
 ――現実。

 なんとなく始めてみたソレを褒められたのは何時の頃だったか。
 覚えているのは褒められたことが嬉しかったことと、もっと頑張ってみようと思ったこと。
 頑張って、また褒められて、更に頑張って……繰り返し、気付いたらソレのことばかりを考えるようになっていた。
 ソレにしか目を向けなくて、耳を傾けなくて、手で触らなくて、口で発っしなくて、意識を傾けなくて。
 ソレが夢だということに、その時初めて気が付いた。
 ソレが全てで、ソレしかなかった。
 始めは小さな流れだった。
 その先に行きたくて、辿りつきたくて、ゆっくりと、しかし力強く、確かな足取りで、前へ前へと進んで行った。
 転びそうになったこともあった。
 挫けそうになったこともあった。
 流されそうになったこともあった。
 その度に夢見た。
 未だ見ぬ先を。
 この先も続くであろう夢を。
 振り返らず、立ち止まらず、無我夢中に進む内に、広いところに着いた。
 そこには僕と同じようにソレをしている人が沢山いた。
 沢山いて見分けがつかない程だった。
 いろんなやり方でそれをしている人がいた。
 それまで小さな世界に籠っていた僕の中で何かが軋む音がした。
 沢山の人を周りに見ながら、僕はそれでも夢を見た。
 必死だった。
 負けたくなかった。
 進み方は違えど、皆目指している先は同じだった。
 その内、ぽつぽつと何人かの人がいなくなった。
 進む速度が違う人がいることに気がついた。
 何かが軋んだ。
 それでも諦めなかった。
 前を行く人に追いつこうと、縋り付こうとした。
 けれど、僕が追いつくより早くその人達は前に進んで行った。
 軋む音が聞こえた。
 それでもまだ追いつけると、前に進んだ。
 夢だけを見て、夢に魅せられて。
 気付けば、前に進む人は見えなくなっていた。
 もう、誤魔化しようがなかった。
 必死に目を逸らしていた軋みが限界を迎える。
 崩れていく。
 夢が。
 崩れていく。
 僕が。
 諦めたくなかったのに、だから目を逸らしたのに、耳を塞いだのに、手を伸ばさなかったのに、口を閉じたのに、意識しなかったのに。
 あれだけ容易に見えていた夢は、もう見えなくなった。
 急に苦しくなった。怖くなった。寒くなった。
 あれだけ輝きを発していた夢が見えなくなった途端に、僕は独りになってしまった。
 沼のようにそれらが僕の体に纏わりついて、離れなくて、引きづり込もうとしてきた。
 それもいいか。
 何もかもがどうでもよくなった。
 もう終わり。
 ここで。
 ここまでで。
 沈む。
 沈む。
 沈夢。

 その中に小さな流れを見つけた。
 小さな流れが様々な方向に枝分かれしていることに気付いた。
 伸ばせば、手が届きそうだった。
 僕の足は知らぬ間に一つの流れに向かっていた。
 抜ける。
 沼だと思っていたそこから顔を出した。
 眩しさに目を細めた。
 輝きは小さい。
 けれど確かな鼓動を、息吹を僕は聞いた。
 そこで初めて振り返る。
 僕の来た道を。
 僕のこれまでを。
 振り返り、思い出す。
 今だけ、浸ろう。
 思い出に。
 苦楽を共にした、あの夢に。
 そして告げる。
 さようなら。
 僕は道を変え、また歩きだす。
 だけど少し疲れたから、
 また新しい日々が、
 新しい道が、
 僕を前に進ませるから、
 優しく包むこの光のなかで、
 今だけは、

 ――おやすみ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

徒夢

多くの人が夢を見て、その内叶えられるのは何割なんだろうね。

閲覧数:150

投稿日:2011/11/24 07:10:45

文字数:1,584文字

カテゴリ:小説

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