メインストリートでは大型バイクに通行規制が掛けられているため、遊歩道を押して歩く。KAITOに主電源を落とされて静かになったフロートボードの方は、当然のごとくレンが抱えていた。
「結局、そのフロートボードに関しては収穫なし、か」
解ったことといえば、内蔵PCのメモリに膨大な数のパスロックが掛けられている、ということだけ。
『これは…ちょっと、普通じゃないね』
「どういうことよ?」
『たかがフロートボードにこんな厳重なロックが必要なんて、聞いたことないからね』
「つまり、この持ち主は…」
『うん。もしかしたら…“上層”の人間と関わっているのかもしれない』
「……ン、リンってば!!」
「…え?」
レンの呼ぶ声で我に返った。いつの間にか細い路地に入ってしまっていたらしく、辺りは人気もなく閑散としている。その路地の奥――レンの見詰める先には、リンにとっては既に見慣れた光景が広がっていた。
行く手を塞ぐ様に広がった黒い影。狩られることもなくかなりの時間を過ごして来たのだろう、その身体は大半が溶け崩れ、もはや殆どイキモノとしてのカタチを成していなかった。
「なんだよ、これ…」
鼻を衝く異臭。まるでこの世のものとも思えない、死を連想させるような臭い。猛烈な吐き気を覚えて、レンは思わず口許を覆った。
「ほんと…何度見ても、こればっかりは慣れないわね」
既にショットガンを構えているリンが、まだこちらに気付いていないらしいモンスターに念入りに狙いを付けてその引き金を引こうとし、
「…ちょっと待て!!」
その視界は、銃口の前に飛び出したレンによって遮られた。
「ちょっと、アンタね!!いったいどういうつもりで…」
「やっぱり…人だ!!人が居る!!」
「えっ!?」
レンが指差すのに釣られて見上げた先に、一瞬、淡い緑色をした何かが閃いた。
「髪だ」
言うなり、手にしたフロートボードを投げ棄てて走り出していた。
「…っ待ちなさいよ、レン!!アンタ、素手でどうやってやり合うつもりよ!?」
反応に取り残されたリンが、背後で悲鳴に近い声をあげる。しかし、今のレンにはリンの悲鳴も、レンへと牙を剥いたモンスターの咆哮も、何一つ届いてはいなかった。
緑色の
淡い、緑の髪。
「お前なんかに、喰わせてたまるか…っ!!」
焦燥に任せて振り上げた拳。だが、それより早くモンスターの腕――崩れた半身から生えた触手のようなもの――がレンの身体を薙ぎ払っていた。
「…ぐはっ!?」
背中から、路地の壁に叩き付けられる。想像を絶する痛みに意識が明滅した。ぐらり、と身体が傾く。そこへ、鋭く放たれた触手の第二撃が、
「―っ!?」
思わず目を閉じる。暗転した世界に、訪れるはずの衝撃はいつまでたっても訪れない。
「馬鹿レン!!まったく…何やってんのよ!!」
レンが投げ棄てたフロートボードを盾に、リンが立ちはだかっていた。圧倒的質量を両腕で受け止めて、踏み締めた脚は細かく震えている。
「リン…!!」
「助けたい気持ちは解る。だけど、アンタが死んだら元も子もないでしょうが!?」
それは正論だ。レンはぐっと唇を噛み締める。
そのとき、リンの足がずるりと滑った。咄嗟に踏み留まるも、女の細腕では限界も近かった。
「…っ、さすがに、これ以上は無理ね」
「ゴメン。俺のせいで…」
「そんなのはあとでいいから!!…レン、あの子を助けたいんでしょ?」
モンスターの頭越しに、力なく垂れた腕。髪は、既に飲み込まれて見えなくなっていた。
「手遅れになったんじゃ、わたしがここまで身体を張った意味がないじゃない」
リンの表情には何処か、確信めいたものがある。
「いい?合図で、わたしがフロートボードの主電源を入れる。アンタはそれに乗って…助けに行きなさい」
くい、と顎で空を示す。確かに、フロートボードでなければあの高さには到達できないだろう。
助けたいのならば、やるしかないのだ。
「解った」
レンは短く、それだけ返した。
「…いくよ」
リンの指が、フロートボードの主電源に触れる。青い光が点り、エンジン音が振動となって伝わる。
「レン、行って!!」
手を離した途端、それは真横に弾き飛ばされる。それを追ってレンが跳び、反対側へリンが跳躍する。勢い余った触手が壁を抉って、もうもうと土煙を立てる。その煙幕を振り払って、フロートボードは一瞬の内に空へと跳ね上がった。
レンを乗せて。
「うおっ、たっけぇな……」
地上を見下ろして、あまりの落差に眩暈がした。フロートボードは目標と間合いを取るように、ゆっくりと旋回する。遥か下方に、どす黒く広がる異形のモンスターと、僅かに覗く白い腕。
「間に合ってくれ…!!」
祈るように呟いた。
滞空から、一気に垂直降下へと切り替える。ゲーム世界にでも重力という概念は存在しているようで、物理法則に従い加速していく。
***
地上では、ショットガンの発砲音が断続的に響いていた。衝撃がモンスターの下腹を削り取っていく。硝煙にうっすらと視界の曇った路地を、がむしゃらに振り下ろされる触手を避けては撃ちまくる。一つとして致命傷には到っていないものの、今、モンスターの注意は完全にリンに向けられていた。
「そう、いい子ね。よく解ってるじゃない。そうやって、アンタはわたしだけを見てればいいのよ」
ジャコン、と音をさせて次弾を装填。醜くのたうつモンスターを前に、リンは不敵に笑って見せたのだった。
【ラノベ化企画】サイバー・サバイバー【4】
巨大モンスターの猛攻。淡い緑の髪。何者かも解らない誰か。
それでもレンを突き動かす、衝動の正体は―
***
ふわぁ、眠いですね。
徹夜してしまいましたやましぃです。
眠いのでもう寝ます。
みんなはゆっくりしていってね←
***
SPECIAL THANKS
SHIRANOさん
http://piapro.jp/t/d2yz
コメント1
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vocal・chorus: 鏡音リン・レン
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瓶底眼鏡
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ボス戦ktkr!!めちゃくちゃテンションあがってしまったんですがどうしてくれるんですか!!←
なんてこったレンが急にイケレンに←
そして相変わらずかっこいいリン様←
緑の髪の……まさかレンの幼なじみだとでも!?これは次話が気になって授業に集中できませんな……
お疲れ様です!十分に休息をとられて下さい!!
2011/07/11 07:13:57
人鳥飛鳥@やましぃ
テンションあげてしまってスイマセン!!←
しかし、こんなのまだまだ、中ボスみたいなもんですから^^
本当に恐いのは、モンスターなんかじゃないってことですね。
授業には集中してくださいね!!←他人のことを言えた立場ではない
2011/07/12 01:31:40