全て仕方のないことだ。
その一言で、全て片付いてしまう

今年でそろそろあの地を出て2年が経つ

地方の国立大に進学し、サークルにも入り新しく友達も作りそこそこの充実感を得てもなお引っかかってやまないものの正体は気付いている。

でも私はその感情に向き合うつもりは無い。
というか向き合いたくない。直視したら怪我するのが目に見えているからだ。

なんで今更、

充分に寝たはずなのに何故かぼーっとする頭を紅茶で覚ましながら思考をいつもより無防備に辿る

事の発端はルカだ。
ルカが無事あの紫髪とくっついたというのは当人たちから聞いて知っていたが、そんな順調に幸せなルカと先日スマートフォン伝いに近況を報告しあったときにルカからあいつの名前が飛び出たのだ。

『メイコ、そういえばカイトのこと知ってる？』

あの時以来頭の中に名前だけは浮上させないようにと努めていたその人の名前を、もう時間も経ったからなのかいとも簡単に口から紡いだルカにはなんの罪も無い。

『私もがっくん伝いに聞いたからあんまりよくわからないんだけど、今期待のアーティストとしていろんなところで注目されてるらしいよ』

「そうか、あいつ夢叶えてるんだ。すごいね、さすが始音だ。」

『だよね〜もしかしたらそのうちWステとかで期待の新人！みたいな感じで出ちゃったりするかもね』

会話はそれだけで、すぐ他の話題に移っては驚きあったりというやりとりをいくつか交わしたが、思いがけなく聞いたあいつの近況は直視する気の無いずっとひっかかってやまないものをここ数日ずっとしきりに触れてはかき乱す。


もう私とあいつは違う人だ。

きっと二人の人生は2度とすれ違わない。


このふたつはほとんど確信に近いものだ。というか、そう思い込まないとどうにもならない。

今でも本当は…なんてそんな後出し勝負出来るわけないし、第一もう顔を会わせる事もきっと出来ない。二人で笑顔を咲かせながら会話をすることもきっと無い。

ああ少し頭が痛くなってきた

それでもその奥の記憶を辿っていく

私たちのどうしようもない溝の原因を


〈そういうのじゃないんだ、ごめん〉


今思えば本当に些細な歯車の乱れ、それだけだった。
だけどそれさえ堪えきれなくて、あとは嘘みたいに崩れて。

もうきっと元には戻れないなと思う程に

……ゆるゆると意識をこれ以上深くまで落ちていかないように思考の渦から引き上げる
「〜たら」とか「〜れば」とか結局は何の発展性も無い過去への叱責に行き着くだけだ。

そんな怪我負いたくは無い。

眠気覚ましの強めの茶葉を淹れたカップをまた傾けて、もうとっくに飲み終わっていたことに気付く。
まだ頭はふわふわとしていて、これはもうシャワーでも浴びないと駄目そうだ。

視界に入ったカレンダーの日付を見て、そろそろ”誰か”が生まれた日だなぁ、なんてまた考える

そういえば”誰か”の18歳の誕生日は祝えなかったな

……考えたらきりがない。


携帯で時間を確認する。シャワーを浴びるくらいの余裕はあるだろうか。

瞬間に息が止まる。


【Mail from : 始音海斗】




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