ある日、王子さまは病気になりました。
とてもおもい病気でした。
国中からたくさんのお医者さまがあつまりましたが、だれも治せません。
妹のお姫さまは、まいにちまいにち神さまにおいのりをしました。
しかし、王子さまの病気は治りませんでした。
目を覚ますと、太陽が既に真上を通り過ぎて西に傾き始めていた。
ぼんやりと今朝の事を思い出してみる。
今までの自分の日常からかけ離れた出来事が多過ぎた。
あれは夢だったのではないか、そんな考えも過る。
「…いや、夢じゃないな」
机の上に置かれた壊れた歯車が、陽の光を反射した。
それは全て現実であると主張するかのように。
ロックは歯車を手に取り眺めてみた。
劣化し、欠けてしまってはいるが質は良い。
恐らく高硬度素材が使われているそれを、手を抜かずに端々まで仕上げてある。
今ではこれらの素材を加工することも、作ること自体も難しい。
「やっぱりスミレは旧時代に作られたのか」
科学技術が全盛を誇った旧時代。
アンドロイドも珍しくなかった当時であれば、スミレの様な人間と変わらぬ人形を作ることも不可能ではないだろう。
「人形、か」
そう言えば、スミレの着ていた服は少し変わっていた。
もっと昔の衣装にアレンジを加えたような。そう、先日自分が作った舞台の衣装にも似ている。
旧時代の一般的な服装はとは違う物だ。
その辺りは確かに人形らしい部分かもしれない。
疲れた体を再びベッドに横たえて、ロックは今朝のことをもう一度思い返した。
動けないらしいと分かった後、明るい陽の差し込む場所へスミレを運んだ。
動かない彼の腹の中を探りざっと確認をしたところ、原因は中枢にある歯車の劣化であるらしいと分かった。
内部に堆積した塵や埃も、各部品の動きを邪魔している。
しかしこれなら、内部をクリーニングして新しい歯車に取り換えれば良い。
『ロチェスター…わかった…?』
『何とか、俺でも直せそうだ』
そう、微笑みかけてやるとスミレは少しだけ目を丸くした。
『ロチェスターが、直して、くれるの…?』
『ああ、何とかなりそうで良かった』
『…どうして』
今度はロックが目を丸くした。
『どうしてって…。このままにはしておけないだろう?』
『…ロチェスター、前にも僕と会ってる…?マスターのお友達…?』
どうにもスミレの言いたいことがわからない。
『いや、スミレと会うのは初めてだし…。多分、そのマスターとも会ったことは無いな』
『……初めて会うのに、どうして直してくれるの?』
スミレの問いにロックは返事に困った。
どうやら彼は、ロックが自分を助ける理由を問うているらしい。
『…放っておいたらスミレは動けないままだろう。そんなの嫌じゃないか』
『僕が、動けないままだと、ロチェスターが嫌なの…?』
『ああ。だから放っておきたくない』
『………ロチェスターって、変な人』
スミレが首を傾げた。
少々、脱力した。ここまでのやり取りの感想が“変”とは。
『まぁ、確かに昔から変わってるとは言われるけど』
『ふうん、じゃあロチェスターって、やっぱり変なんだ…』
『スミレ…』
思わず苦笑いが浮かんだ。
ロックは昔から人と違う物に関心が引かれるところがあった。
時代遅れとも言われている服職人の道に進むと言ってから、何度「変わっている」と言われたか分からない。
変わっていると言われ慣れてはいる。
悪意などが全く無い分、スミレに何度も言われるのは堪えるが。
不意に、窓から見えた太陽の高さに気が付いた。
余り村にいないと、この北の山に来ていることがばれてしまう。
『ああ、もうこんな時間か。帰らないと』
『…ロチェスター、行っちゃうの?直してくれないの…?』
少しだけ、スミレが悲しそうな顔をした。
その髪をそっと撫でてやる。自分よりも明るい水色の髪だった。
『ごめん。歯車も一から作らなきゃいけないから、すぐには直せないんだ』
『………また、来る?』
『ああ。大丈夫、また来るよ』
そして、スミレを館の一室のベッドの上に横たえた後、ロックは村に戻ってきた。
人の目を掻い潜るのには随分苦労したが。
次に行く時は、時間や人の行き交いにもっと気を配る必要がありそうだ。
「……スミレ、今頃どうしてるかな」
去り際に浮かべていた彼の寂しそうな顔。
スミレが旧時代の生まれとなれば、少なくとも百年以上はあそこに住んでいることになる。
あの館でどれだけの時間を一人で過ごしていたのだろうか。
「明日の夜に、また行こう」
放っておきたくない。
彼の歯車を見詰めて呟いた
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