かん、かん、かん。


軽い金属音が響いて、俺の部屋の前に看板が取り付けられた。



「……っし、こんなもんでいいかな?」

「いいんじゃないかな? 俺の部屋をまるまる使うってのは、どうかとも思うけどな」

「仕方ないでしょー、もう空き部屋ないんだから」



看板に書かれた文字は―――――『改造専門店 ネルネル・ネルネ出張店』。





温めていた企画が、動き出した。





「あっ、ターンドッグさんにネルちゃん! 看板、着けたんですね!」

「しるるさん!」


一息ついたところにしるるさんがやってきた。……目の下に隈がある状態で。


「む……無理してませんか?」

「え? あ、あはは……少し情緒不安定なだけですよ、だいじょぶだいじょぶ」


作り笑い臭が半端ないが大丈夫か? 大丈夫じゃない、大問題だ。


「あんまり無理しちゃいけませんよ、ぶっ倒れますからね?」

「はは……ありがとです。あ、ネルちゃん、これお品書きだよ」

「はいはーい。……ふんふん、まぁこのぐらいなららくしょーね。……このシルルスコープってのは?」

「ターンドッグさん、言ってなかったんですか?」

「あー、名称は……」


シルルスコープ―――――いわゆる「幽霊可視化スコープ」だ。以前ネルは、ちょっとした偶然からこれに近いものを作り出したのだが、携帯不可能という点について苛立ったネルが俺に押し付けた挙句、こないだ自分でバラバラに分解していきやがった。

因みにその時の名称は『ネルネル・ネルネ・ネルウォッチャー』。何でもかんでもネルネル・ネルネ着けりゃいいってもんじゃないっつの。


「ネルウォッチャーに近いやつだよ」

「あーなるほろ、幽霊可視スコープね。それならイケるイケる。要するに携帯用にすればいいわけでしょ?」

「そうそう。……そういえばしるるさん、『清花』ちゃんとの接触はあれ以来ないんですか?」

「うっ!? な、なぜそれを…………?」


完全に不意を突かれたようだ。そりゃそうだ、まさか俺に話が伝わってるとは思わなかったんだろう。


「こないだゆるりーさんから聞きました。清花ちゃんがどんな子か、そしてこないだしるるさんがどんな接触をしたk」

「やあああああああああああああああああああああああ!!!!! それ以上言っちゃいけません!!! 言った瞬間家賃100倍です!!」

『………………』


ネル共々思わず口をつぐむ。泣かせてしまったのが相当ショックだったのか、それともその後のゆるりーさんの脅しが相当トラウマなのか……。


「……まぁいいや。一応作れるし。あとは特に目立って不思議なものはないかなー……」

「え゛。冷温庫とかちびボカロとか亜空間とか、不思議じゃないのかそれは……?」

「だって、作ったことあるし」

「ファッ!!?」

「冷温庫ならうちにあるよ、もうちょっと良識的な温度だけど。あとネルネル・ネルネ・ネットワークで空間を作るのもよくやるし。ちびボカロも作ったことあるよ…………………レン君で……………/////」


なんということでしょう。この子は色々と常識の範疇を超えている。


「流石ねーネルちゃん。あ、それじゃ私仕事に戻りますので、あとは自由にお願いしますね―」

「あ、ハーイ!」


しるるさんは階段を下りて行った。……………かなりふらふらしてる気がするが大丈夫か? 大丈夫じゃない、大問題だ。


「……ふぅ。良し、ネル!!」

「はいっ!?」

「とりあえず、出張店として最初の仕事だ! こないだ壊れたカセットコンロ貰ったから、こいつを直してくれ!」

「……! おっけ!!えへへ……」


カセットコンロを受け取ったネルは、嬉しそうな顔でヴォカロ町へと戻っていった。

こないだも思い知ったけど―――――その嬉しそうな顔は、改造狂のそれとは違っていた。お客さんに喜んでもらえることが嬉しくて堪らない、商売人の顔そのものだった。



……戻ってきたら、もっかいこないだのこと謝ろうかな―――――



そう思っていた途端。


「はい終わったよー!!」

「ファファッ!!?」


なんとまだ1分もたっていないのに戻ってきた!! その手に握られているのは、新品同然のカセットコンロ。

ちょ、ちょっと待て。いくらなんでも早すぎんだろ。もっかい謝るとは言ったけど心の準備が……!


