『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:4


テストが終わり各自評価を書き込んでいる中、演奏を終えた櫂人と拍は先の1番手と同じように打ちひしがれていた。櫂人に至ってはピアノに寄りかかって項垂れており、拍は拍でその場にしゃがみ込んで精一杯その身を隠さんばかりに何事かをブツブツと呟きながら縮こまっている。演奏が終わって皆現実に戻ったのか、どう声をかけようか逡巡していた。
「か、櫂人? 」
芽衣子がさすがに放っとけなかったのか声をかけ、それに続くように漣が櫂人の方へと歩み寄っていった。その後ろでは未来と凛とグミが拍の肩に手を置き必死に宥めかしている。
そんな中、半ば空気を読むなど皆無と言わんばかりに皆の中心に仁王立ち、留佳が箱を持って立っていた。
「さぁ~さ。お次はどいつだ♪ 」
それを受けて振り向いたのは、嫌そうな表情を張り付かせた芽衣子と不安が隠しきれない久美だった。
「・・・あのさ、留佳? アンタも部長ならすーこーしーは周りの意見を取り入れるとかしてもいいとか思わないでもないんじゃない? 」
「取り入れた結果じゃないか。この間『最近普通過ぎてつまんねぇ』とか皆で言ってただろう? さすがにこの時期はテストで気も滅入るし、梅雨明けたと言っても夕立に遭うわ夏休み前だわで心もうわつく様な感じだしさぁ」
「そういえば確かに話しましたね、でも留佳先輩。まさかそれだけでこれ思い付いたんですか? 」
「もっちろーん! なぁに、そんな不思議そうな顔しちゃってぇ~。そんな久美も勿論超絶に可愛いーーーっ♪ 」
「ちょっ、きゃぁーーー!!! 」
留佳は勢い久美に抱きつくと、そのまま体中を撫でくり回して愛でに愛でた。留佳には少し困った性癖があるのだが、その犠牲となっているのは専ら久美。それに対して周りも諦める方向で理解しているので、ある程度のところで皆いつも止める様にしていた。
「先輩、先輩。このままだと次進まないから、早く2人にその箱の中身引かせて下さいよ」
状況を察してか未来がその場を促した。
「ちぇーっ」
ふてくされる留佳は箱を持ち出して3番手の2人の前に突き出す。芽衣子は複雑そうに、かなり躊躇いがちに一枚中身を取り、続いて留佳の腕から解放された久美も若干疲れた表情を滲ませながらヨロヨロと手を伸ばし一枚引いて中を見た。芽衣子は余程嫌なのか、引いてもしばらく開こうとせず、見かねた未来が励ましながらでようやくくじを開いた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「何でよぉーーー!!! 」
部室に芽衣子の羞恥と怒号を入り混ぜた様な悲鳴が響いたのはくじを引いた30分後だった。久美が引いた衣装は『左官工』で白のタンクトップに紺のニッカズボンと下駄。服を着ているというよりサイズの問題もあって“服に着られている”といった印象の方が強い。サイズ的には櫂人が一番似合うだろうが、それを一番背の低い久美が着ているせいもあってだらしない感じの着こなしになってしまっていた。タンクトップの下に元々着ていたキャミソールを合わせているが、これは散々抗議した結果である。
「なーんーでーさー!? 素肌にタンクだろう、それが熱い職人魂の証だろうがよ! 」
「そんな変な証も魂もありません~~~っ! 大体こんな服似合うの男の人以外に誰がいるってんですか!? 」
「知らんっ! でもドS女装男子の秘密の女子高ライフに巻き込まれた残念百合ガールよろしく、「ぽろりもあるかも! 」のあのマイナーな名言の如く私はそれに激しく期待する! 」
「堂々と知らない宣言しないで下さい~っ、そして先輩は一体どんな漫画を愛読しているんですか!? それにそんな漫画にありがちな昭和なハプニング表現も要りませんよ! 」
「古くさいとは失礼な! これは漫画歴史に残る名シーンじゃないかっ。それを言ったら庶民に広く親しまれている魚一家の妹はどうなるというんだ!? 」
「知りませんよっ、海に漂ってる海藻のことなんて!! 」
実に下らない言い合いが繰り広げられた末に久美のキャミソール着用は許されたのだった。一方芽衣子はというと、これはまたマニアックながら内容は『コマガタユミ』と書かれていた。彼女達の世代の作品ではないが、10数年前に某有名週刊少年雑誌で掲載されていた明治剣客ロマンなお話からのキャラクターである。時を経て今度実写映画の運びになり、宣伝されているのは記憶に新しい。どうもそれを見て留佳は現在発売されている完全版を全て読んだらしい。キャラクターのモデルとなったのは海外でも人気な印籠を持った老人のドラマに出てくるお色気くの一役の人だと言われている。そしてこれは実際にコスプレイヤーやオタクの間での常識と思われるが、この『コマガタユミ』の服は実際着込むには決して有り得ない無謀さを誇ることで知られており、案の定、芽衣子も実際のモデルとは違う着方をしていた。
「全然違うじゃないかっ。もっとこう・・・肩をはだけさせてだね・・・」
「ちょっ、やめなさい、やめろってば!! 」
「好い胸してんだから少しくらい見せたところで減りはしないさ」
「私の心は磨り減るのよ! 大体キャミは紐があるからキャラの服と合わないとか訳解んないこと言ってブラの紐も取り外したのはアンタでしょ~~~っ! 」
着替えに30分要したのは実にこれが原因。同じ部室内で一応着替えは別に仕切りを立てて設けているが声までは遮れず、男性陣はさすがに所在無さげにどうしたらいいのかとあらぬ方向へ眼を背けていた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

