砂上の虚像
作詞:瀬川 隼
砂よ お前はいずこから来たのだ
在るべき処へお帰りと告げたくとも指先は動かない
畳の上にざらつく違和感
闇明かりがぼんやりと覗き込む六畳半には
重なるように横たわる二つの体躯
死体のように冷たく湿った足先が触れる
岸にくだける波の音(ね)はゆっくりと立ち昇り
その名残りは僕の手首の脈に続いており
体内をめぐる脈拍とやがて共鳴していく
あまりに海の気配に包まれて
ここらはすでに底へ沈んでしまったやもしれぬ
砂よ お前はいずこから来たのだ
結局は来るべき処へ行き着いたのだと僕に語るのか
駆け寄ってきた犬がのし掛かり
往来で尻を着いたときか、或いは
真昼、駿馬のように駆けた砂浜で潮風が忍ばせたか
或いは古い水道管から滴った一顆か
一面の砂だった、一面の砂を踏んでいた
満ち足りたこの世の終わりのような燃える焔が
水平線の向こうへと沈んでいき
代わりにさめざめと流れ落つ白銀の月光が
行くべき道を二人の前に示していた
砂よ お前が僕らをここまで連れてきたのだな
藻屑となるべき二人の運命(さだめ)を
まるで時の流れが粉々に僕らの愛を砕いてしまうように
無慈悲に覆いつくしてしまったのだな
今はまるで死体のようになって
皮肉な身の上を嘆く気力さえも奪われて
湿った布団の上で胎児のように丸まっている
砂よ お前が僕らをこうしたのだな
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