「ん? 何かご不満?」

「いっ、いやいやいや!! そんなことあるもんか! ただあんまり早かったからちょっとびっくりしてるだけ!! ありがと!!」

「??? なんか焦ってない?」

「いんや、なんもさっ!!」

「慌てすぎて北海道弁になってるけど?」

「う……その……」


余りに咄嗟過ぎてうまく言葉が上がってこない。うーん、傍から見たら男女逆転したほうがいい構図じゃないかな、これ?


「その……こないだはホント、ごめんな。ちゃんと商売人、してるよ、ネル」


突然のことに、目を真ん丸にしている。そりゃそうだわな。

しばらくして―――――


「……ぷふっ。あはっ、あははははははははは!! もー何言ってんのさー!!もう気にしてないってーの!! なーに? まだ気にしてたわけ? もーバカじゃないの!? あははははははははは……」

「わっ、笑うなよおい!!」

「あはは、ごめんごめん。いーよもう、わかってくれてんならそれでいーっての!」


バンバンと俺の背中を叩きながら笑うネル。どっぐちゃんと同じで素直になれない娘だったはずが、随分とあっけからんとした性格になったもんだ。

ひとしきり爆笑した後、大きく息をついたネルは清々しい顔で看板を見上げた。

ヴォカロ町の本店と同じロゴ。だけど、全く違う、本当に誰かに喜んでもらうための店だ。


「……みんなのためだもの。喜んでもらうためなんだから! そのためだったら、どんな修理だって頑張れる! もちろん改造なら、なおさらね!!」

「……ははっ、その通りだな!」

「ふふふふ……」

『ははははははは………!!』


俺たちの笑い声は、しばらくの間かなりあ荘に響き渡っていた。





『改造専門店 ネルネル・ネルネ出張版』、開店。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

dogとどっぐとヴォカロ町!~改造専門店 ネルネル・ネルネ出張版①~

はい、開店です!(実際には20日前から開いてるんだけど)
こんにちはTurndogです。

ネルネル・ネルネの話は、dogとどっぐとヴォカロ町の中でも特別な立ち位置にしたいと思います。Partとかつけないでね。
というのも、これから先修理or改造(アイテム交換)と同時に出演希望する人が出てきたときに、物語の中に完全に組み込むよりはやりやすいんじゃないかなぁと思って。

あとしるるさんのトラウマ描写はしるるさんが清花ちゃんの誤解を解くまでずっと続きます、多分w
まぁ『家賃100倍です!!』とか言われたからこの先そんな描写があるかどうかわからないけd(お前が言わせたんだろうが

閲覧数:193

投稿日:2013/07/20 16:20:10

文字数:2,584文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    その他

    開店はしてますけど、まぁ、今の状態ではみんなポイント不足でしょうしねw
    忙しくなるのは、もっと後だとおもいますねw

    ネルちゃん、かわいくなったよねw
    レン君つくってたとか、そんなところもちょっとわかるww←

    「壊れたカセットコンロはカセットコンロ(5)になった」

    続き物といえば、続き物かもしれませんが、これはあげてもいいかなって思ったりw
    ターンドッグさんの貢献度も大きいですしねw
    「ターンドッグは掃除用具(5)を手に入れた」
    ほうきや、ちりとりに雑巾、水汲みバケツまでついた豪華なアナログ掃除用具

    2013/07/27 16:46:02

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      まぁ事実上開店休業に近いかもねwww

      本編2作目の時なんかね……www
      あんなだった子がいい子になりましたww

      おお!ありがとです!
      流石しるるさん!!
      そこにしびれる!憧れるゥ!

      2013/07/27 17:14:07

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