そんなこんなで些細な争いが繰り広げられた後、ようやくセッションする運びとなった。3番手の2人が演奏するのはスカで東京スカパラダイスオーケストラ『Pride Of Lions』という曲だ。このスカバンド特有のメロディーラインにKEMURIのメンバーを1名ゲストボーカルに迎えての楽曲で、これから始まる夏の季節に似合う爽快感溢れるアップテンポな仕上がりとなっている。
CD音源に合わせて2人のセッションは開始された。出だしのカウントからすぐに入る引くめの重音、ラストに続くキーボードのしなやかな流れがまた曲の良さと雰囲気を最大限に生かしている。芽衣子のベースを最初に久美のキーボードを足して旋律を乗せていく。この曲自体バンド形態に近い為、2人の演奏する楽器も中で多く奏でられていてテンポも速い。故にアレンジは少し難しい。
「・・・ねぇ、漣。芽衣子先輩大丈夫かなぁ」
「それをボクに聞かないでくれよ。正直言って今かなり目のやり場に困っているんだけど」
「やーい、漣のスケベー」
「大いなる誤解だ」
2人の演奏は曲を忠実になぞる様に進み、若干のアレンジを探り探りで冒険しながら奏でられていく。それを見聞きしながら双子が話してる内容は他のメンバー(留佳を除く)も気にしていることだった。ベースを肩から下げるベルトが着物を少しずつずらしているのだ。芽衣子も気付いているらしく、それ以上ならない様に細心の注意を払いながら必死に演奏に集中していた。ただ一心に最下位にはなりたくないがための危機迫る感じが何とも言えない雰囲気を出している。皆が固唾をのみながら演奏に集中、楽曲自体はとても心躍り場を盛り上げるもののはずなのに緊張感だけがその場を支配し始めていた。デッキから流れる音源がラストのフェードアウトに差し掛かると、芽衣子はすぐに久美の方へと向きアイコンタクトする。決して急がず、曲のしめを壊さない様に気を配りながらタイミングを合わせてジャァンッと余韻を少し響かせる感じで演奏を終えた。
終わった瞬間、他のメンバーからは心からの安堵の吐息が漏れたことを2人は知らない。安心しているメンバーの横で1人、留佳だけが心底つまらなそうに口を尖らして拗ねていた。

to be continued...

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • オリジナルライセンス

『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:4

原案者:Keiji Imamura Black(七指P) 様
お預かりした設定を元に書かせて頂いております。
拙いながらではありますが、楽しんで頂けたなら幸いです

さて4話目
原案者様からのご指摘も加味してちょっとどうにかしてみた回
どんな感じになっているか不安しかねぇや;
ちなみに作中に出ている漫画作品は『○りあ○りっく』『○ろうに○心』『サ○エさん』
さすがに著作云々の事を気にして直接的には書けず
というかこの作品を知ってる人がどれだけいるかの話にもよるけどね(笑
そして今回、自分が「あぁ、こういうところが苦手なのか」という描き癖が解った気がする~(気だけ
内容に集中し過ぎて校正があまり出来てない、読み返しはしたけど未だ少し文章に不安が残る
そんな感じ( ̄皿 ̄)

閲覧数:121

投稿日:2012/06/24 01:09:24

文字数:3,245文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました