[第16話]~真実
 はーあ、と気だるそうに溜息を吐く、巡屋さん。
その姿には、つい先程までの儚く美しいものは欠片も感じられない。

 皆、ごくりと生唾を飲む。

 彼女の変りようには、恐怖さえ感じられた。
巡屋さんは、誰に訊かれることもなく独りでに語り出した。

 「りんさんの言ったとおりです。布団に寝かせれば、女中は声をかけるでしょ?」
ふふふ、と不敵に笑む。

 ぶるりと肩が震えた。

 「見つけられたかったのですか…?」
恐る恐る訊いたのは、連だった。
 連の眼には、見る見るうちに怒りが見え始め、今にも巡屋さんに飛びかかりそうだ。

 「見つからないと意味が無いわ。」

まさか、こんな頭の悪そうな子に見破られるなんて思ってなかったけれど。

と、私を睨む。

 「どうして…、かようなことを…。」
また目を閉じて、連が訊く。

 きっとこの後返ってくるのは、私が想像したのと同じだ。
巡屋さんは、まだここにいる誰にも言っていない、想いを抱えているんだ。

 「かいとさんに私だけを見てほしかったのよ。」

かいとさん本人が、大きく目を見開く。

 それを聞いた途端に、連は抑えていた怒りを爆発させた。
 「そんな理由で…!みくさんは死んでしまったのか!!」
巡屋さんに飛びかかろうとする連を、必死に押さえつける。

 「…仕方ないじゃないっ!!!!」

 巡屋さんは声を裏返し、拳を潰れるほどに握り、目を血走らせ、髪を振り乱しながら言った。

 「あの女より前から、私はかいとさんと居るのに!かいとさんはちっとも私のことなんて見てないじゃない!ずっと一緒に居るのに!一度だって私を見てくれたことなんて無いのよ!だからあの女を殺せば、かいとさんは、私だけを見てくれるって思ったのよ!殺して何が悪いのよ!?私にあの女は邪魔者だったんだもの!!」

 息をつくのも忘れているかのように、早口に喋りつづけた巡屋さん。

 そんな彼女を、かいとさんは、人外のものでも見るような眼で、見ていた。
ついさっきまで、頼れる女将さんだった、巡屋さんを。

 息を乱し、私を睨む巡屋さんが、突然畳に突っ伏した。

 我慢の限界になった、めい子さんが、巡屋さんを打った。
目に涙を浮かべためい子さんは、
 「どうして、みくさんを…!こんなの巡屋さんじゃありません…。どうしたんですか!」
と、切実な思いを投げかけた。

 そんな切実さとは裏腹に、巡屋さんはがしりとめい子さんの肩を掴んだ。

 「知ってるわよ。あんたもかいとさんが好きなんだってね?だけど渡さないわ。あんただって殺して、私がかいとさんと一緒になるのよ!!」

 「今の巡屋さんが、どんなふうにかいとさんの目に映っているか、判っていますか?」

 私は、妙に落ち着いた声で、巡屋さんに問う。

 正直内心、怖かった。

 どんな答えが返ってくるのか、想像すらできなかった。

 「そんなことどうでもいいのよ!!みくさんは、死んだ!邪魔者はいなくなったんだから
かいとさんは私を見てくれるにきまってるわ!!!」

 その言葉に私も、怒りを露わにしていた連も、肩を掴まれているめい子さんも、怯えた目で見ていたかいとさんも、静かに話を聞いていた霧岐屋さんも。

 皆が、呆然としてしまった。

 そのうちに、巡屋さんは、狂ったように高らかに笑いはじめた。




 秋の物悲しい空にその笑い声は何処までも響いていった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

緋色花簪

「みくさん殺害編」が完結しました。

次から、最終章に入って行きます。

20話には終わるかな?
って感じですww

 追記

注目の作品に追加されました!
いつも見てくださっていた方、メッセージをくれていた方
本当にありがとうございます!

閲覧数:227

投稿日:2012/05/30 21:25:12

文字数:1,436文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    恋と食べ物の恨みは怖いですねww

    最終章……リンは元の時代にもどれるのか!
    ということかな?ww

    2012/04/26 13:06:39

    • イズミ草

      イズミ草

      しるるさん> そういうことになりますw
            食べ物の恨みは買わないことをお勧めしますwww
            女の人は、怖いっすねww

      来栖さん> ありがたきお言葉ですww
           うわー、こんなに狂っちゃって…。
           って思いながら書いてましたよww

           めい子さんは、良い人にしたかったのでww

      最終章楽しみにしていただけるなんて
      私は幸せ者ですねww

      2012/04/26 17:24:46

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